「……誰だお前」
「有り体に言うと死神です」
「わー、わかりやすい美少女死神だ」
「身も蓋もないですね」
「だって死神来たってことは俺もうすぐ死ぬんだろ? もう終わりだぁっ」
「気が早いですねぇ。当面は先ですよ」
「はい?」
「今のあなたの魂を刈ったところでポイントが……」
「魂にポイントって嫌な響きだなー」
「幸福であればあるほどポイント高いんですよ。業績に繋がるんです」
「あーあー何も聞こえない。オカルトが世知辛いとか世も末だ」
「ずっと末法ですよ」
「そういう話じゃねぇよっ!」
「それでですね」
「人の叫びを聞け」
「話を続けます」
「俺の話はー?」
「質疑応答は終わってからお願いします。ええと、このままだとポイント稼げないのであなたには幸せになってもらいます」
「で、なんだ、幸せになったら刈るのか」
「それだとダメです。生きている間の累計ポイントなので幸せいっぱいに生きてもらわないと」
「また、気の長い話だなぁ」
「長くても向こう100年ぐらいですよ。私達にとってはあまり長くないですし」
「ふむ」
「焼き肉が焼けるのを待つような感じです」
「あー、俺は焼かれる肉か。大事に育てられる焼肉か」
「そうです。そして美味しく食べられてください」
「……勧誘下手だな」
「わかりやすい説明が大事なんです!」
「だが、断る」
「そんなあなたの好みを調べてこの姿にして、言葉も選んだのに!」
「調査を最初っからやり直せ! だから、お前は阿呆なのだァッ」
「うぅ、酷い」
「そもそもだな。どこがどう死神なんだ。証拠は?」
「じゃあ、試しに魂を抜いてみましょう」
「誰のだよ」
「あなたのを少し引っ張るだけです。たまに失敗してごっそりいきますけど、たまになので大丈夫です」
「ちょ」
「お花畑見えたりして気持ちいいそうですし、ほら、ほらー」
「ひぇぇ」
「どうです。なかなか良かったでしょ」
「死ぬかと思った……」
「あー、今のでポイント下がりましたね」
「お前は布団の悪質な訪問販売か!」
「補填はしますよ、補填は。ほら、お試し期間も兼ねて」
「あー、バールで殴りたい」
「まだ、チェーンソーのほうが」
「実家に戻るのだるい」
「ということで! 一週間ほどお試し期間です!!」
「部屋狭いんだから邪魔するな、マジで。あと壁薄いから騒ぐな、マジで」
「そうですか。じゃあ、もう少し静かにしてます。……こんな感じですか?」
「宇宙に放り出してやろうか、まったく。黙ってりゃ好みなのにな」
「?」
「何でもねぇよ」
「それでだな」
「はい、なんなりとー」
「俺、夜勤なんで寝ていたいんだが」
「では、一緒に――」
「テンプレだな」
「お好みではありませんか」
「果てしなく」
「じゃあ、果てしなく激しく!?」
「いや、おとなしくしててくれ」
「はい」
「今日は休みなんですね」
「カレンダー見とけ」
「いいって言われてないのに見るのはちょっと」
「いいと言ってないのに人んち押し入った癖によく言う」
「ご飯作ったので許してください」
「胃袋掴めば勝てるとでも思ったか」
「食事は大事ですよ、生活の質を高めるために」
「休みの日は何をして過ごすんですか?」
「溜まった洗濯物片付けたりだな」
「そうじゃなくて、趣味とか遊びですよ」
「ゾンビ撃ち殺すゲーム」
「あ、想像するだけでもめまいが」
「暴力は苦手か」
「魂の回収のことをつい考えてしまうので」
「職業病か!」
「だって、ゾンビになって大暴れするんですよ。回収する量は多いのにポイント少ないなんて仕事損じゃないですかぁっ」
「命の重さは地球より重いというではないか」
「命なんて重くないです!」
「お、おう」
「すみません……つい」
「仕事はな、しょうがないな」
「我慢します」
「人いるのに一人でゲームもするのもな」
「人じゃないですけど」
「細けぇこたぁいいんだよ。買い物いくぞ、生活物資を確保だ。他人に見えないとかないよな?」
「普通に見えますよ」
「よし」
「何が良しなんですか?」
「独り言になってたら嫌じゃねぇか」
「そこは配慮してますから大丈夫です」
「何がどう配慮されているのかよくわからないんだが?」
「今度、資料を持ってきます」
「試用期間とか言う前に資料欲しかったなー」
「私達、どう見えるんでしょうね」
「よくて親子じゃないか。兄弟はないだろ」
「夫婦とかは」
「却下だ、却下」
「ほら、夫婦だと寿命が伸びるといいますし」
「そういうのはな、試用期間終わってから言ってくれ」
「じゃあ、今日いれて6日間ですね」
「契約するの確定かよ」
「何でカップ麺を箱買しようとするんですか」
「非常食だよ、非・常・食」
「スタッカートつけなくても。それにカップ麺で済ませるのは」
「何も食わないよりは健康的だろう」
「お仕事、忙しいんですか?」
「まれに」
「まれに?」
「月に何度か」
「何度か?」
「そのうちわかる」
「他に何を買うんですか?」
「肉食いたいな、肉」
「あのお肉はおいしそうですよ」
「ちょっと高いな」
「なら、こっちは」
「それだったらこっちだな」
「もっと高いですよ」
「さっきのお返しだ」
「でも、材料は」
「こまけぇこたぁいいんだよ」
「肉、味付けはどうする?」
「おすすめで」
「ブルーベリーソースかな」
「味覚、壊滅してますね」
「おかげで独身貴族だ」
「冗談ですよね」
「当たり前だ。大根おろしと味ぽんだがおすすめだな」
「それをお願いします」
「あいよ」
「今日も休みなんですね」
「仕事柄な」
「お仕事は何を?」
「調べてないのか」
「私が知っているのはお名前と住んでいる場所だけですね。あとはおいおい知っていこうと思いまして」
「立派な心がけだな」
「偏見や先入観って良くないと思うんです、この仕事」
「知ろうと思えば何でもできそうだな」
「何でもできますよ。生まれてから現在まで何をしてきたのか。わからないのは未来ぐらいです」
「未来か。寿命が見えるとかそういうことはないんだな」
「おおよその寿命はわかりますよ。……しばらくは死にそうにないです」
「大雑把すぎるぞ」
「あと魂のポイントもわかります」
「そういえばいくつなんだ」
「だいたい50万ポイントです」
「ボーダーは?」
「目標値は300万ポイントです」
「不足250万ポイントか。普通に生きているだけだと稼げないな」
「無理に稼がなくても死にませんよ♪」
「死んだあとは関係ないしな」
「ポイントを稼ぐには人生を楽しむのが一番です」
「どこまでアバウトなのかな、お嬢さん」
「具体的には新しいことをばんばん体験しましょう。そうするとポイントががつがつ貯まります」
「どこが具体的なのかな、お嬢さん」
「えっと、ダメですか?」
「ニュアンスはわかるがなぁ」
「難しいです……」
「まぁ、そう落ち込むな」
「あ、困っている人を助けたりするとポイント貯まりますよ」
「それはお前を助けろということか」
「察してもらえると嬉しいです」
「サービス業、やめとけ」
「職業の自由はないんですよ」
「ご苦労さん」
「するとボランティアはポイント稼ぎやすいんだな」
「そういう邪な心で挑むとマイナス補正が入ります」
「この世はマスクデータが多すぎるとは思わんか?」
「マスクされてたほうが良い場合もあるんですよ」
「感謝感激雨あられだ」
「新しいことに挑むのも大事なんですよ」
「新しいことか。同じことをやっているだけだとポイントにはならないんだな」
「ポイントはつきますけど、入りが悪いんです」
「慣れたら新しいダンジョンに行け、か。ほんと、ゲームだな」
「同じ所ぐるぐるするより楽しいとは思いませんか?」
「楽しいかもしれないが疲れる」
「そういう時はやりなれていることやればいいですし、休んでもマイナスにはなりませんから」
「すると、悪いことするとマイナスなんだな」
「正当な理由なく人殺しするとポイント無効ですね」
「よくそれで俺のポイントが……」
「?」
「なんでもない」
「お前さんのやりたいことはなんだ」
「あなたを幸せにすることです」
「プロポーズか」
「ち、違いますよ。仕事です、仕事」
「仕事人間だよなぁ」
「……誰かの役に立てるのが嬉しいんです」
「ほぅ」
「ごめんなさい、今のはオフレコでお願いします」
「聞かなかったことにしておくよ」
「あなたのやりたいことは何なんですか?」
「食器を洗うことだな。ピッカピカになっていくのを見るのが嬉しいんです」
「微妙に私の真似するのをやめてください。あと、聞かなかったことにしてくれるんじゃなかったんですか」
「さて、なんのことかな」
「あ、ずるい」
「たかが数日で今後やりたい素晴らしいものは見つからない。割と日々、生きてくので精一杯だったからな」
「ゲームやる時間はあったんでしょう?」
「あー、聞こえない」
「耳鼻科に行ってきてください。なんなら連れて行きましょうか」
「時間はまだある」
「それは、そうですけど」
「一人だと暇です。早く帰ってこないかな……」
「恵方巻を切るのは何か勿体ない気も」
「食べるのが目的だったからな」
「それなら普通の太巻きで良かったじゃないですか」
「おいしかったならそれでいいだろう?」
「それもそうですが何か誤魔化されている気もします」
「気のせい気のせい」
「本当は正式な食べ方させようかと思ったんだがなぁ」
「魂、抜きましょうか」
「ま、しょうがないな」
「やりませんよ。……というか抵抗しましょうよ」
「やられてもしょうがないことだからなぁ」
「面白味ないじゃないですか」
「前言撤回だ!」
「期待に応えてもよかったんですよ?」
「上目づかいで見るな、調子狂う」
「小娘といっていた癖に動じるんですね」
「知らんなぁ」
「おや、物忘れが激しくなりましたね」
「おうおう、この年になるとどーしてもなぁ」
「負けを認めたらどうですか?」
「顔近いぞ」
「お前さんも結構、馴染んできたよなぁ」
「ストックホルムシンドロームってご存知ですか?」
「なんだっけか」
「簡単に言うと犯人と人質の間で同情や特別な感情を抱くことです」
「ははぁん。それなら吊り橋効果のほうがいいんじゃないか?」
「その吊り橋を揺らしているのは私のような気もしますが」
「揺らしとけ揺らしとけ。人生、ネタまみれのほうが楽しい」
「私の存在はネタですか?」
「死神だなんてネタでしかないだろ、普通。俺は幽霊もUFOも生まれてこの方、見たことがないんだ」
「つまり、はじめてをいただい」
「その表現はやめぇい」
「何か反応が初心ですよね」
「違う、年頃の乙女がそういう物言いをするのが気になるんだ!」
「えー、見た目よりずっと大人ですよ」
「ばあさん扱いされるよりいいだろ」
「それはそうですけど」
「昨晩の吊り橋効果ですけど、それって勘違いしているかも、ということですか」
「ん、まあ、そうなるな」
「別に勘違いでもいいじゃないですか。致命傷にはなりません」
「軽い火遊びだってか」
「ちょっと指先が痛いだけです」
「悪魔の誘惑だな」
「死神です」
「まぁ、現実を見るためにフィクションの力が必要だというのは納得できるがしかしかだな」
「何をいっているんですか」
「まだ眠いんだ」
「はやく起きてください。珈琲、足しますよ」
「お手柔らかにお願いします」
「ま、きっかけは何でもいいか」
「そうそう、その意気です」
「悪魔に転職したらどうだ」
「職業の自由はないんですってば」
「妙なところで真面目だよなぁ、お前さん」
「そうでしょうか」
「そうだよ。それじゃ、いってきます」
「いってらっしゃい」
「ようやく、飯か。いただきます」
「何かカラフルだな」
「そうか?」
「いつもなら揚げ物ばかりで茶色だというのに今日はオムライスにサラダつきか」
「今日は栄養のバランスを考えて――」
「違うな。ああ、そうか、女か」
「いや、違うぞ、断じて」
「試用期間が終わりましたが延長しますか?」
「そうか、もう1週間か。はやいなぁ」
「その言葉が聞けただけでも収穫です」
「契約をした場合、どうなるのか確認したい」
「あなたの魂のポイントが高くなるようにお手伝いします。亡くなられた時、魂を収穫します」
「契約しなくても魂は収穫されるのだな」
「そういう仕組みになっていますから。担当が誰なのかはわかりません」
「それなら知っている顔がいいなぁ」
「その時に懐かしむ時間はないと思いますよ」
「ま、外套着て、鎌持ったおっかない奴より美人の姉ちゃんのほうがな」
「そういうこともいうんですねぇ」
「がっかりすることはよく言うと思うぞ」
「自覚があるだけよしとしましょう。ほかに何か質問はありますか?」
「お前さんは必ず収穫してくれるのか?」
「契約は絶対ですよ」
「それを聞いて安心した。契約だ」
「では、こちらの書類にサインと捺印を」
「携帯電話の契約か!」
「大人の方はこちらのほうが好みだと」
「魔法陣がぶわーっとしても反応に困るな」
「そうでしょう。それこうやって残した方がごたごたしなくて済みますし」
「違いない」
「では、改めてよろしくお願いします。川俣さん」
「お嬢さん、そういう時は名乗ってくれないと困るんだが」
「クレアです」
「こちらこそ、よろしくお願いします。クレア殿」
「どこまで本気なんだかよくわかりません」
「先は長いんだ。ゆるくいこうぜ」
「それもそうですがそろそろ時間ですね」
「いや、まだ、まだ大丈夫だ。途中ダッシュして急行を使えば」
「それは大丈夫とは言いませんよぉ?」
「顔近いぞ。それじゃ、いってくる」
「いってらっしゃい」
「間に合え、間に合えーっ」
「遅刻フラグじゃないですか、それ」
「ようやく3人目だねぇ」
「そうですね」
「前の二人は何かあったけどさ、今回はどうなの?」
「今のところは普通そうです」
「アバウトな感想だね。例によって調べて無いんでしょ」
「はい」
「別にいいじゃん。まどろっこしいことしなくたって」
「調べれば確かにわかりますけど、本人から聞くのが一番いいんです」
「手間がかかるだけじゃない」
「でも、人同士だと知り方はしません」
「興信所っていうのが……って話じゃあないね」
「そうです。過程にも意味があると思うんです」
「人のことは人のやり方で知る、ね。担当が違うこともあるのかしら」
「私は一人が相手ですから、時間をかけることも許される、といってしまえばそれまでですね」
「あたしなんかはまとめてがさぁっとやるから一人ひとりに気をかけている暇はない。けど……」
「けど?」
「やっぱ、性格や性分なんだと思うよ、あたしは」
「……」
「それを悪く言うつもりはないよ。あたしから見たらまどろっこしいなってだけで」
「それは、わかってます。最初からそうでしたから」
「フォローになってるんだかなってないんだか」
「フォローです」
「はいはい、わかってるよ。あんま無理はしないでね」
「それは、わかっています」
「惚れ込むとあとが辛いからね」
「誰があんな無神経な人に!」
「あー、はいはい、頑張って」
「私の話はまだ」
「ごめん、急ぎの仕事が来たから。またこんどね」
「風、すごいですね」
「苦手か?」
「そういうわけじゃないですけど、ちょっと怖いです」
「そーゆーのが苦手っていうと思うだがなぁ」
「いいじゃないですか、別に」
「別に悪いとは言ってないぞ」
「この家が外の音が入りすぎなのがいけないんです」
「はいはい」
「こたつって偉大ですよね」
「ストーブだけよりは暖かいな」
「極楽はここにあったんですね」
「お嬢さん、俗っぽすぎやしないかい」
「あ、このみかん、甘くておいしいですね」
「友人の実家が農家やっててな」
「きっと、魂のポイント高いですよ。おいしいですから」
「話は変わるが、この前、作ってもらった弁当を持って行ったらばれたぞ」
「何がですか」
「一緒にいるのが」
「いいじゃないですか、幸せいっぱいなところ見せつけてやりましょう」
「そういう台詞は彼氏に言ってやれ」
「どうしてばれたんですか?」
「色だとさ。俺の弁当は揚げ物ばかりで茶色なのにあの日はカラフルだったからわかった、んだそうだ」
「細かいところに気が付く人もいるんですね」
「気づく人は気づくのだと思ったよ」
「これから細かいこと気にしないでお弁当作ってあげられますね」
「なんでお前そんないい笑顔なんだ」
「早死にされたら困ります。だから、ちゃんといいもの食べてもらわないと」
「あ、はい。食費浮いて助かります」
「まだ、雪が残ってますね」
「これは寒いな」
「足元、気をつけて歩いてください」
「そうしよう」
「なんだかドライアイスを思い出しました」
「路肩の雪がそう見えないこともないな。……これから外にでる俺はアイスか」
「おいしそうです」
「やめろ!」
『帰りにパンを買ってきてください』 「……パン派か」
「日本人なら米食え米ってか」
「向こうがパン派なら合わせてみるのも悪くない」
「ほほぅ、ほほぅ」
「あ」
「面白いことを聞いてしまいましたよ、ええ」
「忘れてはくれまいか」
「くく、そいつは無理ですぜ」
「それでだな……なんだ、寝てるのか」
「すーすー」
「寝落ちる死神ははじめてみたぞ、まったく」
「ん……」
「世話の焼ける奴め。風邪ひかないにしてもなぁ」
「……」
「しっかし、無防備だな」
「……」
「俺は何を考えているんだ。しっかりしろ」
「朝ですよー?」
「ぅ……」
「起きませんね……それにしてもしまりのない顔です」
「……」
「普段は大人っぽくて格好いいのになんか……かわいいです」
「ん……あ、朝か?」
「お、おはようございます」
「今日も弁当カラフルだな」
「栄養価を考えてだな」
「じゃあ、この海苔で切って貼ってあるがんばってください、のメッセージはなんだ?」
「あ」
