Feathery Instrument

Fine Lagusaz

叢雲と食事

「それで足りるんですか?」
と秘書艦の叢雲に声をかけた。
私が持ってきている小さな弁当箱よりも小さい固形栄養食品が叢雲の食事だった。
「食事なんて」
水筒のお茶を一口飲んでから、
「人間の部分を満たすためのものでしかないわ」
とそっけない返事。
艦娘について知らない私は黙って頷くことしかできなかった。
人の姿をした艦船だということを忘れるな、と教官が言っていたのを思い出した。
彼女たちの本来の食事は燃料と弾薬だと執務室の外を見て思い出した。
あそこに積まれているドラム缶の資材が本来の食事かぁ、と私は小さく肩を落とした。
せっかく、人の姿をしているのだから、人らしい楽しみ方をしても罰は当たらないんじゃないかな、と思ったのだ。
「じろじろ見てないで仕事しなさい」
と叢雲に怖い顔で言われて、
「まだ、食べ終わってない」
「まぁ、いいわ。少し手伝う」
書類の一山を自分側に寄せて叢雲は言う。
「ありがとうございます」
「いいからはやく食べる」
「はいっ」
急いで食事を済ませ、書類の山と戦っているうちに艦娘の食事についての考えはどこかに消えてしまった。
それを思い出したのは久々に休暇がもらえた時の事だった。
本来の鎮守府と違って艦娘たちのいる鎮守府には戦うための施設は当然のことながら娯楽施設も充実していた。
鎮守府の外にも出られることは出られるが非常時のことを考えると出るのはためらいがあった。
鎮守府内の循環バスの窓からどこか面白い場所はないかと伺っていると、知った人を見つけた。
その人はカフェテラスで紅茶を飲んでいた。
あいた皿が1枚と一欠片だけ食べたあとのあるショートケーキがひとつ。
本を読んだままでこちらが近づいたことにも気づかない。
もしかすると人違いかも、と考え始めた頃に
「……あ」
向こうが気がついた。
「こんにちは、叢雲」
「……」
バツの悪そうな顔をして叢雲はわずかに目をそらす。
「邪魔しちゃった?」
「別に」
「良かったぁ。どこか面白い場所がないかなって思って探してたんだよ。そしたらたまたま見かけてね」
「食事は?」
「まだだよ」
「なら、ここがいいわ」
と叢雲。
想像してなかった言葉に私は戸惑った。
食事は飾りだと言わんばかりのことを言っていたのだから、これもそうなのだとばかり思っていた。
「ランチプレートのデザートセットがおすすめよ。あんたにはちょっと多いかもね」
空いている皿を眺めてから、
「ちょうどお腹いっぱいになりそう」
「そう」
そういって席をたつのか、と思ったら、
「紅茶のおかわりをいただけるかしら?」
近くにいる店員を呼び止めておかわりを頼んだ。
「一人で食べるのも暇でしょう? 私が話相手になってあげるわ」
「ありがとう」
「あんた友達少なそうだしね」
「そうだねぇ」
と私は笑った。

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