Feathery Instrument

Fine Lagusaz

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title:in my dream

静かに白い妖精の降り立つ場所。 そして僕と雪さんしかいない二人の世界。 頭をなでてくれる手は冷たくて優しい。 「お休みなさい、透矢さん」 「雪さん・・・・おやす・・・み」 ゆっくりとまぶたが重くなってくる。 微睡みに身を任す。 意識がゆっくりとしたリズムに変わって行く。 静かに沈むように、ゆっくりと。 目を開けたらあの笑顔がある・・・・。 消えてしまうなんて絶対にない。 そう・・・・・絶対・・・・・。 ・ ・ ・ けたたましい目覚まし時計の音に殴り起こされる。 けだるい体を起こすと外では白い雪が静かに降っていた。 少しだけ顔を出しまた布団に潜る。 物音ひとつしない家。 僕しかいない・・・・。 何処にいても雪さんには会えない。 雪さんがいなくなっていろんなところを探した。 見つからなくて悲しかった。 嫌な記憶がフラッシュのように現れては消える。 みんなが止めてくれた・・・・みんな? 誰なのだろう。 名前も顔も分からない・・・・なのになぜ「みんな」と言ったのだろう。 顔しか出てこない・・・・名前は? 雪さんのいない夢なら消えてしまえ。 ・ ・ ・ 「もう、お目覚めですか?」 「ぅうん、もう少し・・・・」 「ふふ・・・・お好きなだけどうぞ」 その微笑みがそばにあることに安心しながらまた微睡みに身を任す。 ・ ・ ・ ゆさゆさと優しく揺すられる。 誰かの呼ぶ声が聞こえてきた。 「・・・・ん」 もう少しこの微睡みに身を任せていたい。 顔に触れる鋭利な冷気から逃れるように布団の中へ・・・・ 「透矢さん、学校に遅れてしまいますよ」 その声に事態をやっと飲み込み顔を外に出す。 「あ・・・・っと。おはよう、雪さん」 凍てつくような寒さに身震いし窓越しの空を見る。 静かに雪が降り注ぎ大地を白に塗り替えていた。 「食事の用意は出来ていますから」 そう言い残し部屋を出て行く雪さん。 扉が静かに閉じてから制服に着替え食卓についた。 夢の話をすると 「二人でずっと一緒にいられれば良いですね・・・」 と言って顔を赤く染める雪さん 見ているこっちも恥ずかしくなったところで花梨がきた。 ナイスタイミング。 今日はいつもより早く来ている。 「雪が降っているからかな」 思ったことがそのまま口に出た。 それが雪さんにも聞こえたらしい。 「どちらの『雪』ですか?」 「いじわるなこと聞かないでよ」 「いえ、その・・・・」 あの勝てない顔をされ戸惑う前にカバンをひったくって玄関へ走った。 「いってらっしゃい」 「うん、いってくるよ」

小さく手を振る雪さんに見送られがらっと扉を開けると花梨の顔がすぐ近くにあった。 「か、花梨・・・・おはよう」 思わず一歩下がってしまう。 「朝から熱いね~」 「そ、そういう冗談は良いから」 「早く行かないと遅刻しちゃうよ」 勢いよく雪の上を走りだす彼女の背中を追いかける。 夏のあの光景が嘘のようだ。 逆に言えば冬のこの光景が夏には嘘のように思える。 「いつもよりはやいんだから大丈夫なんじゃ」 「結構、時間かかるんだからはやくはやく」 クルッと向きを変え駆け出そうとする花梨。 「あ、待ってよ。それに急ぐと躓くよ」 「和泉じゃないんだから・・・ぁ」 バランスを崩す花梨をぎりぎりで支える。 「ほら・・・・」 言ってるそばからやってくれた。 思ったより軽く柔らかくて驚いた。 「あ、ありがとう」 顔を赤らめぷいっと横を向いてしまう。 かわいいなんて思いながら一緒に走りだす。 雪を全身に受け白く凍てついた息を後ろに流しながら学校へ走る。 ・ ・ ・ 『ああ、僕にはみんながいたんだよね。ずっと忘れてた』 ・ ・ ・ 「夢は・・・・どうでしたか」 雪さんの向こうに見える青い空がとても悲しく見える。 今まで心地よく映ったのにどうしてだろう。 答えはでていた。 雪さんがいて僕がいてそれで良かったんじゃないのか。 でも何かが足りない。 「花梨にあったんだ」 目の前の整った顔が強ばる。 「・・・・」 「ここで雪さんと一緒にずっといられれば良かった、そう思っていた」 だけどここには二人しかいない。 何かが足りない。 足りないのは・・・・・ ほんの少し前は顔は出てくるけど名前の出てこなかった人達。 でも今なら思い出せる。 花梨や和泉ちゃん、庄一や牧野さん。 僕と一緒にいてくれた人達。 そして僕を引き留めてくれた人達。 僕はそれを振り切ってここまできた。 後悔なんてしないとずっと思ってた。 雪さんがいればそれで良かったはずなのに今は違う。 「でも、もうここにいちゃいけないと思うんだ」 「・・・・・さようなら、透矢さん」 波の音が聞こえた。 目の前の世界が揺らいで行く。 まるで波紋のように僕らを中心にして揺らいで行く。 「さよなら、雪さん」 その言葉は雪さんに届いたのだろうか。 ・ ・ ・ 痛む頭を起こすとちゃぶ台に突っ伏していたらしい。 意識の焦点が夢から現実に合ってきて何をやっているのか思い出してきた。 分厚い国語の教科書を枕にしながら。 鬱陶しい蝉の鳴声が当たりに響いている。 「あ、起きたか」 横で教科書を眺めていた庄一が笑う。 「和泉ちゃんといい、お前らは少し危機感を持てよ」 横の方で静かに寝ている和泉ちゃんに目を向ける。 そういえば昔もこんなことがあったかもしれない。 「悪い」 「まぁ、良いさ。赤点取るのはお前だしな」 ニヤリとしながらきついことを言う。 「だったら勝負しよう」 「わたしもやるよ」 「花梨も入るのか。負けた奴は・・・・全員にアイスを奢る、でどうだ」 「わはー、アイふぐっ」 ばすっと異様な音と共にぴくりとも動かなくなった。 庄一、もう少し手加減した方が良いよ。 「なら私も入りますよ」 目の前に座っている雪さんも入ることになった。 「雪さん入られると厳しいねぇ」 「学年1位、2位を争う成績だもん」 「その分、張り合いがあるでしょう?」 「教科は決めないで総合だよね」 「まぁ、それが良いな」 「こっそり和泉もいれようか」 「花梨、それは酷いと思う」 「和泉も参加決定!」 花梨の大きな声に和泉ちゃんが目を覚ます。 当たりを見回しきょろきょろとしている。 和泉ちゃんを見て自然とみんなで笑ってしまう。 なんだかわからないけど和泉ちゃんもつられて笑う。 その光景のなかに僕もいる。 まだ記憶は戻らない。 弓もひけなければ記憶を無くす前の僕として期待にこたえることはできない。 だけど僕はみんなと一緒にいたい。 昔のことは何も分からないのにそのことははっきりしている。 なんだかわからないけどみんなと一緒に歩いて行けば何か見つかる。 そんな気がする。

2003 11/24

完全版。 文化祭で印刷した冊子のものを少し書き換えたもの。 このSSは何回書き換えられたのでしょうね。

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