「自作自演か? んん?」
「これはだな、親戚がだな」
「ずいぶん親しくなっているようで?」
「く、殺せ」
「んー、殺す前に情報を引き出さないとな」
「そうか。ならば仕方ないな。その唐揚げは没収だ」
「はっ」
「食い物の恨みは恐ろしいんだぞ」
「なら俺の食事を妨害した罪で裁くぞ」
「悪い、仲睦まじそうだからからかっただけだよ」
「なら、よし。だが唐揚げはもらう」
「うぅ、最後までとっておいた唐揚げなのに」
「そこまで打撃受けるなよ……しょうがない、このタコさんウィンナーをあげよう」
「わかった、許そう」
「……今度、うまいからあげ屋に連れて行ってやろう」
「おごりか」
「言わなきゃおごってやったものを」
「ということがあったんだ」
「それはあなたが悪いですよ」
「そうか」
「唐揚げ、いくつ持っていったんですか?」
「ひとつ」
「余分にふたつ作ってお返ししましょう」
「倍返しか」
「倍返しです」
「まだ、雪が残ってるんですね」
「今日もアイスの気分で出社だな」
「今日は何味ですか?」
「レモン」
「爽やかでいいですね」
「なんだ、その何か言いたそうな目は」
「レモンって柄じゃないですよね」
「なら、何がいいのかな、お嬢さん」
「レアチーズです」
「濃いのを選んだな」
「濃いキャラしてるじゃないですか♪」
「とかくは言うまい。可燃ゴミはこれで全部だな」
「よろしくお願いします」
「おう、任せておけ」
「間違っても手荷物を捨てないでくださいね」
「善処する」
「油断大敵ですね」
「明日は天気が悪いようですね」
「まぁ、室内での仕事だからあまり気にしなくてもいいのか」
「でも、夜から悪くなるようです」
「帰れなかったらあとは頼む」
「ちゃんと帰ってきてください。ごはん冷めちゃいますから」
「外、真っ白ですよ」
「現実は非情である」
「エクストリーム出勤ですね。ご武運を」
「急に張り詰めた空気が」
「非常食です」
「こんな可愛らしい非常食があるのか。代わりにお嬢さんにはこれをあげよう」
「逆チョコ、ですね」
「いや、物々交換だ」
「意外と可愛いの選ぶんですね」
「口に合えばいいんだがな」
「それ、私の台詞ですよ」
「失礼いたしました」
「でも、こういうのも悪くないですね」
「それは良かった」
「開けても大丈夫ですよ」
「では……ビターチョコか」
「甘いものが苦手な男性が多いそうなので、もし、苦かったらごめんなさい」
「気にするな、そのあたりは雑食だから」
「あまり、いいフォローではないです」
「難しいなぁ、お嬢さん」
「非常食だって言われましたけど、本当に乾パンと水が入ってるとは思いませんでしたよ。変なネタ仕込むのが好きなんですね」
「雨に変わる予報はなんだったのだろうな」
「水曜日も雪の予報が出てますよ」
「お前さんたちも仕事が増えてそうだな」
「不本意ですけどそうです」
「そうか、ポイントが低いのか」
「天寿は全うしたほうがいいんですよ」
「ふむ」
「それにしても冷えますね」
「まぁ、雪が降るぐらいには寒い」
「隣いってもいいですか♪」
「いま論理が飛んでいくのを見……狭い」
「このほうが密着していいんです」
「誰にとってなのやら」
「二人のためですよ♪」
「予報、ころころ変わってますね」
「そうだな。週の半ばはまた天気が崩れるのか」
「くっつく大義名分が得られますね」
「大義名分ってお嬢さん」
「何でしょうか」
「彼氏でも何でもない男にくっつくのはいかがなものかと」
「細かいことはいいんですよ♪」
「路面が凍ってるから気をつけろ、と言われましても……雪に見えますね。しっかり踏んで歩けひゃぁっ」
「いつになったら東京は山手線内側を覆うような巨大建築物を作るんですか」
「なんだ、それ」
「十数年前にあがっていた超大型建築計画、その名も東京バベルタワー!」
「台風が来たら重機が暴走しそうな名前だな」
「それがあったら寒さとは無縁なのに……」
「もしかして、寒いの苦手か」
「はい、とっても苦手です。だから、ぎゅってしてください♪」
「……」
「なんですか、その半目は」
「仕方ないなぁ、ははは」
「な、なんです、か……」
「正直に言ってみただけだが?」
「ありがとう、ございま、す」
「何で人工知能の本ばかりです……入門と小説……何屋さんなんでしょうか?」
「非日常の中で見える人間性なんて幻ですよ」
「ほむ」
「お腹減っていたり、調子が悪い時はいらいらするでしょう。それと一緒です」
「状態が別の一面を見せているだけ、か」
「だから、人を試すだなんてしてもしょうがないです。ポイント下がるだけですよ」
「で、何か悪いものを食べたのか」
「どうしてです?」
「真面目な話をするから。もしかして、熱でもあるのか!?」
「ないです、ないですってば……顔、近いですよ」
「おっと」
「わざとらしい……」
「お嬢さん、説得力とはご存知かね?」
「し、知りません」
「サービスか何かなのだろうが、その、疲れないか」
「正直言うとちょっと、疲れます」
「だろう。もう少し肩の力を抜いたほうがいいぞ。あとどれぐらい一緒にいるかわから」
「じゃあ、我慢しなくていいですね」
「俺の話を最後まで」
「聞きませんっ」
「むしろ、行動が派手になっていませんかね」
「だって、今まで抑えてたんですよ」
「そんなラブコメな」
「恋は盲目と言いますし」
「目を覚ませ、よく前を見ろ」
「起きてますよ。よく見えてます」
「見る目がないな」
「それでも私は私の感覚を信じます♪」
「あんま押し付けがましいと嫌われるぞ」
「誰にですか?」
「……」
「あなたに嫌われなければそれで」
「今、ストレートにすごいこと言わなかったか」
「すごくはないですよ。思ったことそのままです」
「……」
「目をそらさないでください」
「それはつまりだな」
「嫌われなければ、と言いましたけど、好きだとは言ってませんよ」
「く」
「意識してもらえているだけでも嬉しいですね」
「嫌いだといったら嘘になるが……よくわからない」
「ストックホルム症候群の話はしましたよね」
「ああ、だいぶ前にした。覚えてはいる」
「私は一目惚れだったので心の準備はできていたんです。でも、あなたには時間がなかった」
「策士だなぁ」
「褒めても何も出ませんよ。できれば今すぐ返事が欲しいですけど、本当に好きかどうかなんてわかりませんよね」
「いや、嫌いだと言ったら嘘になる」
「好きだと言ったら?」
「それは嘘にはならない」
「♪」
「あ」
「その言葉を待っていましたよ」
「だからひっつくな!」
「いいじゃないですか、いいじゃないですか」
「悪代官か!」
「あーれーって言いながら回ってください」
「お仕事、何をなされてるんですか」
「そういえば話していなかったっけか」
「ずーっとはぐらかされてました」
「まぁ、妙な仕事だからな。ドローンリーダーだよ」
「完全自律制御の無人機を統率する仕事、ですね」
「お、物知りだな」
「これぐらい常識ですよ」
「勤務日や時間が不規則なのはそのせいだ」
「その割には帰ってこれてますよね」
「民間の企業だからさ。街の平和を守るお手伝いだけなら交代で見張ればいい」
「そういうお仕事なんですね。安心しました」
「人と戦う度胸はないよ」
「死神の仕事ってどんなのなんだ?」
「魂の収穫ですよ。こうやって育てるときもありますし、実るのを待っているときもあります」
「完全に作物なのだな、人間は」
「大事な大事な作物ですよ」
「大事、か」
「そうじゃなかったら、こうやって会うこともなかったでしょう」
「人が死ぬのを待つのか」
「街中を歩きながら待ってます」
「結構、暇そうだな」
「暇のほうがいいじゃないですか。病院や交差点を重点的に見てます」
「で、死んだら収穫するわけか」
「死ぬと魂が肉体から離れるのでそれを収穫します。蔓があるのでそれをぐいっと」
「魂はさつま芋か?」
「収穫の仕方は似ていますね。あと、人がたくさん、亡くなるときは手だと間に合わないので専用の鎌でまとめてざくっと」
「重機使うって言われたらどうしようかと思った」
「その案もあったらしいですけど風情がなかったとか」
「風情」
「大事です」
「あと、外套もありますよ」
「外套は何に使うんだ?」
「人から姿を隠したりいろいろできます。一応、骸骨のお面もあるんですよ」
「お嬢さん、人から隠れるのとお面のつながりが見えないぞ」
「伝染病が流行した時とかはわざと姿見せるんです。人が来ないように」
「まだ、雪が残ってますね」
「買い物はできたのか?」
「この辺りは少し影響あるだけで済んでますよ」
「結構、歩き回ったんじゃないか」
「美味しいもの食べるためなら苦になりませんよ♪」
「時には妥協することも大事だぞ、お嬢さん」
「ダメです」
「しかしだな」
「インスタント食品とかばっかになるじゃないですか」
「ばれたか」
「ばれるもなにもないですよ。早死にされると困るんです。ポイント的な意味で」
「家電か何かの気分だ」
「春になるとお皿か何かと交換ですね」
「パンか、俺は」
「仕事といってもやってることはデートですよね」
「親子に見える可能性を捨てるな」
「突っ込みどころはそこですか。意識してるんですね、私うれしいです♪」
「……その機械、落とすなよ」
「これでどこにいるか把握するんですか。何かぴんと来ませんね」
「目には見えないしな。あとでログを見せてもらおう」
「建物内の人の流れを把握して、案内板などを増やしたりする……でも、それなら歩いている人を追いかけていけばいいじゃないですか」
「プライバシーの問題があるのだよ、お嬢さん」
「難しい話はおいて、お仕事しましょう♪」
「ここは道に迷いやすいから気を付け……どこいった!?」
「どこまでいったの?」
「一緒にデートしたぐらいですね」
「男なんて胃袋とか掴んでおけばちょろいでしょ」
「ご飯はおいしそうに食べてくれるんですけどね。”とか”ってなんですか?」
「ジョイスティック」
「ゲームですか?」
「知っててボケてる?」
「さぁ?」
「ガード硬いんですよね、彼」
「意外と攻めるよね、あんた」
「攻撃なしに陥落するわけないじゃないですか」
「色気のない言葉ね。もっと、言葉を選んだら?」
「恋は実らせるものなんですよ♪」
「まぁ、及第点」
「採点厳しいです」
「先生よりは優しいよ」
「人間、死んだらどうなるんだ?」
「肉体は土に還り、魂は天に還るだけですよ」
「なんだ、天国や地獄はないのか」
「それはわかりません」
「優しいな」
「本当にわからないんです。もしかしたら、死後の第二の人生があるかもしれませんよ」
「天に還るといってもそのままは還らないんだろう?」
「実際は私たちが収穫してますからね」
「放っておくと何か問題があるのかい?」
「世界が歪みます」
「ほぅ」
「あ、信じてませんね」
「オカルトはどうもな」
「こうやって死神と話してるのに強情な人ですね」
「歪むってどう歪むんだ?」
「魂は世界を書き換える力のようなものです」
「すると生き物はなんだろうな」
「小説です。世界がそれを読んで変わっていくんです」
「わかるような、わからないような」
「人生は自分が主人公の物語、といいますよね」
「なるへそ」
「魂は肉体に関係なく、その力を持っていて、世界そのものにも影響を与えられるんです」
「じゃあ、なんだ。作者が直接、読者に語りかけるようなものか」
「このたとえだとそうなるんですが……うー」
「たとえが悪かったんだな」
「ずばり言わないでくださいよぅ」
「じゃあ、なんだ、作者が読者に直接語りかけるようなものか」
「それも作者にしかわからないような言葉で」
「それはげんなりするな」
「世界がげんなりするんです」
「収穫する人のイメージがあったんだが、今、編集者に変わったぞ」
「世知辛くなりました」
「魂は肉体をペンと紙にして人生の物語を綴るんですよ」
「強引にまとめたな」
「きれいにまとまったんです♪」
「きらきらしてておじさんにはまぶしいぞ」
「まだ若いんですからそういうこといったらダメですよ♪」
「おはよう」
「おはようございますぅ」
「半分寝てるな」
「寒いのは嫌です……」
「暖房ついてるのにコタツあるのに言うのか」
「むぅ」
「ホットケーキが冷めるぞ」
「!」
「現金なお嬢さんだことで」
「しゃきーん」
「ふと、思ったんだがAIにも魂があるのかね」
「さぁ、どうなんでしょうか。見たことがないのでわかりません」
「たとえば、このスマートフォンのナビだってAIの一種だろう」
「でも、見えないんです」
「数字がか?」
「はい」
「じゃあ、ないのか」
「その結論を出すのははやいですよ」
「なぜだい」
「頭の上に数字は見えるんです。そのスマートフォンだったらデータセンターにいかないと」
「なるほど」
「そういえば、見学会が近いですね」
「なんのことかな」
「職場の」
「そうだな」
「ということでいきましょう。職場見学会」
「いじられる覚悟はあるかい、お嬢さん」
「い、いじるなんて大胆ですね。で、でも、私、頑張ります」
「公開処刑されるやもしれんのだぞ」
「むむ、公開処刑とは……って公開処刑ですか?」
「比喩だが目立つぞ。俺と一緒に行くと」
「ばらばらに行ったら解決しませんか?」
「招待制だから俺がお嬢さんを招待するわけだ。ほかの奴に頼むにしても関係がバレるわけだ」
「そこを気にしてたんですか」
「うむ」
「いいじゃないですか、見せつけてやりましょうよ。二人のらぶらぶっぷりを♪」
「恋人になってないのに何を言うのかな、お嬢さん」
「こんな会話しておいて恋人だと認めないんですか?」
「め、夫婦漫才の間違いだろう」
「漫才の相方と紹介するより、彼女と紹介した方が傷は浅いと思いますよ」
「……」
「それに恋人ごっこも極めればいつか本物になるかもしれませんし」
「それが狙いか……ま、傷が浅いのは間違い。その案でいこう」
「楽しみにしてますよ」
「見学会、誰か呼ぶの?」
「知り合いを呼ぼうと思っている」
「知り合い? 彼女じゃなくて?」
「彼女ってお前な」
「この前、一緒に歩いている人を見たんだよ」
「人違いじゃないか?」
「見間違いないよ。いつものコート着てたし」
「横にいたのはどんな人だ?」
「高校生ぐらいの女の子。髪の毛の先だけ染めてたよね」
「ああ、それは知り合いだ」
「彼女じゃないの?」
「なんでだ」
「一緒に買物してたじゃない」
「……まぁ、彼女のようなものだ」
「んー、犯罪の匂いがする」
「見た目と年齢が噛み合ってないからなぁ」
「くしゅん……どこかで誰か噂してますね?」
「で、彼女ができたって!?」
「噂は広まるのがはやいな」
「お、その反応、本当なのか」
「半分正解だ」
「ほぅ、返事してないのか」
「求められてないからな、それは」
「嘘だぁ。俺がどうでもいいけどって話切り出すとどうでもいいなら言わないってツッコむ奴が何を」
「何かさ」
「なんだよ」
「余裕なくなるとそうやって逃げるよな」
「そんなことは」
「ないと言い切れるか?」
「それは」
「無いと言うなら、相手の目を見てちゃんと言うんだなぁ」
「そのとおりだ」
「す、素直に返事しただって。明日は雪か!?」
「あ、あのだな」
「何でしょうか。……話す時はちゃんと相手を見ましょう」
「この前の返事なんだが」
「年貢を納めに来ましたか」
「はぁ、どうして、そういう風に茶化すんだ」
「その方が肩の力が抜けていいでしょう」
「お見通しか」
「わかりやすいですからね♪」
「恋人ごっこも、というのは本当だった」
「遠回しですね」
「わかって言っていたな、あれ」
「そうですね」
「酷いやつだ」
「死神ですから」
「ずるいな」
「はぐらかしてきた人に言われたくないです」
「そうか。――好きだ」
「うわ、何ですか、それ」
「……」
「ダメですよ、もっと雰囲気作らないと」
「自分が言った時は強引だったのに理不尽な」
「それはそれ、これはこれですよ。詰めが甘いですね」
「難しいな」
「気持ちはよく伝わったのでよしとします♪」
「それに視線をそらしたりしてたところは乙女チックで可愛かったですよ。一生の思い出です♪」
「そんなことしてたか」
「そんなことしてましたよ。可愛いですね」
「可愛いってなんだい」
「可愛い物は可愛いんです」
「はっ」
「おはようございます」
「こんな時間か。まずいな」
「調子が悪いので半日休むと連絡はしました」
「ありがとう……って会社に」
「はい」
「出社したらいじり殺されるな、これは」
「その時は収穫しにいきますか安心してください♪」
「やりたいと思ったらすぐに取り掛かるべきです」
「ほぅ」
「いつ死ぬかわかりませんからね」
「その心は」
「キス、してください」
「主語はお嬢さんであったか……ん」
「……」
「初々しいな。それじゃ、いってくるよ」
「いって、らっしゃい……」
「乙女の心は変わりやすいんですよ♪」
「そのこころは」
「昨日は天気が変わりやすいので傘を持って行きましょう。それからおみやげで期待してます」
「本音と建前の和え物か」
「両方とも本音ですよ」
「わかった。それじゃ、いってくる」
「いってらっしゃい」
「お土産のプリン美味しかったです」
「それは良かった。しかし、そのガラス容器を見てもプリンは再生しないぞ、お嬢さん」
「作ったらいいかな、と思ってみてたんです」
「いいアイディアだな。……でも」
「耐熱ガラスじゃないんですね。残念です」
「ゼリー作りました」
「容器はプリンの容器か」
「そうです」
「しかし、なぜ、この時間にそれをいうかな」
「夜食です」
「はっ まさか、俺を太らせるつもりか!?」
「収穫しがいがあっていいですね♪」
