[[DAYS]] *回想 [#m516f691] 窓の向こうは真っ白だ。 テレビで雪が積もると話していた気がするがはっきりと覚えていない。 「……」 柔らかいソファから離れて窓の近くによろうか、とふと思う。 見ても面白くない、と少しだけ離れた背中を再びソファに預けた。 ただ生きる分にはこの場所は快適だった。 炊事、洗濯、掃除といった家事全般は使用人がやっている。 庭の手入れも専門の業者が行い、この場所にいる限りは好きなことができる。 空調も外気の温度と季節を考慮して自動で調整される。 好きなことだけやればいい、とここに連れてきた父と母は言っていた。 父はひたすらここの使い方と何ができるのか力説し、母はその説明ににこにこと頷くばかりだった。 父と母が去ってから好きなことを、と言われたので、台所にある包丁を握り、手首に傷を付けた。 赤い血が流れ出るのを他人事のように眺めながら、これで死ねるだろうか、なんてことを考えていた。 そのあとのことは覚えていない。 記憶は途切れ、気がつくとベッドの上で寝ていた。 切った左手首には包帯が巻いてあったが、血で濡らしたはずの床はもとの状態に戻っていた。 そして、ここから刃物という刃物が消えた。 ひもを使って首を吊ろうとすれば、死ぬこともなくただひもや首を吊るのに使えそうなものがなくなった。 ほかの方法でも同じ展開と結末を迎えたのだった。 アネモネはふと、視線を左手首にやる。 少しみただけではわからないが確かにリストカットの痕が、ある。 まわりの白い肌よりもさらに白い線が真横に走っていた。 包帯を巻かれて目を覚ました時、生きていることに対して、落胆した自分と何かを望んでいる自分がいた、とそう思い出す。 望んでいる自分は何だったのだろう。 あれは、望んでいるというより、餓えているのではないか、と少女は思い直す。 それがなんだかわからないが、 「--あれ」 頬を何かが濡らしている。 それは、頬を伝いぽたぽたとソファに落ちる。 泣いていると自覚した頃には、叫びに近い声をあげていた。 不意にそっと、抱きしめられた。 温かい、と少女は感じた。 そして、再び、泣き出した。