「物資不足気味の船でよくこんなことをやるよ」 そういうフェイドも嫌ではないようだ、と横に並ぶエオは思った。 飾りっ気のなかったハンターズ専用区画もクリスマス向けに彩られている。
普段は艦内の情報を表示している大型ディスプレイもクリスマスに関する情報を流していた。 「状況が状況ですから、こうやっているんですよ」 「まぁ、一般区画なんかその色が強いね」 「わたしたちも人のことはいえませんよ」
そういって見せたアイテムリストにはクリスマスパーティで使うものが並んでいる。 フェイドは苦く笑いながらリストを眺める。 「クラッカーも買いましたし、足りない分の食料は菜園でまかないます」 「ほんと、彼らといるとお祭り騒ぎだ。前までは考えられなかったな」 「そうですね。昔はあまり話してくれませんでしたし」 自分がはじめて見たフェイドの表情は何処か冷たいものだった。
時が経つにつれて自分もフェイドも変っていった、これからも一緒に変わっていけるだろうか。 ずっと一緒に変わっていけたら良いな、とエオは思う。 「なんか、そういうの煩わしくてさ。それが今だとこれだ」
「わたしだって最初は何もわからなくて、今はこうやってます。不思議ですよね、時間って」 「そうだね。・・・雪、か?」
空を見上げると分厚い雲がありホログラフィの結晶がゆっくりと降りはじめた。
エオは不思議そうな表情でその結晶を眺めながらゆっくりと手を差し出すと淡い結晶は静かに降りて消えた。 「ホログラフィの割にはよくできている。冷たくは無いだろう?」 「はい。本当の雪もこんな感じなのでしょうか?」 「そうだね。僕はコーラルで子供の頃に一回だけ見ただけだから懐かしいよ」 「向こうでも雪が見られたんですね」 「今はどうだかわからないけどさ」 フェイドも同じように手を伸ばし仮想の雪に触れる。 感触は無いけど確かに手の上で解けて消えていくのを見て微かに笑う。
「いつかはラグオルでこうやって雪が見られるようになったら良いなって思います」 「そのためにも今は頑張らないとね」 未だに地表はエネミーが徘徊しゆっくりと過ごせるような場所ではない。 今もゼブリナたちが降りてラッピー狩りを展開しているはずだ。 何故かサンタの衣装に身を包んだラッピーを狩るという不思議なものだが。 「先にジムさん達が来て準備をしてます。料理はわたしたちの担当ですね」
「ゼロの妹のレナさん、だっけ。彼女だけは料理の担当から外せとゼロから命令が」 「・・・正しい判断です。わたしも経験したくないです」
「それなりに戦いなれたハンターズを恐怖の底に突き落とす料理、か。新たな都市伝説誕生だ」 「本当のことでも言って良いこと悪いことがありますよ」 「それはフォローになってない」 そして二人は顔を見合わせて笑い光の輪に入り、居住区画に転送された。
特に仕事を請け負っていない時間をもてあます住人たちによってここも飾り付けられている。 エントランスにあるツリーの飾りの一つを指差してエオは微笑みながら、 「あれはわたしが作ったんですよ」 「あの靴下かい?」 「えっと、その右隣の星です」 「あー、良くできてる、のかな」 「ちょっと自信なくて」 少し俯くとふと時計が目に入った。 あ、と短い声をあげるとフェイドも時計を見た。 「悪くは無いと思うよ。そろそろジムも飾りつけ終わらせてる頃だね」 「少し急ぎましょうか」 「そうしよう」
部屋につくと予想通り、ジムとスカイリーが最後の飾りをつけようとしているところだった。 「お、買出し部隊の帰還だな。どうよ?」 「見ての通りさ」 購入物を実体化させテーブルの上に並べる。 「ああ、これで普通のパーティが開けます・・・」 スカイリーの口調は嘆きに近い。 彼の家庭環境を考えれば普通の反応なのかもしれない。 簡易コンロを用いて調理していたフェイが振り返りエオに声をかける。 「エオ、お帰り~。ちょっとこれの味見してくれない」 「良いですよ」 横にかけてあったエプロンを手に取りエオも料理をはじめた。