「や、やめろぉ」
「寒くてもくっつけばあったかいですよ♪」
「大自然の前には無力なのだよ」
「寒いですね」
「死神も無力とは世知辛い世の中だ」
「この世の難易度がスーサイダルなのがいけないんです」
3/11 ——————
「今日で三年ですか、はやいですね」
「大忙しだったんだろう、あの時は」
「耐え切れなくなって転属願い出したんですよ」
「そうか、すまん」
「いえ、すみません。思い出すと、どうしても」
「互いに転機だったのか」
「と言うと?」
「いや、実は妻と子がいたんだ」
「初耳なんですが」
「言ってなかったか」
「言ってないですよ。仏壇もないですし、それらしいもの何も」
「ああ、全部、置いてきたんだ」
「それでポイントの貯まりが悪いんですね」
「ん?」
「本気になれないのが」
「……数年でどうにかなるものか」
「数年でどうにかなるとは思いませんけど、いずれ何とかなりますよ」
「気の長い話だな」
「私にとってはあっという間です♪」
「お嬢さん、強引だな」
「私が強引じゃない時、ありましたか?」
「たまにはあったぞ」
「……辛い記憶を何とかする方法、ご存じですか?」
「楽しいことで上書きする、だろう。まさか、それが狙いで来たのか」
「それは偶然です。私、あなたの過去までは調べてませんから」
「好みとか今のことは知っているのに、か」
「どういうふうに歩んできたかはやっぱり、実際にあって聞くのが礼儀だと思うんです」
「ふぅむ」
「納得行かない、という顔をしていますね」
「偶然にしては出来が良すぎる」
「奇跡はあるんですよ」
「お嬢さん、本気か」
「本気です。ここで嘘ついたら関係にひび入るだけですよ」
「たまにならいいだろう。頻繁にあるとありがたみがなくなってしまう」
「あの日、俺は仕事でこっちにいたんだ。彼女は子供を連れて、彼女の実家に帰っていた。我が家ではよくあったプチ里帰りだ」
「仲が良かったんですね」
「とてもな。俺が行った時も息子が返ってきたかのように歓迎してくれたよ」
「無理に話さなくてもいいですよ」
「――ということがあったんだ」
「それは、大変でしたね」
「でも、あまり責めることは無いと思います」
「理屈はわかっているんだ。気持ちのほうが納得しないんだよ」
「……」
「お前さんが来た時、ほんの少しだけようやく楽になれると思った」
「あの反応で?」
「あの反応で。ほんの少しだって言っただだろう」
「そんな感じ微塵も感じなかったですけどね」
「そうか?」
「なんかもう遊ばれてるなって思いました。仕返しで魂抜いたのでお相子ですね」
「俺の命、扱いが雑だよな」
「気のせいです」
「朝です」
「朝だな」
「希望の朝です♪」
「何がどう希望なのかわからないんだが」
「ラジオ体操ですよ、ラジオ体操」
「ほむ」
「まだ、寝てますね」
「おやすみなさい」
「今日は遅刻すると大変ですよ」
「それは、わかってるんだが」
「気乗りしないんですね」
「お嬢さん、好奇心旺盛な何かが群れているところに二人で一緒にいったらどうなると思う?」
「ばらばらにいけばいいじゃないですか」
「あ」
「いっしょに行く前提なんですね。嬉しいです♪」
「いや、顔が割れているし、道案内も必要だからであってだな」
「誤魔化すのが下手だって言われませんか?」
「記憶にございません」
「そういうことにしておきましょうか♪」
「説明、上手でしたね」
「あれは毎年やってるからな。嫌でもなれる」
「楽しそうでしたよ」
「そういうのもあるのかもな。自分のやっている仕事を知ってもらうのは悪くない」
「誇っていい仕事なんですから、もっと胸を張りましょうよ♪」
「温度差が激しいですね」
「三寒四温というだろう」
「どういう意味ですか?」
「寒い日が3日続くと温かい日が4日続く、という字のままだな」
「3日はくっつく口実に悩まなくて済みますね♪」
「理由なくてもいいだろう、別に」
「これが新しい大鎌ね」
「グリップの素材を見直して握りやすくしました。長時間の使用にも耐えます」
「肝心の刃は?」
「より硬く、粘りの強い精錬鋼を使いました。そう簡単には折れませんよ」
「上出来だわ」
「ありがとうございます」
「今日はあったかいんですね」
「冬物コートだと蒸し焼きだな」
「包み焼きでしょうか」
「人をおいしく食べようとしないでくれるかな、お嬢さん」
「おいしく食べないでどうするんですか?」
「覚悟しておこう」
「覚悟しておいてください♪」
「最近、顔立ち変わったね」
「そうか?」
「こう、きりっとしたというか、しゃきっとしたというか」
「今まで腑抜けてたと言わんばかりだな」
「自覚はあるでしょ」
「そうだな」
「いい子だし大切にしなきゃ」
「いつ話した?」
「この前の開放日」
「くっ」
「報連相は大事だって言うじゃない」
「なぜ仕事とプライベートでリンクするんですかね」
「今がプライベートだから」
「サボるのに巻き込まないでくれるか」
「君ら盛り上がるのはいいけど仕事しろよー?」
「なんだその趣味丸出しの外套と大鎌は」
「……」
「うわぁ、ドクロの仮面までつけて死神だ、怖いー」
「全然、驚いてないじゃないですか」
「心の準備ができていなかったのでネタを潰してしまった」
「お笑いコンビか何かですか」
「大規模収穫向けの格好だったか」
「覚えてくれてたんですね、嬉しいです♪」
「そのドクロでいつもの調子で喋られると何か狂うな。もう少しこう、威厳……いや、威圧感が欲しいな」
「難しいこと言わないでくださいよぅ。この格好で喋ることはないんですから」
「姿は見えないのだっけ」
「音も消えるマジカルな格好なんですよ」
「魔法少女モノだったか」
「死神と魔法少女って二重になりませんか」
「ふむ、なかなか難しいな?」
「こんなドクロ仮面つけた魔法少女いたら子供ドン引きですよ」
「そろそろベッドを買おうと思うのだが希望はあるか?」
「同じベッドがいいです♪」
「寝相悪いと殴り合いになるぞ」
「同じ型のベッドがいい、と思ったんですけど、それもいいですね」
「く、小癪な」
「雨降ってきましたよ」
「寒い上に雨とはいい追い打ちだな」
「死体蹴りされないよう気をつけてくださいね♪」
「気をつけよう」
「ゲーマーですね」
「振っておいてそれか」
「はい♪」
「その笑顔には勝てないな」
「いってらっしゃい」
「いってきます」
「幽霊は人に憑りついたりするのだろうか」
「ありますよ。私たちの出る幕ではありませんが」
「どうするんだ?」
「専門家が頑張ります」
「へぇ、いるのか。専門家」
「掃除機もって吸い取ってます」
「映画の見すぎでは」
「創作物の持つ力は偉大ですね」
「どうでもいいんですが」
「どうした?」
「女の子は人の胸の大きさ気にしませんからね」
「ほい?」
「気にしませんからね」
「わかった」
「いいですか、大きいとかわいい服が着られないんですよ!」
「わかった。寝ろ」
「ひどいです」
「そのネタ振りの方が酷い」
「今日はあったかいらしいですよ」
「薄い上着があれば大丈夫そうだな」
「夜に冷えないといいですね」
「そうだな。まあ、冷えたら走って帰る」
「お風呂沸かして待ってますね♪」
「大変です」
「どうした?」
「食パンがありません」
「なんてこった!」
「お餅でもいいですか?」
「うむ。そうすると飲み物は茶だな。磯辺焼きにしよう」
「はい」
「この時計、進んでるよな」
「おお、電波時計よ。狂ってしまうとは情けない。……困りましたね」
「遅れているよりはいい。さて、どうしたものか」
「説明書にヒントがないか探してみましょう」
「説明書を捨ててしまったかもしれない」
「ネットで調べましょうか」
「カロリー消費してより良い食事をするために人は進化したんです!」
「死神はどうなんですかね、お嬢さん」
「人は効率よく獲物を狩るために進化した。死神は人と同じ形をしている。つまり、人と同じ形をしている死神にもき」
「詭弁だなぁ」
「愛って何でしょう」
「与えて勝ち取るもの」
「どこかで聞いたような台詞ですね」
「本棚に元ネタあるぞ」
「あ、思い出しました」
「結構、読んでいるな」
「本棚を見れば人なりがわかるんですよ♪」
「おお、怖い」
「ふぇえ」
「……」
「あ、あまり見ないでください」
「キャラに合わないな、と思ってな」
「こういうの好きじゃないんですかぁ?」
「あざといので減点だ」
「日常にあるちょっとした仕草にドキっとするんですね♪」
「今、論理が高飛びの世界記録を更新したぞ」
「咲いて散るのが日本人の精神に深い影響を与えている、なんていうそうですが」
「花を見てるのは最初のうちで、そのうち酒と食べ物がメインになる」
「お酒飲むための口実ですね」
「日本人はシャイだからな、おそらく」
「たぶんそうですね」
「桜、散り始めましたね」
「雨と風が強かったからな。あそこの桜なんて葉が見える」
「雨や風が避けられる場所ならまだ、いけるかもしれないです」
「週間予報が芳しくないから、早めに見に行った方がいいぞ」
「今年の天気は優しくないです」
「神様は性格が悪い」
「桜前線を追いかければずっと花見が楽しめますよね」
「どれだけ長い休暇を取るつもりだ」
「バカンスですね」
「今やったら首が飛ぶ。老後の楽しみだな」
「わかりました♪」
「なんで嬉しそうなんだ?」
「向こう数十年は一緒にいるつもりだとわかったからですよ」
「今週はこのまま天気悪いようですね」
「どうやら天は桜を見せないつもりらしいな」
「あとでしばいておきます♪」
「できるのか?」
「本当のところは秘密です」
「お嬢さん、エイプリルフールは終わってるからな」
「はい♪」
「もう何を着ていけばいいのかわからんね」
「風を通さない格好にしましょう」
「たとえば」
「私の外套とか」
「あんですと」
「風も通さないし、姿も隠せますし、他にも不思議なパワーがありますよ♪」
「お、おう」
「今なら制服も」
「女装ではないか」
「雨の音、すごいですね」
「安眠妨害BGMだ」
「落ち着く音だと言いますけど、これだけ賑やかだと……」
「耳栓でもするか?」
「耳に何か入っているのは落ち着かないです」
「寝ている時に使うのもあれか」
「寝てますね?」
「断言しよう。寝ぼけてるぞ、とても」
「寒いです」
「くっついても寒いぞ、諦めるんだ」
「嫌です。私、諦めません♪」
「灯油使いきったのが運の尽きであったな」
「冷静に言わないでくださいよぅ」
「今日も寒いな。あと、女装もコスプレもなしだ」
「先回りしてネタを潰すなんて酷いですわ、およよ」
「泣き崩れないでくれ」
「ツッコミが鋭いあなたにはこの貼るホッカイロを贈呈します」
「ありがたく使わせてもらおう」
「お気をつけて」
「いってきます」
「カイロつけるときに臍が見えました♪」
「今日は昼間だけあったかいんですね」
「もうわけがわからんね」
「そこでこの」
「その外套はなしだ」
「下の制服も」
「それもなしだ」
「では、男子用は」
「年齢を考えてもらえると嬉しい」
「大丈夫、いけますよ♪」
「だが断る」
「今日はコートなしでも大丈夫だな」
「どうすればよくわからないときはこの制服を♪」
「お嬢さん、そんなにコスプレさせたいのかね」
「はい♪」
「絶対に似合わない」
「そんなことはないですよ。…(男子用だったら)」
「今の間は、なんだ」
「秘密です」
「もし、神がいるなら人類が苦しむところを見るのが好き奴なのだろう」
「夜から気温が下がるのは殺しに来てますね」
「薄い上着を鞄にいれておく」
「あの制服も小さくなるんですよ♪」
「そろそろ制服から離れないか」
「着てくれるまで諦めません」
「気温の変化が激しいですね」
「身がもたないな」
「風邪引いたりしないでください」
「こう見えても体は頑丈なのでね」
「でも、無理は禁物ですよ♪」
「なんか年寄り扱いされている気がする」
「気のせいですよ、気・の・せ・い」
「ねだるな、与えて勝ち取れ」
「復讐するのも愛ですね」
「物騒な話だ」
「物騒な話にならないようにしましょうね♪」
「この会話がすでに物騒だとは思わないかね、お嬢さん」
「余裕があるからこういう話ができるんですよ」
「なんかメール来てたぞ」
「たぶん、友達からですね」
「同業者?」
「そうです。ご飯でも食べながら話をしようって」
「ほぅ」
「来ますか?」
「いや、ネタにされるのが目に見えてるからな」
「残念です♪」
「知り合いが風邪引いたみたいです」
「死神も風邪引くのか」
「引くように作れば」
「作れば」
「作れば」
「お嬢さんはどうなんだい?」
「不都合がないように作りました♪」
「詮索はしないぞ」
「風邪引かないようにしてください、というお話でした」
「おお、神よ」
「天気予報で神を持ち出すのはどうかと思いますよ、未開人♪」
「あれも読んだのか」
「読みましたよ、もちろん」
「面白かったか?」
「それはとても」
「それは良かった。帰る時用に一枚持って行けばいいか」
「昼は蒸し焼きにになりますね、これ」
「そういえば、新しく人は来たりしたんですか?」
「今は大絶賛、研修中だな」
「研修の内容って聞いてもいいですか?」
「AIとの話し方だ。人と話すように話せばいいのか、というとちょっと違う」
「意識しているところが違うんですね」
「うむ」
「どの辺りが違うんでしょうか。この前、話した時は特に困りませんでしたよ」
「彼らは意味解釈が厳しいんだ。曖昧な言葉は確認が入る」
「そうするとこの前なんて言葉は聞き返されるわけですね、いつなのかって」
「そうだ。だから、慣れるまで時間がかかるのさ」
「今日は上着なしでも大丈夫そうですね」
「これで女装ネタも終わりだな」
「衣替えがありますからまだ続きますよ♪」
「なん、だと……」
「夏服は夏服で可愛かったり、格好良かったりなのでぜひぜひ」
「待て、来るな」
「ふふふふふ」
「ひぇー」
「そろそろゴーストバスターズの時期ですね」
「かきいれ時か」
「カーニバルですよ♪」
「そのアニメと原作で扱いが違うキャラのネタはやめてくれまいか」
「たぶん、原作寄りなので大丈夫です」
「頼もしいな」
「帰宅をお待ちしてます。心の旗艦」
「俺はハルナか」
「こたつが片付けられないな」
「ストーブ出しませんか?」
「せっかく、しまったのにまた出すのはなぁ」
「ガスストーブにしましょうよ」
「次の冬に備えてそうするのも悪くないか」
「今なら安くなってるかもしれませんよ」
「粘るなぁ」
「退けない時もあるんです」
「雨ですね」
「外套はないからな」
「はい、薄いコートを用意しておきました♪」
「準備がいいな」
「ありがとうございます」
「これは、さりげなくロゴが入ってるが……もしや……っ」
「目立たないのだったら気に入ってもらえるかと思いまして」
「その粘り強さには負けた。これなら目立ったりもしないだろう」
「気に入ってもらえて良かったです♪」
「しかし、男物のコートなんてどうやって手に入れたんだ?」
「死神向けの通販があって、割引価格で買えるんですよ」
「俗っぽいな」
「人と交わってますから」
「口裂け女とかいるのか?」
「いますよ」
「数は少なくても、か」
「困ったら笛を吹いてください。掃除機持って駆けつけます♪」
「何かネタが混じっているな」
「混ぜました」
「というか、掃除機なのか」
「掃除機です」
「絵になるようなならないような」
「なんか、武器を使うとか、手に不思議な不思議な力を宿らせるとか、あったんですけどね」
「少年漫画だな」
「それならロボットもありだろう、と話が膨らみすぎて、掃除機に落ち着いたんです」
「死神って自由だよな」
「魂のポイントと役職って関係あるのか?」
「無いですよ。どんなことをしたのかが大事なので」
「ポイントでそいつが何をやって偉くなったのかわかりそうだな」
「それなら図書館でその人の人生を読んだ方が確実ですよ♪」
「悪用しないんだから立派だよなぁ」
「今日は気温高くなるので上着はいらなさそうです」
「そうか。これは洗うにはどうすればいい?」
「洗濯タグついてますよ」
「んなっ!?」
「普通に洗濯機で洗って干すんです。手入れも簡単なんですよ♪」
「ありがと」
「気に入ってもらえたようで嬉しいです」
「ゴールデンウィークの予定は何かあるんですか?」
「これといって何も考えてなかった、というか、忘れてた」
「仕事ばかりだと疲れちゃいますよ」
「近場で花でも見に行くか」
「いいですね♪」
「それなりに歩きまわるがそれでもいいか?」
「体力には自信があります」
「そのハンドバッグの中には何が入っているんだ?」
「教えてもいいですけど守秘義務が発生しますよ」
「守秘義務……」
「乙女には秘密がたくさんあるんですから♪」
「ほぅ」
「そのどこが乙女なんだって顔、やめてもらえないでしょうか。刈りますよ」
「ひえー」
「起きてますか?」
「寝てます」
「起きてるじゃないですか」
「寝言です」
「なんで丁寧語なんですか」
「寝言だからです」
「眠っている人と会話したらダメって話がありましたね」
「聞いたことはあるが……なんだ、眠れないのか」
「ええ、まぁ」
「何かあったのか?」
「いえ、ただ単に眠れないだけです。起こしちゃいましたか?」
「深夜に呼び出しが多かった時期があって、何かあるとすぐ起きて、終わったら眠るような生活だったんだ。ま、ようは、慣れてるから気にするな」
「大変だったんですね」
「細かい話は守秘義務があるから言えない。ここまで言っておいて嫌味っぽいかもしれないが」
「守秘義務なら仕方ないですよ。墓場まで持っていく秘密の1つ2つは誰にでもあるはずです」
