異世界に勇者として呼ばれたはいいが、魔王がいい感じに政治しており、王は王でいい感じに政治しており、規格外戦力としての勇者は居場所がなかった話。
「勇者の仕事はなんだい?」
「現状だと小悪党の始末ですねえ」
「汚れ仕事だねえ」
「暗殺と戦争のどちらがマシだと思いますか?」
「平和が掴めるのならどちらでも」
「上出来です。あなたなら立派な勇者になるでしょう」
「生きていればなー」
「つまり、すごい力を持っている第三勢力が勇者様ってことね」
「生まれてくる時代を間違えましたね。100年前だったら出番があったでしょうに」
「荒れてたのか」
「大荒れですよ、もう。同じ種で争っていたので大陸も門の向こうも大惨事で」
「あー、やりがいありそうでいいなー」
「でも、装備はほとんど支給されませんよ。どこの国も貧乏でしたから」
「平和なこの時代に出てきてよかったのかどうか」
「人里離れたところで畑でも耕すかな」
「ご一緒します」
「いやいや、そういうのはもっと、こう交流を深めてからだな」
「じゃあ、ご一緒して交流を深めます」
「人里離れた場所といってもあまり離れると大変ですよ」
「んー……元の世界に帰るのがベストなんだがなぁ」
「帰る方法を探すなら、街のほうがいいと思います」
「でも、ほっつき歩いていいようには思えないんだよなぁ」
「図書館も制限がかかるでしょう」
「知識は武器だもんなあ」
「本当に帰りたいんですか?」
「そりゃあ、住み慣れてるからね」
「その割には……未練というか、執着が感じられないのですが……」
「いや、だって、俺、今はここにいるし、ここでやること探すしかないだろ」
「旅人なのですね」
「波間を漂うクラゲのような生き方を目指しているのだ」
「我が王からも魔王からも面倒は起こさないでくれと要請があったんですよね」
「あー、みなさま、耳が早いようで」
「いえ、勇者の出現を予想して先に行動を決めておいたんです」
「それを先に言ってほしかった」
「割り切りが良すぎて話す時間が」
「任せろ、規格外だからな」
「勇者が現れたら使者を送り、余計なことはしないでくれ、と頼むのが決まりになっていたんですねえ」
「PDCAか」
「何ですか、それは」
「Please Don’t Change Anything」
「そういうことです」
「なぁ、俺、暗殺されたりしない?」
「暗殺はすると大問題になると思うのでないと思いますよ。事故死はあるかもしれませんが」
「おー、怖い怖い」
「たとえば、私がこう、夜にこっそりと」
「美少女に殺されるなら本望だと思わない?」
「うわ、とんだ変態ですね」
「容赦ないなー。勇者っぽくない扱い受けてますよ、俺」
「実績ないじゃないですか」
「いや、実績あげられないんだって。小悪党始末するにしたってあれですよ、警察の仕事ですよ」
「まぁ、そうなんですよねぇ」
「やっぱ、人里離れたところでDASH村作るのが無難だ」
「村作るんですか?」
「言葉のあやなのだぜ」
「普段は畑耕してなんかあれば駆けつける感じでどーか」
「それだったら納得していただけるかと」
「じゃあ、準備しないとな」
「交渉は私がやりますから、しばらくはここにいてください」
「どこまで出歩いていいんだ?」
「このフロアは自由にどうぞ」
「ダンジョン探索いくべー」