その光景に一瞬だけフェイドは見惚れそうになったがすぐにここは作業に集中しようと頭を振る。
時間にしてわずか数秒のことだが、それを見逃すほどジムのセンサーは、スカリーの勘は鈍くなかった。 「なぁ、フェイド」 「ん、なんだい」 「いつの間にそこまでいったんだ?」 「そうですよ。まだ僕だってフェイとはそこ」 金属の快音と共にスカイリーの言葉は途切れた。 ちらりとフェイの手を見ると先ほどまで握っていたフライパンが無い。
なるほど、とフェイドとジムの二人は頷き、しかし状況は変化することなく再開する。 「自分の作品に自信を持つことは良いことだろう?」
「何処かの変態偏屈博士と同じ事をいうと来たか。信じられない話だなぁ、こりゃ」 「じゃぁ、すべては時のなせる業、ということでどうだろう?」 「まともそうな答えだな。つまらん」 「愉快な答えかぁ、そうだな。じゃあ」 フォトン特有の短い銃声が響きフェイドの声が中断する。 「セイフティの外せる構造に申請したのは間違いだったな」
ジムは一人で頷き、どうせ自分の役割は終わったのだから、と床に突っ伏すことにした
扉が開くと黄色いフォニュエールのスーツを身にまとったルーフと紫色のヒューマーのゼブリナが立っていた。 「ただいまぁ」 「邪魔するぞ」 それぞれの挨拶をして入ってりゼブリナは戦果を報告し始める。 「それなりの収穫があった。これで人数分の・・・」 床に転がっている機械人形に気が付き頭部にすかさず蹴りをぶち込む。 鈍い金属音に肉の打撃音、悲鳴をあげたのはゼブリナだ。 「人がせっかく休憩していたところに蹴りを叩き込か、ふつー」 「ったー。さすがヒューキャストだ、堅いね」 「人間がアンドロイドの装甲を脚で貫くことは理論上不可能です」 合成音声風のエオの声に部屋の中はどっと沸いた。
そこに短い呼び鈴が鳴り扉の近くにいたルーフが外の様子を伺い笑いを堪えるようにこういった。 「サンタとトナカイが来てるよ」 「ルーフ、いうならもう少しマシな冗談を考えろよ」 「いや、本当に来てる。ゼロとタングラムだけどね」
前の言葉ではなくて後の言葉に一同は驚き扉の向こうにいる人間の姿を想像した。 扉が開くと想像通りの人間が並んで立っている。 サンタ衣装のゼロが担ぐ袋には「発案 レナ」の文字が読める。 首謀者は彼の妹のようだ。 そしてその首謀者がゼロの影からするりと現れた。 「お邪魔します」 「お、ミニスカサンタとき」 ゼブリナの言葉はフォニュエールの放つ光の矢によってかき消された。 何か倒れる音が聞こえたかもしれないが気にせずエオはレナに話しかけた。 「こんにちは、レナさん。これはレナさんが考えたんですか?」 「考えたのは俺だよ。レナには手伝ってもらった。で、タングは巻き添え」 「こういうのも悪くないですね」
格好が格好なのに悪くないというあたり天然なのか心が広いのか判断に迷う、とジムは考えたが口には出さなかった。 恐らくそれは両方だろう、と結論を出してゼブリナの声を聞いた。 「面子も揃ったところだし、そろそろはじめようか」 「飲み物はここにありますから、好きなものを注いでください」 ジュースの類が入った大型容器を並べてエオは言った。 きっと今日は皆との良い思い出になるだろう。 そうなることを願ってエオはコップを天井に突き上げて、声を揃えた。
「メリークリスマス!!」
コップの交差する心地よい音と共に宴が始まった。
後書き やっつけ仕事だぁ、と苦笑い。 日本人というのはどうしてこうも祭り好きなのか不思議です。
考えなくてもクリスマスはキリスト教のお祭りであってキリスト教徒以外は関係ない話のはず。
向こうでやっていることと比較するとだいぶ違うので本場とは違うもの、和製英語のようなものと軽く流した方が良さそうですね。 深く考えると諸処の団体に良い印象を残せないでしょうし。 お祭りなんて楽しむためにあるようなものです。 とりあえずは楽しんでしまえば勝ちですから、楽しんじゃいましょう。 自分は傍観者ですけど。