Feathery Instrument

Fine Lagusaz

特殊戦の焼肉

七輪の中では赤く光る炭があり、その上には網があり、網では肉が焼けている。
「狂っているわけじゃない」
と零と七輪を挟んで反対側に座る桂城。
「ユーモアや遊び心は大事だ。ジャムには理解できない要素だ」
と零の隣席のブッカーはカルビを食べながら言う。
「特殊戦は変わったわ」
と桂城の隣に座るエディスがもっともらしくいう。
零はため息を烏龍茶で飲み込む。
確かに変わった、と実感しながら。

そこそも、焼肉がはじまったのはブッカーの思いつきだった。
知り合いに焼肉屋の店長がいる。
いい肉が手に入ったので皆で食べて欲しい、と言われて、それなら特殊戦のメンバーで食べよう、とブッカーが言ったのを零は覚えている。
特殊戦の人間は飲みに誘ってもこない、と反対したはずだった。
「零、これの目的は肉を食べることだ。話すことではないんだ」
ブッカーは真面目な顔で言った。
「人と話さなくても肉は食える」
それはもっともな意見だと零は頷いた。
「必ず生きて帰ってくる、ではなく、必ず肉を食って帰ってくる、だ」
「なるほど。気楽なミッションだな」
確かに気楽なミッションではある。
肉を焼いて好きなだけ食べるだけなのだから。
ただ、フェアリィ基地の地下にこんなお店があるとは思ってもいなかった。
そして、上司のおごりで肉を食う日が来るとも思ってはいなかった。
零は焼きあがった肉をちゃっかり、自分の皿に乗せ、ブッカーに乗せられた野菜とあわせて食べる。
肉と野菜のハーモニーを堪能してからゆっくりと嚥下する。
ほかにも幾人か特殊戦の隊員の姿が見える。
一人で肉を淡々と焼く者。
複数人で肉をいかに効率よく焼くか議論する者。
肉の焼き加減を探求する者。
テーブルごとにそれぞれ異なる動きがあった。
「……」
ふっと息を吐いて零は自分の卓に目をやる。
相変わらず、桂城は自分のペースで肉を焼いている。
ブッカーが箸を伸ばそうとするのをトングで牽制する。
「おいおい、おれは上司だぞ」
「この場では関係ありませんよ。それに肉は焼いた人のも」
さっと箸が網から肉をすくい上げる。
エディスだ。
「まわりに興味がない。どこかの誰かにそっくりだわ」
どこかの誰か、とはおれのことだろう、と零は理解するが何か言うと癪なので何も言わない。
ブッカーの焼いていたホルモンを一切れ、拝借してエディスの皿の上に乗せてやる。
「これは……?」
「食べればわかる」
「実戦が好きなのね」
エディスは何のためらいもなくそれを食べた。
しばらく噛んで、こりこりとした食感と戦い続け、戦い続け、ようやく嚥下してから、
「何、これ」
「消化器官の一部だ。独特の歯ごたえが特長だよ」
とブッカーが代わりに解説をしてくれた。
「直接、食べるのは考えていなかった」
期待したほど驚きはしなかったが、動揺に近いリアクションが見られたので零は満足した。
そして、桂城の空いたグラスにビールを注いでやった。
「中尉?」
「日頃の感謝だ、というやつだ」
「あなたの腕は信用してますよ。ビールの注ぎ方は下手ですが」
言われた通り、ビールは泡立っていない。

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