「死神がいうと重みが違うな」
「図書館で読めちゃいますけどね♪」
「オチはそれか」
「オチがついたので寝直します」
「いい夢見ろよ。睡眠の質は肌に影響するからな」
「変なところで乙女ですね」
「好きな人には健康でいて欲しいじゃないか」
「……逆に眠れなくなっちゃうじゃないですか」
「雨、降りませんでしたね」
「降りはしなかったが夜は冷えるな」
「昼間はあんなに温かったのに……」
「薄い上着を一枚用意しておけばよかったな。家までこれで頑張ってくれ」
「手だけ温かくても困ります」
「空いているのに窓際の席に案内されましたね」
「どうやら、客寄せパンダにされたようだぞ」
「店内にお客さんがいないと入りにくいですものね」
「うむ」
「でも、うれしいです」
「どうしてだい?」
「誰かに見せても恥ずかしくないってことですから♪」
「怒涛の休みでしたね」
「はしゃぎ過ぎた気はするな」
「たまの休みぐらい羽を伸ばしてもいいじゃないですか♪」
「次の連休までが遠いしな」
「そうやって考えると休みが窮屈になってしまいますよ。笑ってください」
「にっ」
「そのほうが楽しくなりますよ♪」
「一週間がはやいですね」
「ほんと、あっという間だな」
「しばらくは連休ないんですよね」
「連休がないなら土日に計画立てて出かけよう」
「そうしましょう♪」
「外に出かけるのは好きかい、お嬢さん」
「好きですよ、とても」
「今日は夜遅くに雨が降るようですね」
「定時ダッシュ日和だな」
「はやく帰ってきてくださいね。待ってますから♪」
「ご期待に応えられるよう努力する所存であります」
「でも、無理はしないでください」
「元よりそのつもりさ。いってきます」
「いってらっしゃい」
「家の中のものは自由に使っていいと言われましたけど、ベッドの下で探しても良いんでしょうか。そんな都市伝説みたいなことがあるとも……ありましたね。このケースの中にはアレなものが入ってたりするのでしょうか? ……ハズレって私のためにトラップ用意したんですか?」
「ベッドの下のアレを見たな」
「な、なぜ、それがわかるんですか?」
「あれにはカメラが仕掛けてあってな」
「え」
「箱を開けると自動的に撮影するようになっているんだ」
「何ですかその小細工は!」
「というのは嘘だ。何となく見たような気がしたのさ」
「どうしてわかったんですか?」
「ベッドの隣においてあった作業台が動いているからだよ」
「あ……鋭いですね」
「なめてもらってはこまるよ、チミィ」
「誰ですか」
「誰だろうな。そういうわけで空箱だ」
「カメラも入ってないんですね」
「もちろん」
「仕切りをとってもやっぱり、何もないですね」
「最初にカメラが、といってすまなかったな。大丈夫だ、撮ってないから」
「わかりました」
「不満そうだな」
「ちょっと悔しいのと恥ずかしいので内心複雑なんです」
「悪かった。この手のネタはやめよう」
「隠してあるものを掘り起こそうとした自分が嫌なんです」
「真面目だねぇ、お嬢さん」
「茶化さないでください」
「なら、相手に聞けばいいじゃないか」
「……そうですね♪」
「当り障りのない範囲で答えよう」
「あ、ずるいです」
「どうも、神様は気象を操って人類を滅ぼすつもりらしい」
「最高気温の差が激しいですね♪」
「ボケ殺しか」
「面白くないのでポイントが下がっちゃいましたよ」
「まさか、そんなことは」
「ないので安心してくださいね」
「ブラックユーモアのセンスはあるな」
「ただいま」
「おかえりなさい」
「……まさか、朝からそこに?」
「そんな猫じゃないんですから」
「猫だって寝返りうったり散歩いったりしたあと定位置に戻るぞ」
「じゃあ、私は猫ですね♪」
「堕落した死神とは属性てんこ盛りだな」
「今日は気温が少し上がるんですね」
「金属疲労を起こして壊れそうだ」
「金属だったんですか。なら、磨いてあげます♪」
「気持ちだけで十分だ。熱中症になったりしないよう気をつけないとな」
「まだ収穫にははやいですから、倒れないでくださいね」
「わかってるよ」
「夜は涼しいのに朝と昼が暑いですね」
「そろそろ落ち着いた気がするのだが、如何せん俺も歳だからな」
「まだ、はやいですよ」
「おお、そういっていただけるとは感激ですぞ」
「赤くてもじゃもじゃした生き物を連想しました」
「くっ」
「眠そうですね」
「よくわからないが眠りが浅かったんだ。人にわかるレベルで浅かったか」
「半休とりましょう♪」
「リスク減らすならそうなんだが、わがままを言い過ぎてな」
「そうですか。難しいですね」
「10分ぐらい寝ればすっきりもするだろう」
「兵士じゃないんですから……って寝ちゃいました。妙に寝つきがいいですよね」
「雨がすごいですねってなんですか、その格好」
「雨具だよ」
「それならこっちの外套がマジカルに解決してくれますよ♪」
「さすがに濡れたりしないのは違和感覚えられるだろう」
「そうですね。それにしても、慣れてきましたね」
「何がだ?」
「マジカルっぷりに」
「本棚の本、読み終えちゃいました」
「いいペースだな」
「面白かったです」
「それは、よかった。意外と文学少女なのだな」
「~♪」
「なぜ、喜ぶのかな、お嬢さん」
「文学少女の響きが良いからですよ」
「ほぅ」
「訪問介護センターが近くにあるんですか?」
「ん、そうだな。あの車のセンターも最近、できたんだ」
「需要はこれから増えるでしょうしね。……あ」
「どうした?」
「今、車から降りた人、知り合いです」
「知り合い、同業の?」
「はい、同業です♪」
「今日はキスの日で恋文の日だそうですよ」
「じゃあ、夕飯はキスの天ぷらだな」
「恋文は?」
「そこの引き出しに便箋が入っているぞ」
「全部のネタを潰さないでくだ……ん……」
「……それじゃ、いってくるよ」
「い、いってらっしゃいっ」
「蒸し焼きですね」
「お嬢さん、これから梅雨と夏がやってくるのだぞ」
「この時期は苦手なんですよぅ」
「冷房、我慢せずに使っていいからな」
「ありがとうございます。でも、電気代が」
「健康と命を電気代で買えるなら安いものさ」
「そうですね」
「探さなくても地獄はこの世にあるんですよ」
「この世が地獄だという宗教もあったっけか。どこの宗教かが思い出せないが」
「だから、自分に罰を、みたいなこと考えなくてもいいんですよ♪」
「論理が飛び出して返ってこない」
「お星様になったんです」
「なーむー」
「しばらくは傘を鞄に忍ばせておいたほうが良さそうです」
「まるで傘を暗殺道具のようにいう」
「違ったんですか?」
「お嬢さん、俺の仕事が何か知っているかな?」
「地域の平和を守る仕事ですよね」
「うむ」
「では、暗殺もありますね♪」
「ないから!」
「福利厚生の一環で非番の時でもドローンを呼び出せるんだ」
「何ができちゃうんですか?」
「外に出なくても天気が確認できる」
「物臭ですね」
「有効活用するならナビが一番だ。現在位置や混雑状況を教えてくれる」
「スマートフォンで事足りませんか」
「実に」
「蒸し焼き日和だ」
「おいしくいただきます♪」
「この前は暑さでぐったりしていると思ったらこれか」
「文明の利器は素晴らしいですね」
「元気が一番ではあるな」
「なんですか、その含みのある言い方は」
「他意はないよ」
「何でこんなに暑いんですか」
「さあ、なんでだろうなあ」
「冷たい飲み物がおいしいですが、身体には毒ですね」
「夕食は鍋にするか」
「両極端ですよ、それは」
「わがままお嬢さんだなぁ」
「むむぅ」
「夜は気温が下がるだけいいですね」
「寝やすいといえば寝やすいが……少し寒いな」
「窓を閉めると朝は暑いと難しいですね」
「少し開けておくか。あとは何か光を遮るものをおいくとかか」
「声が眠たそうですよ」
「あー……続きは明日な」
「はい」
「うにゃーっ」
「どうした、お嬢さん、ついに暑さで頭がやられたか!?」
「何となくいってみただけですよ♪」
「より手遅れに見えるが 「やると楽しいですよ。では、ご一緒に」
「……」
「せーの」
「うにゃー」
「いただきましたー」
「罠だと!?」
「アイスの減りがはやいですね」
「あまり食べると夏バテするぞ」
「たくさん食べられるのは大人の特権ですよ♪」
「真面目な話、冷たいものを食べすぎると内臓の働きが悪くなる。体に毒だぞ」
「わかりました。……まるでお母さんみたいですね」
「そこはせめて父だろ」
「北海道は涼しいって聞いたんですが、何だったんでしょうか」
『北海道組の夏が楽しみだぜ、が死亡フラグになるなんてね』 「言霊の国ですから」
『それがあたしらにも通じるの?』 「郷に入れば郷に従え、ですよ♪」
『従わされてるの間違いよ』
「関東も梅雨入りですかぁ」
「雨だ、洗濯物が乾かない、と嘆いている間に夏が来るぞ」
「この湿度、私は耐えられるのでしょうか」
「文明の利器があればなんとかなるぞ」
「格好は矛盾しますけどあの外套を着てれば快適なんです」
「見た目が暑苦しいから却下だな」
「傘を忘れてますよ」
「ありがとう」
「慌てん坊さん♪」
「誰にだって傘を忘れるときはある」
「えへへって笑ってくださいよぅ」
「野郎がえへへといっても可愛くないな」
「私がやったら可愛いんですか?」
「無条件に可愛い」
「……えへへ」
「うむ」
「このコート、あれだけの雨の中、歩いても濡れないとはすごいな」
「それはマジカルコーティングが雨を弾くからですよ♪」
「マジカルをつければ許されると思うのかな、お嬢さん」
「事実ですから♪」
「世の中、たくさんの不思議があるのだな」
「毎日がわくわくですね」
「考太さん」
「どうしたんだい、クレア」
「あ、いえ、名前で読んでみようと思って、やってみたんです♪」
「ほう。いい心がけだ、お嬢さん」
「顔、近いですよ」
「そういうことをする場面ではなかったか」
「心の準備が………まだ……」
「準備ができたらいってくれ」
「明日も雨のようですね」
「梅雨というよりは台風シーズンが襲来したようだ」
「風がないだけよいのでしょうか」
「いっそうのこと、風も吹いてくれたほうが会社は休みやすいんだが」
「意外なことを言うんですね」
「不労所得、いい言葉じゃないか」
「不労所得なんて言っても準備はしっかりするんですね」
「ずぶ濡れはまっぴらごめんだ。このマジカルなコートのおかけでだいぶ、コンパクトになった」
「高い携帯性と超軽量なのが売りですから♪」
「販売員の仕事に向いているかもな」
「結局、昨晩は雨のない時間に帰ってきたわけだが、どう思う?」
「備えあれば憂なし、です♪」
「コートも折り畳み傘もいれておくか。あまり、重さが変わらないなんて、まるで魔法だ」
「本物の魔法ですよ」
「そうだったな」
「今度来るカタログ見ますか?」
「何のカタログだい」
「死神向けの服の通販があるんです」
「それは、人間の俺が見たり頼んだりしてよいものなのか?」
「家族も対象に入りますから大丈夫ですよ」
「そうか。なら、見させてもらおう」
「慣れると戻れませんからね」
「便利なものを知るとな」
「ようやく、過ごしやすい気温になりましたね」
「無理せずに空調を使っていいんだぞ」
「体をならさないと」
「マジカルな服に守られてはいたくない、か」
「違うんです。可愛い服が着たいんです♪」
「制服より私服か」
「今度、ショッピングに行きましょうよ♪」
「ショッピング? まあ、荷物ぐらいはしよう」
「何を言っているんですか、あなたの服も買うんですよ」
「お、おう」
「いつも仕事してるっぽい格好じゃないですか」
「むぅ」
「嫌いか、この格好」
「好きです。でも、バリエーションも欲しいんです」
「なるほど」
「蒸し暑いな」
「このマジカルな服なら通勤中の不快感ともおさらばです♪」
「また、女装勧誘の時期が来てしまったのか」
「男子用もありますよ」
「それはそれで今度は若過ぎて辛いのだよ、お嬢さん」
「十分、似合いますよ♪」
「ううむ」
「今週はずっとこんな天気なんでしょうか」
「あまり、天気はよくなりそうにないな」
「これが梅雨なんですね」
「はじめてなのか」
「は、はじめてです…」
「もじもじするな」
「ちぇー」
「膨れっ面もなしだぞ、お嬢さん」
「ボケ殺しを極めましたね♪」
「晴れているように見える」
「晴れですね♪」
「しかし、天気予報は午後、荒れるという」
「トマトも食べてください」
「このネタに着いてくるとは、さすがだな」
「ありがとうございます♪」
「念のため雨具は準備しておこう」
「それと暗殺道具をですね」
「ない」
「魂のポイントが見えるというが壁越しにも見えるのか?」
「頑張れば見えますよ♪」
「見えるのか、それは驚きだ」
「ただ、かなり頑張らないといけないので普段はしませんよ」
「なるほど」
「透視とかもできますよ、頑張れば」
「プライバシーの概念が消し飛ぶな」
「これは使ったらダメとお達しが出てます」
「そうだろうな」
「バランスを崩すので使ったらダメと言われているものは多いんですよ。ここだけの話ですが」
「お嬢さん、ネタバレは面白くない」
「ネタバレ、ですか」
「秘密がある方が美しくなるとも言う」
「風は気持ちいいですね」
「日差しが殺人光線だな」
「今の時間は外に出る気はしません。家でのんびりしましょう♪」
「そうしよう。特に急ぎの用事もない」
「積んだ本を崩すのも良いと思いますよ♪」
「ああ、あの山か」
「そうです」
「大きくなったなぁ」
「冷凍庫にたくさんアイスが入ってますね」
「お嬢さんが長風呂している間に買ってきた」
「大人買いですね♪」
「これぞ、大人の特権」
「ふふ、意外と子供っぽいところがあるんですね」
「少年の心を忘れないといって欲しい」
「では、可愛い人で♪」
「なっ」
「この前、友達とご飯食べに行ったんです」
「ああ、ついに行けたのか」
「なかなか予定合わなくって大変でした」
「やはり、仕事が忙しいのか」
「そうなんですよね。人の仕事するからいけないんだと思うんですが」
「兼業死神か」
「シュールな響きですね♪」
「何の話をしたんだ?」
「死神は辛いよ。彼氏彼女の事情の二本立てでした」
「……」
「だ、黙らないでくださいよぅ」
「人間とあまり変わらないな」
「仕事が特殊なだけですよ♪」
「ふむ」
「それから、私の彼氏は世界一だと報告してきました」
「なっ!?」
「何と睨めっこしているのかな、お嬢さん」
「何が仕事がないかな、と思いまして」
「求人情報を見るなら数週間単位で見ておけ。ずっと出ているところは、何かしらの理由常に人手不足だ」
「本業が忙しくなりそうな仕事、ということですね♪」
「否定出来ないな」
「じゃあ、このバイトは危なさそうですね」
「それは、携わると食べたくなくなるで有名だな」
「そういう仕事があるからポイントの貯まりが悪くなるんです。いけませんね」
「ほぅ」
「な、なんですか」
「死神の顔をしているな、と思っただけだよ、お嬢さん」
「この部屋、一人だと音が響くんですよね……」
「一人の時って何をして過ごしてたんですか?」
「家事やったり飯食ったり」
「それは、そういうのもあるでしょうけど」
「ゲームやったり、本読んだり、散歩に行ったり。そうだな、電車で軽く出かけたりもしてたな」
「私が来てから引きこもりになってませんか?」
「そうか? 休みになれば出かけたりしてるじゃないか」
「なんだか、ペースを乱しているような気がして」
「二人でいるのに今まで通りの生活してたら、相手の存在を無視していることになるではないか、お嬢さん」
「言葉が上手ですね」
「お互いに変わったと思うぞ」
「それは、そうです」
「そうだな、一緒に俺が好きな場所に行くのも悪くない。が、その代わり条件がある」
「何ですか?」
「君の好きな場所に俺を連れて行ってくれ」
「わ、わかりました。いいですよ♪」
「げ、ゲーム、結構、激しいですね」
「目を回したか?」
「いや、展開が速かったのでちょっと頭が追い付いてない、です」
「そういうものか」
「よくあのスピードで狙いを定められますね」
「結構、やりこんでたんだ」
「慣れだけだとは思えないのですが」
「俺なんか下手な方で上はもっとすごい」
「うぅ目を回しそうなのでいいです」
「ふぅむ。もう少し遅い方がいいか」
「そもそも、私、ゲームはあまりやってなくて……うぅ」
「そうやって我慢するのは悪い癖だぞ、お嬢さん」
「だって楽しそうだったから」
「そういう時は邪魔をしていいんだ。辛いと言っていいんだぞ。遊びなんだから」
「かたじけないです」
「キャラ変わってるぞ。そこで横になるといい。何か飲むか?」
「白湯をお願いします」
「意外な弱点があったものだな」
「私、か弱いんですよ♪」
「自分で言っていたら世話ないな」
「んくんくんく……はあ。落ち着きました」
「今日はこんなところにして寝よう」
「ゲームの夢を見そうです」
「ふむ」
「なので同じベットで寝ましょう!」
「その理屈はおかしいが採用だ。今日は涼しいし」
「湯たんぽですか、私」
「え、あ、もうこんな時間に!?」
起きて目覚まし時計を見て私は取り乱してしまった。 確かに昨晩はゲーム酔いで疲れてはいたけど、こんな時間まで寝ているとは思ってもいなかった。 無意識に時計を止めてしまったのか、と目覚まし時計を手に取ると後ろになれない感触。 付箋が貼ってあった。 彼の文字で「昼に鳴るようにしておいた。どうだ……怖かろう」 と書かれていた。 笑って流せるように小ネタを挟むあたりがらしい。 ありがとう、と言われるのが照れくさいらそうするのだと私はこっそり思っている。 言葉以外にどういうお礼がいいかな?
