DAYS

自転車を走らせる少年を少女は空から追いかける。
アスファルトはところどころ破れ、土が顔をのぞかせていた。
少年は土やコンクリートの破片を器用によけながらペダルを漕ぐ。
その様子を見ながらなんて声をかけようか、少女は悩み、声をかけられずにいた。
沈黙の中、二人は道を進む。
少女が意を決して何か言おう、とした瞬間に視界が開けた。
右手にあった山肌が姿を消して、湖が現れたのだ。
山の中に湖があること自体はおかしくない。
しかし、
「丸い、ですね」
湖の形は真円に近い形をしている。
自然にできた湖ではなさそうだ。
その不自然さに少女は寒さ覚えた。
不意に少年がスピーカー越しに、
「爆心地なんだ」
と応じた。
「爆心地、ですか」
「物質情報変換の実験に失敗した話があるだろう?」
「はい」
物質を直接、情報に変換してサイバースペースに転送する技術の実験中に装置が暴走し、施設の周辺数kmを何処かに消し飛ばした事故があった。
その道の勉強を知っている者には有名な話だ。
少女は専門ではないが友人から聞いて覚えていた。
「それでできた湖だよ。本当は実験施設と小さな街があったんだ」
「ここは移動が大変ですしね」
研究員とその家族が生活するための場があったのだ、と少女は理解する。
「それが事故で消えたんだ。ほんの数分でね」
少年はまるで自分が体験したかのように語るが真意は掴めなかった。
言葉が見つからず、湖に視線を移すと先よりもずっと、冷たく、深いように見えた。