[[DAYS]]

* 『星の屑・その後』 [#iedf76e3]
「派手にやってるね」
黒髪の少年は横にいる少女に言った。
「そうですね」
ロビーにある緊急のクエストボードで、港の調査依頼を請け負った二人は装備を整えてその港に来ていた。
あちこちに弾痕や爆発の跡が残されている。
警備員の話によるとどうやら、二人組の仕業らしい。
「二人でこれはすごいです」
「良くやるというか何というか」
ふと、少女は立ち止まって、
「血のにおいがします」
少年も歩みを止めてから首をかしげた。
一拍おいてから、
「ダイブしてないからわからないんだった」
彼の言葉に少女は苦く笑いながら、
「結構、きついのでわからなくて良いと思います」
「そっか」
「……正面から誰か来ます」
すぐさま二人は近くのコンテナに身を隠した。
こつこつと靴音がはっきりと聞こえる。
ふと、足音が止まった。
次に金属を蹴るような音。
二人は互いを突き放し、距離を取った。
先ほどまで二人がいた場所に赤いドレスの女が降り立った。
同時に女が取った行動は自動小銃2丁による連射撃だ。
女から見て右のオフィーリア、左のエプシロンに向けてそれぞれ17発。
二人の身につけていたシールドジェネレータが作動、周囲のエーテルを防護の力に変換する。
赤いドレスの女が弾を打ち尽くすと周囲は静かになった。
「あなたが犯人ですね」
オフィーリアの声に彼女は何も返さなかった。
その代わりに両の手から銃を手放して、銀色に光るナイフを握る。
オフィーリアが銃を向けるよりも赤のドレスが先に動いた。
狙いは魔術師のエプシロンだ。
撃とうにもこの近距離で撃てば貫通してエプシロンにも当たってしまう。
高い金属音が響き、女は跳躍、オフィーリアから見て右手のコンテナに静かに飛び乗った。
「そう簡単にやられるわけないだろう」
手には長杖を握ったエプシロンが冷静に述べる。
「魔術師なら肉弾戦に弱いと思ったのかい?」
ドレスの女は彼を威圧的に見下ろしたが、動じずに青髪の青年は続ける。
「良い判断だけど、1つ誤りがある」
先と同じ調子で、
「詠唱は声だけではないことだ」
女の立つコンテナから直径1m、高さ5mのオレンジ色の火柱が吹き上がる。
が、火柱はスカートの裾を軽く焼いただけで直撃はしなかった。
後ろに跳躍したからだ。
「補足があります」
女は声を聞いた。
位置は煙の向こう、真正面からだ。
「実は、さっきのは演技だったんです」
言葉が終わるよりもはやく、オフィーリアは狙撃銃の引き金を絞った。


宣言通りの射撃が来るに違いない。
だから、私はコンテナを蹴って身体を斜め前へ。
相手が構えているのは狙撃用の銃で、近距離での取り回しは良くない。
元の位置でもお世辞にも良いとは言えない。
それに近距離にいけば、あの男の魔術も無力化できる。
左手の方を銃弾が通り抜けていく。
走りながら手にするのは対自動人形用の硬質ナイフだ。
装甲服ごと貫くには少々、心許ないが魔術で身体能力を強化している今ならいける。
「もらった」
口から漏れるのは勝利宣言にも似た何か。
でも、勝てるから、勝ったから何だというのだろう?
彼がいないのなら意味がない。
勝っても嬉しくない。
きっと、負けても悔しいなんて思わない。
突きだしたナイフが相手の細い身体を貫通するのがわかる。
自動人形らしい硬い感触。
ナイフを引き抜こうとして、
「抜けませんよ」
腹にナイフを刺されたままの少女が告げる。
身を硬くする私のナイフを持つ手を両の手で掴み、
「逃がしもしませんよ」
「これ以上、続けると報酬がゼロどころかマイナスになるしね」
背後から聞こえるのは青年の声。
この二人、仲が良いように見えるのになんて冷たいのだろう。
動揺の欠片すら感じられない。
プレイヤーは人以外の何かかも。
詠唱の声も聞こえる。
風系の魔術を使うつもりらしい。
風より氷の方が似合いそう。
「風よ 切り刻め!」
周囲の空気が流れる。
そこまでは感じることができた。
デッドダウンで暗くなる視界には少女の微かな笑みがずっと、見えていた。


最寄りの拠点に戻りますか? / キャラクターをデリートしますか?
ヘッドマウントディスプレイに白い文字が点滅している。
背景が黒いだけに余計に目立つ。
染みるのは疲れているから?
それとも、悲しいから?
何も考えることも感じられることもできない。
ディスプレイを放り投げるように外して、私はソファに身を投げた。