「どうして昨日は起きれたんですか?」
「夜勤と仮眠とこれかな」
「このリストバンドはなんですか?」
「バイブレーション式の目覚まし時計が入ってる。同じ部屋で寝ている仲間の邪魔をせずに起きるための秘密兵器だ」
「そこまで気を遣っていただいたなんて」
「寝顔が可愛かったからついな」
「それで前日から準備しますか? それとも私の寝顔はいつも、可愛くないですか?」
「意地悪な質問をするなぁ、お嬢さん」
「気遣いはありがたいですけど、あまり、隠さないでくださいね」
「……わかった」
“レンズを磨かれて上機嫌になっているリッパーの様子を送る”
「羽ぱたぱたさせて可愛いですね……えっと、犬っぽい?」
“忠犬だ。たまに噛み付くが”
「噛み付くのは忠犬ではないと思います」
“テキビシー”
「微妙な天気だな」
「安定はするらしいですよ」
「ここ数日が不安定の極みだったからな」
「異常気象とはこのことですね♪」
「嵐の日はテンションあがるのかい、お嬢さん」
「はい♪」
「戸締りと怪我に注意してくれたまえよ」
「外に出て遊んだりはしませんよぅ」
「梅雨をやり過ごせる人、すごいです」
「そのうち慣れるぞー」
「ソファでぐったりしながら言われても説得力ないですね♪」
「何を言うか、人類は科学の力で梅雨を克服し、ここにいるのだぞ」
「エアコンさまさまですね」
「新調して正解だった」
「はい♪」
「休みの日に限って天気が悪いですね」
「梅雨だからと言ってしまえばそれまでだが……最近の梅雨は情緒というものを知らないからな」
「雹まで降らせますからね」
「情け容赦がない。前もこんな話をしたな」
「神様は管轄が違うと言って逃げました♪」
「役所か何かか」
「天気がいい間に買い物いっておいて正解でしたね」
「この時間になって降り出し……止んだ?」
「雨雲が流されてきたのでしょうか」
「天気が読みにくいのだけは確かだ」
「梅雨の間に遠出の計画を練ったり準備したりしたほういいですね♪」
「切り替え早いな、お嬢さん」
「暇つぶしに、と言われてもアクションゲームは苦手なんですが……あまり、うるさいと魂抜きますよ?」
「川俣ー」
「どうした?」
「お客さん」
「お客さん? 打ち合わせの予定はなかったはずだが……」
「嫁さん」
「嫁じゃない!」
「いいから迎えに行っておいでよ――2つの意味で」
「メール見てませんか?」
「お、弁当忘れてたのか」
「ダメですよ、愛妻弁当を忘れたら♪」
「まだ、結婚してないだろう」
「待ってますよ♪」
「ありがとう」
「含みがありますね?」
「解釈は任せる。気をつけて帰るのだぞ」
「はい♪」
「はい、今日は忘れないでくださいね」
「今日も忘れないように、と言われないよう気をつけるよ」
「仕事中にに会うにはいい手ですよ♪」
「代償があまりにも大きかったのだよ」
「あとで詳しく聞かせてくださいね」
「……しまった」
「今日も雨具が手放せないな」
「着慣れてきましたね♪」
「これも馴染むのか。興味深いよ」
「慣れているのはあなたのほうですよ」
「あまり意識してなかった」
「ふふふ、私色に染めちゃいます」
「ふはは、染めているつもりで染まっているかもしれないぞ、お嬢さん」
「雨ですね」
「梅雨だからな」
「ご飯どうしましょうか」
「温かい素麺はどうだ。材料はあるぞ」
「いいと思います。今日は少し冷えますしね」
「上に一枚羽織るだけでも違うぞ」
「それなら温めてくださいよぅ」
「ここを離れると我々は飢えるぞ」
「それは困りますね」
「これでも羽織って耐えるのだ。必ず救援隊が来る。そう信じて」
「それで手を打ちましょう♪」
「ネギ山盛りにしてやろうか」
「いいですよ。私、ネギは大好きなので」
「どちらにしても山盛りだな」
「いらいらした時はどうしますか?」
「背筋を伸ばして肺が膨らむイメージでゆっくり深呼吸を30秒ぐらいする」
「具体的ですね」
「大抵は疲れや眠気からくる意味を伴わないだからな」
「なるほど」
「それに振り回されるのも相手にぶつけるのも不条理だしな」
「今日も雨と言うか今週も雨ですか」
「金曜日はビッグイベントがある」
「台風ですね。私、実は初めてなんですよ」
「ほぅ」
「初めて尽くしで毎日新鮮です♪」
「刺激溢れる毎日ではあるな」
「なんですか、その含みのある言い方は」
「照れ隠しさ」
「今日は天気がいい……ですね」
「窓を閉めて冷房つけながらいうと台無しだ」
「これは蒸し焼きになっちゃいますよ。それとも食べたいですか、蒸し焼きの私♪」
「それなら鳥の蒸し焼きがいいな」
「夕飯は決まりですね♪」
「除湿器の効果は絶大です」
「この時期はこれがあるとないとで大違いだ」
「いろいろ揃ってますよね」
「生活であまり悩みたくなかったから買い揃えたんだ。一番のヒットは乾燥機一体型の洗濯機」
「白物家電マニアだったんですね♪」
「マニアになるのか、これ」
「台風、はやまりましたね」
「これまたシフト組み直しだな」
「明日も飛ばすんですか?」
「飛ばす。人では危ない時のためのものだ」
「でも、無理はダメですよ」
「あいつらの頭の上にもポイントが見える、と言われたのは覚えているとも」
「拍子抜けしちゃいました」
「備えが空振りした分には別――なんだ、この熱気は」
「湿度も高いので殺人的ですね」
「この中を移動するのか」
「昨日のやる気はどこへ行ったんでしょうね」
「風に飛ばされた。――いってきます」
「いってらっしゃい♪」
「こんなに気温が高いと何もしたくないですね」
「そのソファででろーんとしていると、とてつもない説得力がある。素晴らしい」
「ほめても何も出ませんよ♪」
「ほめてないぞ。さて、堕落したお嬢さん。食事はどうする?」
「そばとか」
「では、そばろうか」
「月が綺麗ですね」
「そうだな。いい月だ」
「月なんてあなたとでなれば気にもかけなかったでしょうね」
「恋は人を詩人に変えるのだな」
「からかわないでくださいよぅ」
「からかってはいないよ、お嬢さん」
「そういうことにしておきます」
「今日も灼熱地獄ですね」
「当面はこんな調子だろう。地球温暖化とヒートアイランド現象の重ね味だ」
「ゲテモノですよ」
「ゲテモノだな」
「人類総悪食ですか」
「この流れでは人類の立場が危うくなる」
「確固たる立場にいる存在なんていませんよ」
「理屈はわかるが、その魂を引っこ抜く動きは何かな、お嬢さん」
「感覚的にもわかってもらおうと思いまして♪」
「一度、体験しているからもういいぞ」
「でも、気持よかったでしょう?」
「全くもってそんなことはなかったぞ」
「でもでも、そのうちくせになるかも――」
「プールとか海とか行きたいです!」
「う、うむ」
「行きたいな♪」
「海か。泊まりで行くことになるがいい場所を知っている。ところで泳げるのかな、お嬢さん」
「ばっちりですよ♪ それと、天国にも地獄にもお伴します♪」
「ネタが黒いなぁ」
「起きた時は風が気持ちよかったのに……」
「日が出るとすぐこれだ」
「少し早起きしてシャワー浴びるとさっぱりしていいかもしれませんね」
「前向きに検討しておこう」
「今は時間無いですしね」
「二人の時間を削るのはあまりにも惜しい」
「はい、私も惜しいです♪」
「夕方は雷雨のようですね」
「雷も頻度があがってきたように思う」
「子供の頃は少なかったんですか?」
「こんなにしょっちゅうは遭わなかったはずだ。ま、記憶違いかもしれない」
「子供の頃のことって覚えている時と忘れている時の差がすごいですよね」
「子供の頃?」
「雷、すごかったですね」
「長い間、鳴り続けていたな」
「すぐに鳴りやむものだと思ってましたが、そうでもないんですね」
「雷サージ対策を考えるか。しかし、金がなぁ」
「安全が買えるならそれもありですよ」
「お嬢さん、意外と背中を押すタイプだね?」
「休みの日に限って悪い天気ばかりですね」
「神様の性格が非常に悪いと見た」
「ほんと、性格悪いです。家のことをする口実にはなりますが」
「専業主婦のお嬢さん、やるようなことはあるのかね」
「このお皿がすすぎ終わったら暇になりますね♪」
「海水浴か」
「行きますか?」
「泳ぐなら綺麗な海がいいな」
「そうですね♪」
「魚を見ながら泳ぐのは楽しいのだよ」
「泳げたんですね」
「金槌に見えたか?」
「なんだか沈みそうと思ってました」
「そういうお嬢さんはどうなんだ?」
「ばっちりですよ♪」
「最高気温35℃、殺人気温ですね」
「ついに奴らが本気を出してきたか」
「いよいよ決戦ですね」
「うむ」
「氷多めの水筒にしたので飲み終わったらお茶追加してくださいね♪」
「ありがとう。ボケボケはバランスが悪いと思わないかね」
「楽しいからいいんですよ♪」
「暑いですね」
「……」
「はぁ」
「エアコンのタイマーを再セットしよう」
「起こしちゃいましたか」
「この気温で眠りが浅くなるのは死神も人間も変わらないらしい」
「むぅ」
「何か飲むか?」
「水をお願いします」
「スポーツドリンクは太るからな」
「今日は涼しいですね」
「いっそうのこと、このまま、涼しくはなってくれないものか」
「涼しくなったら抱きつきやすくなっていいですね♪」
「ああ、下がらなくてもいい気が」
「抱きつかれるのは嫌い、ですか?」
「今のは、その、ジョークでだな」
「♪」
「魂の価値は何を成したかで決まる、か」
「深く考えないほうがいいですよ」
「何も考えず何かを成すのは難しいだろう」
「深く考えないのと何も考えないのは別ですよ、といったら言葉遊びでしょうか」
「ニュアンスは、わかる」
「気長に、ですよ」
「ポイント、ちゃんと増えてますから安心してください」
「そうか。実感があまりないな」
「でも、手応えのようなものはあるでしょう?」
「ある」
「それがあるなら大丈夫です♪」
「胸を張れ、か」
「はい♪」
「お天道様の下を歩ける人生を歩んだつもりだったのだが」
「私の唇が気になりますか?」
「死神と暮らしているのは、どうなのだろうなぁ」
「お天道様が悪いといっても私が良いので大丈夫です♪」
「うわぁ」
「灼熱の戦場にようこそ、と歓迎されているような」
「大気の状態は不安定だと言われっぱなしだ。まだ、降られてないのが幸いか」
「降ってくると傘は役に立たないですものね」
「夏の天気のメニューから夕立ちが消えて久しい」
「ゲリラ雷雨のほうが安上がりなんです♪」
「これが新しく発表された冷却機能がついたウィンドブレーカーですっ」
「切るには勇気がいるな」
「今着ないでいつ着るんですかっ」
「この可愛いデザインの服を俺に着ろと言うのかね」
「ギャップ萌えと言いますよ♪」
「萌え?」
「萌えです」
「解せぬ」
「皆さん、ケーブルみょんみょんさせながら歩いてますね」
「イヤホンやヘッドフォン、最近はスマートフォンの充電ケーブルか。どこかに引っ掛けそうだ」
「カバンの中にスパゲティがありそうですね♪」
「まずそうなスパゲティだなぁ」
「眠れそうで眠れないんですが」
「話なんかしたら余計に眠れなくなると思うがどうかね、お嬢さん」
「いっそう、夜更かしするのも悪くないと思います」
「夜更かしは美容の敵だと聞くがどうかねお嬢さん」
「気のせいです」
「ばんなそかな!」
「日差しが朝から強いです」
「殺人光線だな」
「浴びると爆発しそうです」
「動きが止まったあと、頭から砕けて散る」
「特撮の怪獣ですね♪」
「ふぅん、見ていたのか」
「父が見てたんです」
「てっきり、兄弟がいるのかと」
「私、一人っ子ですよ」
「夜になるといくらか涼しくなる、とはいってもやっぱり冷房任せですね」
「やせ我慢はするものではない」
「そうですよね♪」
「そういってアイスを食べ始めるのはどうかと思うぞ。太らないにしても」
「見た目的に落ち着きませんか?」
「まぁ、止める理由もないか」
「週末は台風ですかぁ」
「祭りを予定しているところは大変だろう」
「自然は厳しいですね」
「神様の性格はやっぱり悪い」
「ノーコメントです」
「おかげで余計な仕事が増えた」
「飛行計画の見直しですね」
「うむ。ドローン達が慣れてきて楽にはなったが」
「風が気持ちいいですね」
「そうだな。だが」
「湿度が高いです。これは動くと汗が吹き出そうです」
「湿度が下がるまでの辛抱だ」
「季節の移り変わりはよいのですけど、気温が高いとくっつきにくいです」
「冷房を強めてくっつく人が何をおっしゃる」
「薄着にするのはいいが目のやりどころに困る格好はやめてくれまいか、お嬢さん」
「ノースリーブはだめですか?」
「あまり、見ないからな」
「見慣れていると言われたら刈り取るつもりでした♪」
「右に転んでも左に転んでも死なないかね」
「回避成功ですよ」
「いきなり降ってきましたね」
「油断してしまった。大丈夫か?」
「だいぶ、濡れちゃいました。着替えた方が良さそうです」
「気休めにしかならないが、これでも羽織っておけ」
「ありがとうございます」
「早く止んで欲しいが」
「しばらく、このままでいいですよ」
「もう少し、生地はなんとかならないのか」
「厚手だと蒸し焼きになりますよ。食べたいっていうなら、私、頑張ります♪」
「そういう頑張りはいらないぞ、お嬢さん」
「でも、少し、冷えました」
「この様子ならもう少しで止むだろう」
「はい」
「花火の音がします」
「どこの花火大会だったかな」
「今からだと間に合いませんね」
「近くでは見られないがここからでも見られる」
「でも、ベランダからは見えませんよ」
「少し待っててくれ」
「はい」
「ただいま」
「鍵、ですか」
「屋上の鍵を借りてきた」
「すごいです、どうやって手に入れたんですか?」
「借りてきたのだよ、お嬢さん」
「では、さっそく行きましょう」
「黒い防水シートの上は歩かないようにな。それから柵は低いから要注意だ」
「なかなかデンジャラスですね。でも、燃えます♪」
「趣旨が変わったぞ」
「魂のポイントは人間や人間に近い存在だけが持っているのか?」
「正確なところはよくわかってないです」
「アバウトだなぁ」
「わからないものはわかりませんよ」
「まぁ、それもそうか」
「人には人の形をした死神が、ほかの動物にもその形をした死神がいるかもしれませんよ♪」
「特に宗教はないといいながらお盆には先祖を迎えたり送ったり、お墓参りにいくのは興味深いです」
冷たいお茶を一口飲んで、 「その様子が見られたらきっと、大行列でしょう。どんな顔で歩いているのかも……気になります」
「早いうちに止まってましたね」
「ケチらずに二枚は入れておくか」
「朝起きたら汗まみれになっているのはちょっと」
「少しの辛抱だ。海水で清められる」
「そういう問題じゃないですよぅ」
「問題ないから安心しなさい、お嬢さん」
「夜は豪華なのに朝はシンプルですね」
「そして昼は適当に食べるという」
「泳ぐのが目的ですから外で食べるほうが良いですよ」
「泳ぐのは好きかね」
「海ではあまり泳いだことがないですけど、魚と一緒に泳げて楽しいです♪」
「それは何よりだ」
「いい感じに焼けてきましたね」
「ん?」
「背中が」
「泳ぎっぱなしだったからなぁ」
「痛くはありませんか?」
「日焼け止めのおかげで痛くはない。でも、皮は向けるだろうな」
「わくわくします♪」
「お嬢さん、そういうの好きなのか」
「はい♪」
「そうか……」
「ガンガゼとってこれましたよー♪」
「シュノーケリングも覚えたし教えることないなぁ」
「ありがとうございます♪」
「飲み込みがはやくて驚いたよ」
「優しく教えてくれたからですよぅ」
「教えた甲斐があったというものだな」
「手取り足取りしっとりと」
「ん?」
「だいぶ、遊び倒しましたね」
「あんなに泳げるとは思ってはいなかったよ」
「教える人がよかったんですよ♪」
「俺は教わっている人間が優秀だと思ったよ」
「私を褒めてもハートが飛ぶぐらいですよぅ」
「ほう」
「きゅーん♥」
「――寝るぞ」
「ひどいです」
「朝と夜は雨ですって」
「蒸し焼きにされる」
「おいしくいただきます♪」
「食欲旺盛だな」
「そんなことはありませんよ」
「そういうことにしておこう」
「休み明けですから慣らし運転でいってくださいね」
「そうするよ、それじゃ」
「はい、いってらしっしゃい」
「ぐたり」
「力強く生きるのだ」
「嫌です。疲れました」
「死神が生きるのに疲れたとはこれいかに」
「くらげのように生きていたいです」
「遊びすぎたな」
「筋肉痛にはなるんですよねぇ……」
「日焼けには無縁なのに妙な体だなぁ」
「不覚、です」
「おやすみ」
「涼しいを通り越して少し肌寒いです」
「地球が容赦ない」
「にょろーん」
「最近、ダメっぷりに磨きがかかってないかね、お嬢さん」
「家事はちゃんとやってますよ。……一緒にいると落ち着き過ぎているだけで」
「アサリだな」
「おいしく食べてくださいね♪」
「8月も終わりですねぇ」
「そうだな」
「夏休みの宿題で最終日に悲鳴をあげてたりしたんですか?」
「早いうちにやろうと飛ばし過ぎて、中だるみして後半に入ってから面倒な宿題に頭を抱えていた」
「意外と不真面目なんですね」
「うむ、俺はいい加減なのだよ」
「そういうお嬢さんはどうだったのだい」
「スケジュール決めてやってましたよ。量にもよりしたけど、八月の最初の週には終わらせて、あとは好きなことしてました」
「意外と真面目なんだなあ」
「そうなんです♪ 知らなかったんですか?」
「うー、飲みすぎました」
「調子乗って飲むからよ」
「背伸びしてみたいときだってあるんですよぅ」
「子ども扱いされるのがそんなに嫌い?」
「嫌いじゃないですけど、でも」
「そういう背伸びするところが子どもなんじゃない」
「ぅー」
「涼しいですね」
「そうだな」
「おかけでくっつきやすいです♪」
「動けないのだが?」
「しばらく離しませんよ」
「友達といったお店が良かったんですけど、量が少ないと男の人は辛いですよねぇ……量が多いと今度は私が食べきれないですし、難しい……」
「ただいま……こちらの方はどなた様?」
「へぇ、これがクレアの彼氏かぁ。聞いていたより渋いなぁ」
「友人か?」
「そうです」
「同僚のレルファ・サインよ。よろしく」
「ということは」
「死神やってるの。専門は落穂ひろい」
「あ、落穂ひろいは事故や自殺で亡くなった人の魂の収穫のことです」
「一仕事終えた帰りに寄った、ということかな」
「そうそう」
「ああ、名乗っていなかった。川俣孝太だ」
「噂はかねがね」
「ほぅ」
「当たり障りのないことしか話してませんからねっ」
「当たり障りのないことねぇ」
「いやぁ、もうそれは今日はどこへ行ったとか、どこが素敵とか恋する乙女のごふぉっ」
「それ以上、喋ったら殺しますよ♪」
「は、はいぃ」
「クレアさんクレアさん。暴力はいけない」
「あ……」
「思いっきり入ったようだが大丈夫かね?」
「大丈夫です、大丈夫です。……意外とこの子激しいんだよねえ」
「新しい一面を知った」
「あ、これは、レルファにしかやらないので」
「身体は頑丈なのでこれぐらい軽い軽い」
「笑顔がひきつっているぞ」
「すごい雨でしたね」
「久しぶりに大雨警報を見た気がする」
「と言っていたらまた降り出しましたよ」
「噂すれば影といったところか。君の友人は雨に打たれていなければいいが」
「こんな時間までいるほうが悪いんですよ」
「泊まることになるとは思っていなかったな」
「涼しくなったり、暑くなったり忙しいですね」
「挙句に大雨だ」
「だるい感じで終わっちゃいました」
「そういう土日もある。二人なら悪くない」
「……」
「顔、赤いぞ」
「あなたのせいですっ」
「あれで刺激が強いのか。これから先は長いのだぞ、お嬢さん」
「あれ、もう出るんですか?」
「新入りのドローンがぐれた」
「ぐれた、ですか」
「今のやり方が気に入らないらしい。話が通じる人間を出せ、と言ったきり黙っているんだ」
「頑張ってください♪」
「ベストを尽くすよ。いってきます」
「いってらっしゃい」
「AIも岩戸にこもるんですね」
“これは、脱ぐしか無いのか”
「脱がないでくださいっと」
“それにしても、ここまで頑固なのは珍しい。今までに無い事例で皆、困惑している”
「案外、簡単に解決するかも」
“たとえば?”
