Feathery Instrument

Fine Lagusaz

魂のありか

「別に魂なんて積み重ねた本の向こうかネットのどこかにおいてきたし」

背を起こしたベッドから窓の外を眺めて呟いた。

この彼女の言葉にいつも僕はどう答えるべきか悩む。悩んで答えを出しているものだから、答えは日替わりだった。 今日の日替わりは何かな、と笑われたぐらいだ。

最初は悲しいことを言うなよ、と諭そうとしたけど、悲しいことじゃないよ、と言い返されてしまった。彼女が言うにはどこに自分の軸足をどこに置いておくかの話で自分の場合は本やネットであって、死にたいとか消えたいとかそういうものでは無いのだそうだ。

「この前、賞を取ったあの新刊のあたりとか」
「私があの作家の本を読むと思う?」
「あー……」

彼女は読書家だ。読書家といってもなんでも読むタイプと好きなものを追い求めるタイプがいて、彼女は後者のそれも頂点寄りの人間だった。

「面白かったけどな。立ち読みだけど」
「あの作家、最初は面白いのに途中で勢いが落ちてどんどんつまらなくなるのよ」
「それは知らなかったな」
「本は最後まで読まないとわからない」

彼女は外を見たまま、そういった。

そう、本は最後まで読まないとわからない。

「短編向きの人なのかな?」
「経歴見る限りだとそう」

いつの間にか手にしていたタブレットをこちらに見せる。

成人男性でも両手で持たないといけないぐらい大きなタブレットだ。少々、重たいがおかげで画面は見やすい。辞典サイトのその作家の項目が表示されていた。確かに経歴を見ると短篇集が多かった。

「そのうち化けるかもよ」
「それはどうかな」

と彼女は笑う。

「面白い本が増えたらいいね」

と返す。きっと否定の言葉が来るだろうと思っていたら、

「うん」

肯定の返事が来た。

「意外な返事だね」
「明日は雨だから」

天気予報を見れば確かに雨だった。

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