[[DAYS]]

駅のフードコートは旅の装いをした人でごった返している。
腕時計で時間を確認してから、
「時間がない、という割にはゆっくりしているな」
とタコ娘に問うてみる。
「余裕があるよう計算してあるから」
と胸を張って返事が来た。
「とはいうが人前で戻ったらまずい」
「まずくはならないよ」
とこちらを見て彼女は続けた。
「だって、何かあったら誠司が守ってくれるから」
ここでその台詞使うか?
周囲の温度が数度あがったように感じられるが気のせいだ、と目の前にあるアイスコーヒーを一口飲む。
「そのつもりではいるがあまり期待されてもな」
当人には伝えてないがデイバッグの中にはアルミのシートが入っている。
もし、魔法が解けたら――下半身がタコ足なのを今は魔法で人の足にしている――これで隠すつもりではいたがうまく防げるとも思えない。
「だから大丈夫だよ」
とタコ娘はタコ焼きを頬張る。
俺を全面的に信じる彼女の感覚も、自分が彼女のために何かしようと思う気持ちもよくわからない。
友人や親友に感じるものに近い、と考えていると、
「はい、あーん」
とタコ娘が割り込んできた。
「待て、何の真似だ」
「見ての通りだよ」
と臆することなく彼女は応じた。
こんな人気の多いところでこんな恥ずかしいことできるか、と言おうものなら十中八九、涙目でこちらを見てくるだろう。
それも上目遣いで。
たっぷり1秒悩んでから
「あーん」
と俺は顔を前に出した。
タコ娘は嬉しそうに俺の口にタコ焼きをそっと入れた。
ゆっくりタコ焼きを咀嚼しているとタコ娘は
「ねぇねぇ、誠司。おいしい?」
と笑顔で問うてきた。
飲み込んでから
「うまい」
と答えると嬉しそうに
「良かった」
と笑った。
同じ感覚を共有できるというのも悪くない。