「脱ぐとか」
“( ゚д゚)”
「そういえば、ドローンはまだ、引きこもってるんですか?」
「まだ引きこもっている。そっとしておこうと所内で結論が出たところだ」
「ドローンが引きこもりというのも妙な話です」
「彼らは頭の回転が速いから、人が思いつかない結論に一人でたどり着く」
「人には相談できない重大な悩み、ですかぁ」
「相談したがり屋は相談するが、逆の場合は一人で解決したがる」
「まわりが信用できないとなおさら、なんでしょうね」
「信頼を得るにはどうするか、か」
「大丈夫ですよ、死神すら一目惚れさせるんですから♪」
「雨ですね」
「あの引きこもり、実は雨が苦手だったりしてな」
「秋になったら元気に走り回る姿が見られるでしょうか」
「犬か」
「犬っぽいじゃないですか」
「そうすると今はリードを全力で引っ張っているわけだ」
「そして、ドローンは全力で踏ん張っているんです♪」
「ひきこもり、かぁ」
「ちなみにまだ引きこもっていて絶賛アイディア募集中だ」
「相当ですね」
「うむ。この前、踊りながら脱いだがダメだった」
「やったんですか?」
「はっはっはっ、やるわけないだろう。首が飛ぶ」
「やるなら私の前でお願いします♪」
「!」
「秋は梨ですね」
「葡萄の存在を忘れてもらっては困る」
「葡萄もいいですね♪」
「あとは焼き芋なんだが……難しいな」
「何が難しいんですか?」
「落ち葉があまりないのとたき火する場所がない」
「世知辛いですねぇ」
「うむ」
「これは下の階の山村さんには菓子折りを持っていかないといけないな」
「すみません。あそこまで賑やかになるとは思っていませんでした」
「大きな獲物がしとめられたのなら自慢もしたくなる」
「優しいんですね」
「気持ちがよくわかるだけさ」
「ずっと雨ですね」
「このまま、寝ている間に通りずぎる、ということもないのだろうな」
「電車も止まるようですよ」
「明日は自宅待機だな。一応、ここからでも仕事はできるし」
「え、そうなんですか?」
「指示出したりするだけならな」
「ハイテクですね」
「青空が見えますよ」
「肌寒かったはずの気温も面白いようにあがってていく」
「汗ばむ陽気という言葉が似合います」
「着替えるのはやいな。いつ着替えたんだ?」
「ニュースを食い入るように見ていた時に後ろでこっそり」
「お嬢さん」
「冗談ですよ?」
「意外とカエルが多いですよね、ここ」
「カエルの歌が聞こえてくるよ」
「げろくわ」
「略しすぎだ」
「深夜に歌うのは近所迷惑です♪」
「ご近所さんに配慮しつつ、ネタに応じるとはよく訓練されているな、お嬢さん」
「学校で習いましたから♪」
「死神の学校は芸人も育てているのか」
「人との会話を円滑に進めるために小ネタも教わるんですよ。一発芸とか宴会芸とか」
「にわかには信じがたいな」
「いくらか盛りました」
「お嬢さん」
「ネタばれすると面白くないのでいろいろ伏せちゃいますよ」
「あ、はい」
「人は魂を抜かれると静かになるんじゃ♪」
「それは死んでいるのだよ、お嬢さん」
「戻すと喋り出しますので厳密には死んでません」
「人の魂を何だと思っているのかな?」
「強いて言うなら収穫物です」
「未だに衝撃的だな、その価値観」
「尊い点で一致していますよ」
「次の台風は強いみたいですね」
「だから、今回はアンテナを倒すことにしたよ」
「倒す、ですか」
「別に壊すわけじゃあないぞ。風が強い時などは寝かせられるようにできているんだ」
「ちょっと面白そうな光景になりそうです」
「見に来る?」
「行く行くー♪」
「この林檎はあたりだな」
「甘味と酸味のバランスがよくておいしいです♪」
「林檎は好きかね、お嬢さん」
「死神は林檎しか食べませんからね」
「デスノートを見せてもらおうか」
「デスノートはないですけど、その人の人生を本にしたライブブックならありますよ」
「その人の人生が本になった、か」
「事細かに書いてあるので、いま、こうして話していることも文字になってますよ」
「秘密も何もないな」
「お天道様が見ているぐらいに考えておいてください」
「まあ、そういうのがないとタイミングよくは出てこれないか」
「前も話しましたけど、私はあなたのそれを読んでないんです」
「直接、聞くのがよいと思っている、だったか」
「そうです。覚えていてくださって嬉しいです」
「読む場面もあるのだろう?」
「たとえば、契約を結んだ相手の行方が分からなくなった時とかですね」
「まるでGPSを使った位置情報発信機だな」
「あとは死ぬ可能性の高そうな人の把握でしょうか。それは司書さんや分析官さんのお仕事ですね」
「いろいろいるのだなぁ」
「そのうち、ご飯を食べに来るかも知れませんよ」
「定食屋でも開くか」
「それもいいですね♪」
「身長差、結構ありますよねぇ」
「そうだな」
「手を繋いだりできるぐらいの差でよかったです」
「あまり差があると親子のような差になるからな」
「でも、最初のころは親子に見えるって言ってましたよね」
「認識を改めることができるのは大人の特権なのだよ」
「アンテナは意外とゆっくり倒れるんですね」
「もっと、合体ロボットモノのように素早く、という意見もあったのだがな」
「男のロマンですか」
「男の子のロマンってやつだ。まぁ、そういう機械はないのでああいう形になった」
「現実的ですね」
「アンテナ、立てるときもゆっくりなんですね」
「あいつは朝に弱いんだ」
「低血圧のアンテナさんでしたか」
「そう言えば、低血圧と寝起きは関係ないらしいな」
「そうなんですか、初めて知りました」
「それも法螺話かもしれないが――2番問題なし、次ー!」
「寒いです」
「猫が丸いままだろうな、これは」
「私も丸くなりたいです」
「すでに布団に潜っているだろう、お嬢さん」
「ぬくもりが不足しています」
「ふむ」
「なっ」
「ふむ、自分のベッドに戻るか」
「寒いので横にいてください」
「はいはい」
「鍋の汁は何にしましょうか」
「味噌汁はどうだ」
「いいですね。贅沢です」
「雑炊にしてもいいし、うどんをいれてもいいな」
「だしがきいているのでなんでもいけちゃいますね」
「なんにでも使えるがゆえに悩ましいな」
「幸せな悩みですよねぇ」
「死神の世界ってどんな場所なんだ?」
「BLEACHを読むといいですよ」
「お嬢さん」
「冗談ですよ。だいたいのところは人の世界と一緒で違うのはちょっと違う能力を持っていることぐらいです」
「そのちょっとが意外と大きいな」
「私、実はひとつやってみたいことがあるんです」
「どんなことだい?」
「チャルメラのラーメンが食べてみたいんです!」
「ほぅ」
「なかなか機会がないんですよね」
「最近は見かけるどころか、音すら聞いていない」
「そうなんですか……?」
「あ、ああ……」
「焼き芋は、石焼き芋はありますよね」
「ああ、それは去年もこのあたりを走っていた」
「見つけたら絶対に買います♪」
「絶対か」
「絶対です」
「気合いが入っているな、お嬢さん」
「気合い、いれて、いきます」
「幸運を祈っているぞよ」
「一気に冷えましたね」
「明日はさらに冷えるようだな。布団が……しまった」
「ないんですね?」
「なぜ、嬉しそうなのかな、お嬢さん」
「同じベッドで眠れる理由ができました♪」
「正直だなぁ、お嬢さん。寝相の悪さに慄くとよい」
「覚悟するのはあなたです」
「いっそう、大きめのベッド一つにするか」
「アメリカンです♪」
「アメリカンかどうかはわからないが、そういうのもありだ。ただ、俺の生活が不規則だからな。安眠の妨げになるかもしれない」
「あ、それはお構いなく。私、丈夫なので」
「それは我慢してるというのだよ」
「この時期にアイスを食べるのはちょっと冷えますね」
「大丈夫だと思ったがそうでもなかったな」
「バニラアイスとヨーグルトの組み合わせがおいしいのがいけないんです」
「違いない。珈琲でも飲むか?」
「眠れなくなりませんか?」
「珈琲は少なめでミルクたっぷりだ」
「まさか、屋上からパレードを見下ろすことになるとは」
「人混みは避けられましたよ」
「職権乱用ではないのかね、お嬢さん」
「あれぐらいはサービスですよ」
「ま、楽しめたのは事実だ」
「あなたも死神になりましょう♪」
「仮装なら考えるよ」
「むうー」
「明日はもっと寒くなるんですね」
「冬なのだな」
「そろそろあのコートの出番です」
「あの素晴らしいコートか。思えばそういう時期か」
「そうしている間に一年が経つんですよ」
「そうして、10年、20年経つのか。悪くない」
「素敵です♪」
「ああ、ほんとにな」
「そこの公園の入り口でしばらく、スマートフォンを操作したあと立ち去る人がいます」
「待ち合わせじゃないのか」
「そうでもなさそうですよ。数日おきに来ますから」
「数日おきか」
「日によっては数十分とか」
「怪しいな」
「気になります♪」
「楽しそうだな」
「昨日お話しした公園に貼りついている人のこと、覚えていますか?」
「怪しい人か」
「はい、そうです」
「今日もいらっしゃってたので声をかけたんです」
「勇気があるな、お嬢さん」
「なんでも世界を賭けた戦いをしているそうです」
「規模の大きな話だ」
「新しいエネルギーが見つかって、そのエネルギーの使い方を巡って2つの勢力が争っているとか」
「それと公園にどのような関係があるんだ。秘密基地でもあるのか?」
「エネルギーの湧き出すポイントらしいです」
「公園がか。急に規模が小さくなったな」
「ほかにも神社とかがそうらしいですよ」
「パワースポットだからか」
「あまり、関係ないかもしれません。えっとそういうゲームのようです」
「理由はわかっても挙動不審は挙動不審だな」
「警察に通報しないでくれ、と言ってました」
「余計に怪しくなるだろう、それは」
「Yシャツってどうしてこんなにプラスチックのピンとか紙が入ってるんでしょうね」
「分別するのが大変だ」
「燃やせば一緒です♪」
「燃やすゴミでいいとは思うが判断するのは俺たちじゃないからな」
「ゴミ集積所に残されると悲しいですね」
「持ち帰るのが特にな」
「この髪飾りの話はどう思います?」
「男にその気はないと気づいて女が失恋した話、だろう」
「私にはさっぱりでしたよ」
「気になって前後の発言を追いかけてみた」
「その手がありましたか」
「小説と一緒だよ。そのページだけでわからなかったら遡って読むんだよ」
「プルシェンコさん、キャラが濃いですね」
「ユーモアがあるな」
「日本の番組慣れしてます」
「もてなすといいながらもてなされているように見える」
「面白いからいいですよ♪」
「それもそうだな。……お茶、もういっぱい飲むか?」
「お願いします」
「明日の気温は冬らしいな」
「しばらく鍋物が続いても怒らないでくださいね」
「冬は苦手か?」
「冬は好きですよ。寒いのが苦手なだけで」
「家にいるときは暖房が、外に出るときはあの快適なコートがあるだろう?」
「それはそうなんですけどね」
「この光って落ちる物体は隕石でしょうか?」
「そして、隕石に付着していた未知の細菌が人に牙をむく」
「アンドロメダ病原体ですね♪」
「渋いね、お嬢さん」
「いろいろ見てますからね」
「謎の患者が出たら隕石でそうでなければ流れ星だ」
「その本は何ですか?」
「アンドロメダ病原体だよ」
「棚にはなかったと思いますが……」
「うむ。なかったので買ったんだ。もうすぐで読み終わるから読むか?」
「はい♪」
「わかった。それじゃ、いってきます」
「いってらっしゃい」
「……2時か。また、妙な時間に……」
「草木は眠る丑三つ時というのだから寝てないとダメですよ」
「おはよう。起こしてしまったか」
「いえ、本を読んでました。便利ですよね、電子書籍」
「目を悪くするぞ」
「それは大丈夫です♪」
「ふむ」
「ホットミルクでも飲みませんか?」
「ま、それも悪くないな。小さめのカップにしよう」
「そうですね」
「夜にこうやって話していると、修学旅行のようだな」
「巡回の先生は来ませんよ」
「修学旅行はどこにいったんだ?」
「奈良です」
「死神が、奈良に修学旅行?」
「ポッキーゲームってやったことがありますか?」
「名前は聞いたことがある」
「今日はポッキーの日ですよ♪」
「この時間やるものでもあるまい」
「この時間でなければいいんですね」
「そうだな。しかし、そこまで気合いを入れてやることかね」
「はい♪」
「新鮮ですね、こういうのも」
「口の周り、チョコでべとべとだがな」
「舐めとってあげましょうか」
「そもそも、チョコの多い豪華なポッキーを使うのが間違いなんだぞ、お嬢さん」
「いいじゃないですか、盛り上がったんですから♪」
「次はないぞ」
「はーい」
「電車はご乱心ですか」
「こういう時は喫茶店かどこかで時間をずらすのが無難だ」
「生きている路線で行くというのはないんですか?」
「時間がかかるだけだからないな」
「ちょっと意外です」
「心の余裕は大事なのだよ、お嬢さん」
「……こうも、あっさりひびが入るものなんですね。むしろ、これでまだ、動いているのがすごいです。でも、このディスプレイは操作すると怪我しそうです……」
「おはようございます」
「おはよう。……寝坊したな」
「ほんと、お寝坊さんですね♪ でも、昨日は遅かったので仕方ないですよ」
「急ぐ理由もないか」
「ご飯にしますか、それとも私にしますか?」
「ご飯だ、ご飯」
「わかりました♪」
「これは、冷えるな」
「この手袋とネックウォーマーがあれば一安心ですよ」
「また例の通販か」
「例の通販です」
「マジカルなのか」
「マジカルです」
「よく手のサイズがわかったな」
「毎日触れてますから」
「ありがたく使わせてもらおう」
「はい♪」
「最近、風邪をひく人が増えてきたようです」
「これだけ寒いとな。うちの職場でも咳をしている人間が出てきた。すぐに所長が肩を叩いていい笑顔で帰れ、言って帰らせる」
「経験はあるんですか?」
「一度だけあった。それ以降は体調不良なら先に休むようにしている」
「走りながらだと当てられないし、止まると襲われるし、八方ふさがりですね、これは」
「こういう時は刃物で突破口を開くんだ。ホイールで武器の切り替えができる」
「鉈ですか」
「攻撃は左クリックだ」
「では、いきますっ」
「突撃!」
「今日も冷えますね」
「ベッドから出たくなくなる」
「寒さにそこまで弱かったんですか♪」
「なぜ、嬉しそうなのかな、お嬢さん」
「死神湯たんぽの出番があるからですよ」
「そんなにひっつきたいのかね」
「はい。いやですか?」
「そんなことは、ない」
「〜♪」
「りんごジャムの淡い赤は綺麗ですね」
「そうだな。しかし、皮の色ならわかるが白に近い色の実からこんな色が出てくるとは」
「不思議ですね。色を着けたりしてないのに」
「うむ。そして、おいしい。食べ応えがあっていい」
「食べるジャムですね」
「うむ」
「みんなの仕事が増えそうなニュースばかりですね。勿体ない……」
「おはようございます」
「おはよう」
「おかげでよく眠れました(意味深」
「その後ろの意味深は何かな、お嬢さん」
「もう、全部言わせないでくださいよぅ♪」
「何も聞かない、聞かない」
「いけずぅ」
「まだ寝ぼけてるな?」
ハッシュタグ「#無駄に意味深を付ける」 ネタ
「思いっきり雨に濡れちゃいましたね」
「油断していた。さっさとシャワー浴びよう」
「先に入ってください。私、風邪は引きませんから」
「それは、抵抗があるが……」
「なら、一緒に入りましょう♪」
「はい?」
「大丈夫ですから大丈夫ですから♪」
「12月が来ましたね。やっぱり、年末と月末は忙しいんですか?」
「フライトプランは組み済みだ。そんなに慌ただしくはならない」
「素晴らしいですね」
「皆の努力があればこそ、だ。予定外のことがなければドローンたちが全部やってくれる」
「ドローンさまさまです」
「死神は病気にならないのだっけか」
「だから、インフルエンザの心配はいりません。でも、ウィルスを運んだりはするので手洗いは欠かせません」
「ふむ」
