DAYS

チャット

瞬子は久しぶりにメッセンジャークライアントを起動させた。
たまには使わないとメンバーに忘れ去られてしまう。
作業は区切りがいいところまで進んだので心置きなく会話に参加出来る。
小さな縦長のウィンドウにオンラインのメンバーが一覧で表示された。
同時に会話ウィンドウが開きテキストメッセージが届いた。
「久しぶり」
絵描きの友人だった。
昔、瞬子が活動していたジャンルでSSの挿絵をお願いしたのがきっかけで今でも交流がある人物だ。
性別も年齢もわからないが彼女の数少ない友人の一人だった。
「久しぶり、とろん」
「ほんっと久しぶりだなぁ、3ヶ月ぐらいか?」
メッセージがすぐに返ってきた。
「4ヶ月ぐらいかな」
「ということは順調だったのか」
「うん。とろんは?」
「こちらも順調だよ。この前のオンリーもまあまあ売れた」
「少し残ったんだね」
「委託すれば片付くだろうし、多少の赤字は覚悟の上さ」
ととろんは饒舌だ。
「しかし、めっずらしいなあ」
「私がオンラインになったのが?」
「せっちゃんがオンラインってことは明日は雨か」
「落ちるよ」
「それは寂しいなあ」
本当に寂しいだろうか、と瞬子はとろんの気持ちを読もうとするがわからなかった。
昔からずっとこんな調子だ。
人がどんな話をしても軽く受け流す。
受け流してはいるが、しっかり受け取ってもいるらしく、そういえば昔、こんな話があったよな、と話した本人が忘れていたことを話題にあげてきたりもする。
「せっちゃんもよく書けるなぁ」
話が突然変わった。
「何が?」
「文章」
続きの文章を打ち込んでいるらしく、会話ウィンドウの下に入力中と表示されている。
数秒の間をおいて、
「俺には、難しい」
「私に絵は簡単だ。やればできるって言っていたのに」
「文章ばかりはなかなか目に見えないから難しい」
「目には見えていても絵は難しいよ」
「この会話自体が難しくそうでなんだな」
「こういう話は楽しいから」
「それにネタになるわ」
「それ、私のセリフ」
「だよなぁw」
ディスプレイの前でとろんも笑っているといいな、と瞬子は思う。
「わりぃ、飯作らないといけないんだった」
「夜食?」
「いや、妹の夕飯」
「わかった。引き止めてごめんね」
「飯作るの忘れて話しかけたこっちのせいだから気にするな」
「ありがとう。また今度ね」
「あいよ。またなぁ」
とろんのステータスがオフラインに変わる。
瞬子はメッセンジャーをつけたまま、テキストエディタを開いた。
のんびりと作業を再開する。
話せてよかった、と思いながら。