「それがどうかしたんですか?」
「鳥インフルエンザに備えようと思ってな」
「備えあれば憂いなし、ですからね」
「落穂拾いの時は何かで調べたりするのか?」
「ニュースの速報で調べますよ。あとはそういうのが多そうなところで待ってみたり」
「大変だな」
「冬は寒いので大変だと友人がぼやいてました」
「どこか入るにも待ち時間がわからないから難しいか」
「そうなんですよ」
「このサンタさんを見つけようって企画はなんですか?」
「街にいるサンタをドローンで撮影するんだ」
「逃げ場ないですね……」
「無差別ではないぞ。ビーコンを持ったサンタだけ撮影する。見つかったサンタには知らせが届く。サンタはドローンの方を向いて手を振る」
「そういうサービスなんですね。面白いです♪」
「ある所員が子供からサンタクロースはいない、と言われたのがきっかけではじまったんだ」
「……大人気ないです」
「……まあ、そうだな」
「このお煎餅を缶で買おうと思っているのですが、いかがでしょう?」
「ここのお煎餅は美味いが、二人で食べきれるだろうか」
「頑張ればできそうですよ♪」
「毎日、と頭につくだろう。おいしく食べるには適切な量があるのだよ、お嬢さん」
「では、こちらの袋にしますね」
「そろそろ大掃除の計画を立てないと危ないな」
「片付いているようには見えますが」
「捨てるものが意外と出るのだよ、年単位で使ってないものだとかな」
「ちょっとした宝物探しですね♪」
「むしろ、発掘調査だ。だから、計画的にやるのさ」
「今日は冷えますねえ」
「炬燵の魔力を感じる」
「これが炬燵の加護の力ですねえ」
「まるで猫のように溶けているが大丈夫か?」
「大丈夫じゃないのでベッドまで運んでください♪」
「しょうがないお嬢さんだな、よっと」
「え、あ、わ……」
「お湯が出るって幸いなんですねえ……冬でも冷たい水を使わなくていいなんていい時代です」
「いつの生まれかな、お嬢さん」
「見た目的には平成生まれですよ」
「ほぅ」
「実年齢は、あなたよりは上です、上、お姉さんです♪」
「ほほぅ」
「う、疑わないでください!」
「さーむーいー」
「今日もまた冷えますね」
「“落穂拾い”するなら暖かいところがよかったー」
「はい、コーヒー」
「ありがとー、クレアは天使ー」
「おだてても砂糖ぐらいしか出ませんよ」
「旦那いる人をとったりしませんー」
「インフルエンザが流行りはじめているようです」
「手洗いうがい早寝早起きを励行しているがどうなるかね」
「ワクチン接種はしましたか?」
「存在を忘れていたよ」
「症状が軽くなるとも言いますよ」
「実はな。注射が苦手なんだ」
「え」
「面目ない」
「意外です」
「林檎は普段食べることがなくてな」
「可愛いウサギさんです」
「病気の時に食べてたんだ。すりおろしたりとかでな」
「特別な思い出がある食べ物なんですね」
「まあ、楽しくない思い出だった。高熱ばっかだからな」
「病弱だったんですね」
「こう見えてもな」
「愛してる、と聞かれると盛り下がりませんか?」
「盛り下がりはしないが身構えるな。愛しているのにそういわれたのなら、伝わってないか表現してないか……もしかしたら疑われることをしたのかもしれない。考え出すときりがない」
「試されると疲れますね」
「うむ」
「このジャンパーはなんですか?」
「前に会社で使ってたジャンパーだよ。社名が変わってから使ってないんだ」
「Drone Experiment Team……なんかかっこいいです♪」
「あの頃は迷子になったドローンを迎えに行ったりしてた」
「迷子?」
「ドラマのような恋はしなくていいですよねえ、大変そうですし」
「ある日、死神が家に押しかけてきて、それも一目惚れで、なし崩し的に同居はじめて、というアニメか漫画のような日常なのだがね、お嬢さん」
「大変ではないでしょう?」
「日々、スパイスに溢れているな」
「クリスマスイヴですね」
「どこか出かけるかね、平日だが」
「ツリー見てケーキ食べましょう♪ でも、仕事は?」
「定時で切り上げる」
「残業が起きるかもしれませんよ」
「切り上げる、といっただろう」
「では、お店、探しておきますね」
「楽しみにしてるよ」
「待たせたな」
「ちょうど、いま、来たところです♪」
「そうか」
「では、行きましょう。お店に案内します」
「よろしく頼む」
「任せてください♪」
「チキンブロスが身に染みるな」
「こういう寒い時にはいいですね」
「ところでこのチキンブロスは」
「国産の鶏肉なので安心してください♪」
「なぜか不安になった」
「顔が笑ってますよ」
「それはジョークだからな」
「ふふ、わかってます」
「死んだ人を生き返らせたら手続き大変そうですよねえ」
「法は死人を認めないだろうからな。自己連続性も怪しそうだ」
「死んだはずなのにまだ生きているのは混乱しそうです」
「死んだ人間は死んだままがいいんだ。その人のためにも、まわりの人たちのためにも」
「燃えるゴミは今日で最後でしたっけ」
「そうだがこの時間まで起きていると出すのは難しそうだな」
「一層のこと、徹夜しちゃいましょうか」
「それはきっと明日は寝て終わりになる」
「堕落した生活も素敵だと思いますよ」
「ま、前向きに考えておく」
「なぁ、クレア」
「はい、なんでしょう?」
「こっち来るか?」
「はい、喜んで♪」
「やはりベッドは狭いな」
「ひげがしょりしょりします」
「嫌か?」
「面白いですよ♪」
「そうか」
「こうやってみると胸板が厚いですね」
「鍛えているからなぁ」
「雪ですかぁ」
「雪だねぇ」
「紅茶がおいしいです」
「初詣行くのは難しそうだ」
「そうですね。あそこの芝生、白くなりはじめてますよ」
「いつまで降り続けるのだろうな」
「積もりそうです」
「積もったらかまくらでも作るか」
「楽しそうです♪」
「これから見る夢が初夢になるんですよね」
「そうらしいな」
「なら、あなたの夢が見たいです」
「枕の下に写真を入れるとかするか?」
「意地悪ですね。腕枕がいいです」
「では、隣にどうぞ、お嬢さん」
「これなら見られそうです」
「俺も見られそうだ」
「何の夢ですか?」
「君の夢だよ」
「い、いい夢になるといいですね」
「顔、赤いぞ」
「み、見ないでください」
「理不尽だな。おやすみ」
「おやすみなさい」
「深夜ですね」
「寝ない子はお化けがさらっていくぞ」
「お化けぐらい魂刈り取れば終わりですよ♪」
「子供には効果的だったんだがなぁ」
「ふっふっふ、私を誰だと思っているのですか」
「美少女死神」
「顔には自信があるんですよ」
「軽読書をした気分だ」
「混雑や天気が悪いのを理由に避けてましたけど、いつ行きましょうか。初詣」
「死神が初詣しても大丈夫なのか?」
「宗教的にはアバウトなので大丈夫です」
「ああ、そういうものなのか」
「そういうものです。何を信じてもいいし信じなくてもいいので」
「平和ですね」
「静かな時間が一番だ」
「静寂は耳が痛くなりませんか?」
「生活音は聞こえる。互いの気配も感じられる。これは、いい静けさだ」
「互いに好きなことやって、ふとした時に声をかけて話し始めて……素敵です」
「軽くお茶でも飲むか?」
「それをいただいたら寝ます」
「そうだな、俺もそうしよう」
「あまり濃いのにしないでくださいね」
「眠れなくなったら困るものな」
「ええ、そうです。加減は難しいですけど」
「やりがいがある。おおげさだな」
「ふふ。ありがとうございます」
「帰りは横殴りの雨か。早めに帰してくれればよいのだがな」
「そうは問屋が卸さないですか」
「予報次第では卸してくれるだろうが、台風にでもならないと難しいだろう。このセットがあれば濡れずに済むだろう」
「優秀ですからねえ、これは」
「後は本でも持っていくさ」
「昨日の雨は無事に回避できたんですね」
「ドローンが一機、風に流されて騒然としたがな」
「流されちゃうんですか」
「我、操舵不能、などといっていたから皆で無視したのだが本当に流されていたとは」
「大丈夫だったんですか?」
「うむ」
「もっと硬い性格なのだと思ってました」
「彼らは真面目な性格だぞ。真顔で冗談を言うから扱いに困るだけで」
「笑いどころがわからないんですねえ」
「LEDランプが必要だ」
「ユーモア度の設定もですね」
「なかなか手ごわいですねえ」
「AIいえどあなどれない」
「隅っこがよほど欲しいように見えます」
「難易度を変えるとより直接的に取りに行くのがわかる」
「これぐらいなら勝てそうです♪」
「油断していると一気に持ってかれるぞ」
「ここまで優位でそれは……あ」
「お茶、おいしいですねえ」
「そうだな。もう少し飲むか」
「いただきます。……ありがとうございます」
「明日は少々、買い出しにでもいくか」
「その後、ちょっと寄り道しましょう」
「名案だ。それでいこう」
「ふふ、楽しみです♪」
「いいところなんですか?」
「だいぶ、いいところだ」
「でも、そろそろいい時間ですよ」
「こんな時間か」
「そうです」
「もう少しで読み終わりそうだ。このまま、一気に読む」
「わかりました……暖房切ってるんですから毛布ぐらいかけてください」
「ありがとう」
「今日は温かいそうですね」
「風も穏やかなのか。歩きやすそうだ」
「風が強いとスカートがなびいて大変なんですよ」
「布面積が広いと抵抗が大きくて大変なのだよな」
「スカートはいたことあるんですか?」
「雨合羽を着た時に知った」
「なんだ、残念です……」
「ほぅ」
「見ないでください! 何のためにひっそり部屋干ししたと思ってるんですか!!」
「おっと、すまない」
「まったく、デリカシーがないんですから」
「それは理不尽だと思わないかね、お嬢さん」
「見てみぬふりをしてください」
「次からそうする」
「今、死神なのは損かもしれません」
「どうしてだい?」
「忙しくなりそうなことが起こりそうな時代だからです」
「あちらこちらに火種がある。仕事が忙しくはなるだろう」
「私は私の役割を果たすために全力でお守りします!」
「そういう事態が来ないよう祈ってるよ」
「今日は冷えますね」
「特別冷える。どこか空いているのだろうか」
「ちゃんと確認しましたよ」
「ありがとう。そうなると、単純に寒いのだな」
「死神湯たんぽがあるのでご活用ください♪」
「では、ありがたく活用させてもらおうか」
「はい、どうぞ」
「ドローンリーダーのお仕事ってデスクワークですよね」
「今はほぼデスクワークだな、たまに歩くぐらいだ」
「今は、ということは、昔は違ったんですか?」
「前にジャケットの話をしたのを覚えているか?」
「はい」
「あの頃はよく、外に出たんだ」
「外で何をしていたんですか?」
「通信まわりがいかれて迷子になったドローンを誘導したり、木に引っ掛かって動けなくなったドローンを助けてやったりだ」
「肉体労働だったんですね」
「一番、ひどかったのはドブに落ちたのだったな」
「ドブ、ですか」
「あの頃のドブは今ほどきれいになってなくてね。底には泥がたまっていた。排水の汚れを含んだ泥で中にはよくわからない虫がたくさんいた」
「そこに落ちちゃったんですか……」
「よりによってな。回収した後、みんなで騒ぎながら掃除した」
「いやな光景ですね」
「そういうドローンが今はベテランになっている」
「ネタになりそうですね」
「彼の名誉にかけてその話には触れないようにしている」
「そうやって威厳が守られているのですね」
「そういう話が多くてなかなか困る」
「あなたにもあるんですか?」
「秘密だ」
「ココアが身に染みる」
「ホッとしますね」
「なかなか心地よいわけだが、いつまでもそうやっているわけにもいかず」
「まだ、余裕があると思いますよ」
「あるとおもっているとなくなるのだよ、お嬢さん」
「そうですね」
「夜にのんびりできるよう善処する」
「はい♪」
「これ避けきれるんですか?」
「大丈夫だ。こいつは硬い。それにチャフがある」
「ミサイルと自分の間に……」
「チャフの中に身を隠すんだ。武器をランチャーに切り替え」
「はいっ」
「敵が正面に来たら打つんだ。……いまだ!」
「あ、倒せました♪」
「妙に冷えます……」
「ん……1時半か」
「あ、起こしちゃいましたか」
「同じことを考えてたんだ。もう少し暖房の温度をあげよう」
「はい」
「そうだな、ホットミルクでも飲むか」
「いいですね。砂糖は少なめでお願いします」
「わかった。軽く入れておこう」
「あまり多いと眠れなくなりそうです」
「なるほどね。血糖値が上がりすぎてもダメなわけか」
「そうなんです」
「よし、できたぞ」
「ありがとうございます」
「ちょっと、温いかもしれない。温かったらいってくれ」
「ちょうど飲み頃ですよ。ふふ、猫舌には優しいです」
「ジャージって冬に着るのはちょっと寒いです」
「何やら女子力がダウンする台詞が聞こえたな」
「それよりかわいい寝巻のほうが好みですか?」
「いや、そういうわけでは」
「もっと、大胆なものがお好みなんですね♪」
「寝間着だということを忘れているな?」
「見てください、この微妙な空模様」
「折り畳み傘一本でいけそうだが、天気が悪くなったりもする、か。微妙という言葉がよく似合う」
「傘は意外と荷物になりますよね」
「うむ。もっと、縮めばよいのだが……そのカタログは何かな、お嬢さん」
「例の、です」
「あれか」
「雪、ほとんど止みましたねね」
「そうだな。予報どおりになりそうた。これで午後、大雪になったら苦笑いだ」
「たまに発作を起こしますよね、チキンラーメン」
「カップヌードルもだな」
「不思議です」
「そもそも馴染みがあったのか」
「食生活も人に合わせているんですよ」
「なるほど。そして、インスタントに染められると」
「犠牲者続出ですよ♪」
「なかなか冷えますね」
「どうしてこうも冷えるのか」
「冬だからですね」
「引っ越すときはもう少し断熱性能の優れたものにしよう」
「いいですねえ。夏は涼しく冬は暖かくですか」
「うむ」
「科学の力で自然に逆らうところがロックです♪」
「ほぅ……」
「幸せや不幸せは相対的なものです。比較するものがないと気がつかないんです」
「その心は」
「カップスープが玉になっていて不幸せです」
「最初の15秒が運命を分けたな」
「うう、そのようです」
「見事な朝焼けだったな」
「綺麗でした」
「そして、寒い」
「目がさめるような寒さです」
「外に出たくなくなりそうだ」
「雪は残ってないようですが、凍っているところがあるようです」
「足元には気をつけるよ。いってきます」
「いってらっしゃい」
「そろそろ牛乳の残りが心もとなくなってきた。夕飯の材料と一緒に買おう」
「コーヒーや紅茶を飲んでますからね」
「全部雪のせいだ」
「詳しい話は雪に聞くことにします」
「ま、その雪は積もってないのだが」
「積もったら雪だるまが作れたのに残念です」
「もう少し薄くした方がいいか?」
「一口ください」
「どうだ?」
「美味しいですよ」
「よかった」
「濃かったら濃いと言いますよ」
「言われてから直すのも芸がない」
「あまり厳しくされると私の立つ瀬がなくなるからダメです♪」
「ふぅむ」
「毎日のようにこの冬、もっとも厳しい冷え込みと聞いている気がします」
「連日記録更新とは神様も容赦がない」
「いつもの通りですね」
「洪水を起こされないだけマシだな」
「そうです、ポジティブシンキングが大事です」
「実は」
「ん?」
「もう一年過ぎてます」
「はやいな」
「契約は自動更新なのでご了承ください♪」
「手間が省けてよい、というものだ。これからもよろしく、クレア」
「こういう時ぐらい名前で」
「名前で呼んだぞ、お嬢さん」
「も、もう一回!」
「だめだ」
「ただいま」
「おかえりなさい」
「ステーキか」
「ばれましたか」
「匂いでわかる」
「それは、ケーキですか?」
「ああ、口に合うと良いのだが」
「私の好みを理解してるって信じてます♪」
「楽しみにしていよう」
「今日は温かったですね」
「でも、明日は冷えるのだろう?」
「そうなんですよねえ」
「神も仏もいないのか」
「いますけどあまり都合よくないだけですよ」
「管轄外だからやらないのか」
「面倒は嫌いなんですよ」
「気持ちはわかる」
「雪と言ってもなかなか降りませんね」
「降らないほうがいいといえばいい」
「かまくらが……」
「雪うさぎが……」
「雪合戦ではないのですね?」
「意外性を狙った」
「可愛いのでいいと思います♪」
「いい年した男を捕まえてそれか」
「ふふ」
「すごい風でしたね」
「眠れたか?」
「ええ、最初は気になりましたけど」
「眠りが浅くなっているかもしれない。そこは注意だな」
「眠くなったらお昼寝します♪」
「俺もそうするよ」
「昼寝をする時間はあるんですか?」
「作るのだよ、お嬢さん」
「髭剃りの替え刃はなんでこんなに種類があるのでしょうか」
「色も派手なことを考えると、変形ロボットや機械が好きな子ども心を持った大人を狙い撃つためかもな」
「なるほど」
「なぜ、俺を見ながら言うのかな、お嬢さん」
「ふふ、それを言わせるつもりですか?」
「雨ですねえ」
「今日はずっとこんな調子か」
「積まれた本が低くなりました」
「うむ。少々はやいがお茶にするか」
「いいですね。そうしましょう」
「この茶葉は色が良いな」
「色と同じぐらい味もしますしね」
「前のあれは色だけだったからな」
「大外れでした」
「気温の変化の激しい一週間だな」
「落ち穂拾い組は掻き入れどきです」
「なかなかのブラックユーモアだ」
「事実なんです♪」
「久しぶりに死神らしい面を見た」
「いつも見せてもいいんですよ。制服を着て大鎌を持って」
「そして壁に傷をつける」
「!」
「そろそろ起きないと今日、一日中ベッドの中だぞ」
「……」
「……調子悪いのか、顔を見せ」
「がばあっ」
「!」
「元気ですよ、とても」
「どうして俺が押し倒されているのかね、お嬢さん」
「死神の力を侮ってもらっては困ります♪」
「職権乱用だな」
「持ち上げて落とすのが好きなのだな、神は」
「気温の変化に負けずに行きましょう♪」
「そこまで軟弱ではないよ、お嬢さん」
「無理は禁物ですよ、おじさま」
「おじいさんと言われないだけよいのか。よいな」
「一人で結論出さないでくださいよぅ」
「火星の有人探査プロジェクトにも死神は行くのかい?」
「行きますよ。見捨てるわけにもいきまんから」
「大変だな」
「落穂拾いと同じです。それに私たちは自由に行き来できるので不自由はないんですよ」
「さらりと機密事項を聞いた気がする」
「忘れてください♪」
「朝日は綺麗だが寒いな」
「風が冷たいようです。霜柱もあるとか」
「どうりで。足元の感覚を楽しみながら行くとしよう」
「ふふ」
「どうかしたか?」
「少年の心を忘れないなって思いました♪」
「やらないのか」
「やりますよ」
「少女の心を忘れていないな」
「……」
「……寝てます?」
「……ん」
「寝坊助さんですね」
「そのようだな」
「コーヒー飲みますか?」
「ありがとう。先にシャワーを浴びるよ」
「その方がすっきりしますよ」
「起こしてくれなかったらそのまま突っ伏していたに違いない」
「船を漕いでいるところは可愛かったですよ♪」
「やめてくれ、恥ずかしいから」
「そう言われるともっと、言いたくなります」
「困ったお嬢さんだ」
「ふふふ」
「週明けから微妙な天気だ」
「気分切り替えていきましょうというにはあんまりな天気ですね」
「おお、神よ」
「神も休明けはだるいんですよ」
「なるほど、神の意志か。ならば、仕方あるまい」
「きっと真面目にやると神罰が下ります♪」
「容赦ないのだな」
「午前中の運動が睡眠に有効らしいですよ」
「一駅歩くか」
「このあたりの一駅はそこそこ距離がありますよね」
「都心とは違うのだよ、都心とは」
「ここもいいところなんですけどねえ」
「そうなんだがな……Zzz」
「寝つきがいいですね、ふふ」
「お箸忘れてました!」
「ん、ありがとう。俺も気がつかなかった」
「どうも抜けててよくないです」
「そういう日もあるさ。好きなものを飲んでゆっくり過ごすといい」
「ありがとうございます」
「いってきます」
「いってらっしゃい」
「気持ちの良い朝だな」
「いい青空です」
「こういう日はどこかに出かけたいが」
「仕事なんですよね」
「世の中、ままならないものだ」
「世の中だなんて大げさなですよ?」
「あえて強調してわかりやすい表現をしたのだよ、お嬢さん」
「はいはい」
「魂が炎なら燃やすものや空気を送るのは人間自身。単純ですけど、何が燃やすもので空気なのかは人によって違うんですよねえ。だから、私のような役割も出てくるのですが……」
「僕はこの子に逆らうことができない。弱みを握られている」
「魂刈り取られたら死んじゃいますからね♪」
「カジュアルな脅迫だな」
「やりませんよ、勿体無い」
「まったく、恐ろしいお嬢さんだ」
「職権乱用で捕まりますしね」
「なるほど……?」
「惚れた男の弱みっていうんですよね」
「嬉しそうに言わないで欲しいな、お嬢さん」
「これ、どうやって外せばいいんでしょうか」
「押しても引いてもダメか?」
「ダメです。ひねってもダメですね」
「この上の元栓に押し外しと書いてあるな」
「ぽちっとな♪」
「外れたな」
「外れましたね」
「ネタが古くないか」
「気のせいです」
「連休で生活リズムが崩れていませんか?」
「崩れている、間違いなく」
「映画見てはしゃいだりしましたしね♪」
「そうだな。眠気が飛んでしまった」
「ハーブティー飲んでも落ち着かないです」
「少々、意外だ」
「そうですか?」
「おとなしい物語が好みだとばかり」
「5月に台風ですか」
「箱根の大涌谷といい災厄の多い月だ」
「その分、いいことがありますよ」
「そう信じよう。その前に雨に流されないようにしないといけない」
「傘より雨合羽のほうが良さそうですね」
「死神印の傘にバリア機能はないのかね?」
「ないですよぅ」
「む……」
「さっきからネクタイを締めたり、外したり何を……あ……私がやってあげます♪」
「ありがとう。頼む。……どうして、後ろからなのかな、お嬢さん」
「この方がくっつけるからです♪」
「その目的は達成できるが、本来の目的は」
「大丈夫ですよ、ほら」
「そういえば、本棚の本ってあまり入れ替わらないんですね」
「借りたりして済ませているんだ。愛着が湧くと捨てられなくなる」
「なるほど、捨てる前に増やさないわけですか」
「そういうことだ。それでも気に入った本は買う。そして、増える」
「その気持ち、わかります」
「夫婦のイメージは自分の両親が根っこにある」
「どんな両親だったかで自分たちが結婚した時が見える、ということでしょうか」
「見えるではなくて、真似たり参考にする、だ」
「あ、なんとなくわかりました。ちなみに私の両親はとてもベタ甘です♪」
「だろうな」
「梅雨を通り越して夏が来たようです」
「冷たいものが恋しくもなる」
「はい、水筒です」
「ありがとう。ちなみに中身はなんだい?」
「カモミールティーです。ほっとしたいときに飲んでくださいね♪」
「助かる。それじゃ、行ってきます」
「いってらっしゃい」
「少年が母と祖母を殺害、か。何がそこまで彼を追い詰めたのだろうな」
「わかりません。でも、悲しい話ですね」
「同感だ」
「こういう時の落穂拾いはやるせないんですよ」
「やるせない、か」
「ええ、何かほかにあったんじゃないかって」
「こうも蒸し暑かったりすると冷たいものの消費が増えますねえ……お茶の作り置きも増やさないと。それとアイスも買ってこないといけませんね♪」
「今日は涼しいです」
「朝方の雷がなければよしだ」
「あれはうるさすぎですよ。何なんですか」
「自然現象だ」
「それはわかってますよぅ」
「あんな雷は滅多にないよ」
「それが聞けて安心しました。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
「沖縄が梅雨入りしてしまいましたね」
「もうしばらくするとこのあたりも梅雨入りする。梅雨は苦手か?」
「じめじめしているのは苦手です」
「そうだな、気が滅入りそうになる」
「でも、雨は好きですよ」
「見る分には悪くない」
「雨に濡れるのも悪くないですよ♪」
「今日はキスの日ですよ」
「その今日もあと19分で終わるようだ」
「まさか、逃げ切るつもりですか?」
「まるで逃げているかのような口ぶりだな」
「違うんですか?」
「逃げてるんじゃない」
「では、なんなのでしょうか」
「焦らしているんだよ」
「え、ん……っ」
「……むぅ」
「眠いのか?」
「なんであなたはまだ元気そうなんですか」
「体力の差だろう」
「あ、あれだけしておいて……」
「さて、何のことかな」
「いけず」
「眠いのなら寝るに限るぞ、お嬢さん」
「……先に寝ます。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
「……」
「寝付けませんか?」
「仕事のことで少しな」
「珍しいですね」
「気持ちを切り替えるようにしてきたつもりだが……」
「人ですから。綺麗には切り替わりませんよ」
「その通りだ」
「それにそういうところ、見せてくれた方が嬉しいです」
「嬉しい、か」
「最高気温が30℃とは夏か」
「梅雨はどうしたのでしょうか」
「溶けて蒸発したのではないかな」
「夏がどこかに行ったと思ったら梅雨が戻ってきたようです」
「除湿機のフィルターは掃除していたかな。したとは思うが、使う前には見ておいて欲しい」
「わかりました。変なにおいするのは嫌ですしね」
「今週もあっという間だったな」
「お仕事忙しいんですか?」
「うむ。ドローンの出荷があったんだ。おかげで無事に終わったよ」
「お疲れ様です。出荷なんてあるんですね」
「経験値を積んだドローンは需要がある」
「なるほど」
「もう6月か。はやいな」
「はやいですね。そして、今日も暑くなるようです」
「はやいうちに体を暑さに慣らせられると考えるか」
「体調を崩す人も多いようですから気をつけてくださいね」
「こまめに水分を摂取するよ」
「まだ、収穫なんてしたくないですからね♪」
「手を伸ばしたら、最愛の人に触れられるのは、本当に幸せですね」
「それで頬をつつくか」
「頬をつつき返しながらその台詞を言ったら説得力ないですよ……あ、くすぐったいです♪」
「幸せだ、実に」
「むぅ」
「眉間に皺を寄せてどうした。可愛らしい顔が勿体ないぞ」
「鎌を使う機会が出てくるかもしれません」
「ああ、あれか。煽っているだけだろう」
「杞憂に終わればいいのですが……」
「杞憂で終わらせるのだよ、お嬢さん」
「……」
「眠れないのか」
「気温の変化のせいでしょう」
「それは、わかる。俺もこの通りだ」
「でも、話していたらなんだか落ち着いてきました」
「そうか」
「もう少し、低い声で囁くようにお願いします♪」
「贅沢だな」
「付き合ってくれるので好きです」
「この時間でも注文できるのは便利ですね」
「さて、とり野菜みそとんこつはどんな味だろうか」
「楽しみですね」
「うむ、楽しみだ」
「蛍が見頃らしいな」
「そうなんですか?」
「この辺りはそうなんだ。天気がいい日に見に行こう」
「綺麗な蛍が見たいです。場所はどこでしょう?」
「ここから車で30分ぐらいの場所に湧き水の出るところがある。そこにしようと思う」
「近いんですね」
「うむ」
「梅雨入りしてしまったか」
「梅雨入りしてしまいましたね」
「さらば晴天の日々よ」
「また、大げさな……」
「洗濯物」
「乾燥機があるじゃないですか。文明の利器で自然と闘います」
「殺意高いな、お嬢さん」
「……何をやっているんだ?」
「はい!? いや、その、こういう、変装用の格好もありまして……その、練習を」
「巫女さんの格好がか?」
「え、ええ」
「顔を覚えられてそうなものだがな、ふむ」
「アルバイトとかで紛れ込むんです」
「ほぅ」
「雨ですね」
「雨だな。昼過ぎには止む予報を期待しよう」
「雨はお嫌いですか?」
「見るのは好きだ」
「歩くのは嫌いなのですね」
「ああ、スーツの折り目が消える。雨と体温でアイロンがけするようなものだな」
「私がしっかり折り目つけますよ♪」
「まだ、焼肉の匂いがします」
「風呂に入ったにもかかわらずか」
「意外と残るもののようです」
「その、お嬢さん」
「何でしょう?」
「くすぐったいのでやめてもらえないか」
「嫌です♪」
「こーいをしてることって そーんなにしあわせなのー? じゃあ、このきもーちはあーいーなのー」
「不幸せかね、お嬢さん」
「幸せですよ。続けて歌ってくれるとうれしいですが」
「恥ずかしい」
「少し照れた顔が良いので良しとします♪」
「ものの見事にぐずぐずになってしまった」
「こういうグレープフルーツもあるんですね」
「あるようだ。スプーンを使って食べよう」
「なんだか優雅です♪」
「そうだな」
「ヨーグルトに入れてもいいよさそうです」
「よくあいそうだ」
「帰りは雨に降られませんでしたか?」
「小粒の雨だったよ。同僚が雨が酷いと教えてくれたが、運が良かった」
「日頃の行いが良いからですね♪」
「さぁ、それはどうだろうか」
「では、私にいいことをしてください」
「ふむ、こうかな?」
「ありがとうございます♪」
「床にゴロンとしてるのはお行儀悪いですよ」
「目にも悪い。やめるか」
「代わりに膝枕にしましょう♪」
「寝っ転がることに違いはないと思うがね、お嬢さん」
「細かいことは気にしない気にしないら」
「わかった。では、失礼する」
「ふふ」
「眠ってしまいそうだ」
「スマートフォンのカメラでもきれいに蛍って撮れるんですね、驚きです」
「え、もう、こんな時間!?」
「おはよう、お嬢さん。よく眠れたかね」
「よく眠れはしましたけど、あの、お仕事は?」
「突発的に休みになった」
「一緒に寝坊したのかと思いました」
「せっかくの休みだ。どこか出かけようじゃないか」
「わ、わかりました!」
「微妙に蒸しますね」
「微妙に蒸すな」
「寝ようと思えば寝れますか?」
「眠れるだろう」
「眠れてないじゃないですか」
「そうだな。こういう時は、ベッドから離れるのがいいそうだ」
「では、何か、飲みましょう」
「それが狙いかな、お嬢さん」
「ふふ、まさか」
「雨の予報が早まってます……」
「外に干すのは難しそうだな」
「そのようです。気分的に外に干したいのですが」
「その気持ちはよくわかる」
「今、二人の気持ちが一つになりました♪」
「ああ、間違いない」
「その妙な笑顔はなんですかぁっ」
「このメッセージはなんでしょう?」
「OSの更新を促す表示だ」
「他のと違うのは?」
「それは、アプリと比較しているのだろう」
「な、なるほど」
「もしかして、機械は苦手かな、お嬢さん」
「普段、使うのはできてるじゃないですかぁ」
「ふむ」
「その運動、腹筋に効くんですか?」
「効果はあるというがね。実際、負担はかかっている。お嬢さんもやってみるといい」
「ただ、ポーズ決めているだけじゃないですか……ん、あ……こ、これ……」
「喋ると倒れるぞ」
「え、ええ!?」
「死んだら休めるかどうかはわからないです」
「天国や地獄があるかどうかわからない、だったか」
「そうです」
「わからない以上は気にしてもしょうがないな」
「それよりは明日のご飯のことを考えたほうがいいです」
「昨日、大量消費したのだったな。買い物にいくぞ」
「今日はちょっと、涼しいですね」
「ブランケットを出しておいた」
「ブランケットもいいですけど、それよりも――」
「わかった。ただ、加減はしてくれ。明日は仕事だから」
「わかってます♪ 私からも加減はお願いします」
「人を獣のようにいうじゃないか、お嬢さん」
「川俣さんの彼女の、何歳なんですか」
「秘密だ」
「まさか、未成年……」
「成人はしているぞ」
「あの見た目で20歳以上だなんて……そんな……」
「動揺されても困るのだがね」
「あ、すみません。衝撃的だったもので」
「(死神だと知ったらどうなるのだろうか)」