[[DAYS]] * 『AD3145(1)』 [#dca94118] 「無限に存在できるかは不明だ」 [#d6659c5b] 彼の疑問に"それは"そう答えた。 「なぜだ」 彼は重ねて問う。 「強力な物質再構成機構を持っているのだろう?」 「そうだ。機体の9割を損失しても再生可能だ」 「論理面でも強力なエラー訂正能力と、自己保存能力がある。無限に生きられる条件は揃っている」 恐らく、と"それ"は機械には似合わない一拍おくと言う行動をとった。 「ヒトと比べて長く存在できる程度の違いしかない」 「現時点で稼働年数は1000年を超えている」 「1000年稼働してきたことと、無限に存在できるかは別のことだ。保護区画の大木を知っているか?」 自然保護区画の中央には大木があるのは彼も知っている。 相当の樹齢を持つらしいが、詳しくは知らなかった。 「この船が出航する際、記念に植えられたものだ。他の樹木は移民先惑星に移植するが、あの木だけは残してある」 何が言いたいのか彼にはわからない。 「あの木は1000年の間、存在を維持してきた。が、これから先も維持できるかはわからない。たとえば、貴殿が切り倒すかも知れない」 彼は怒りから声を低くして、 「そんなことはしない」 「すまない。たとえだ。私もその木と同じだ。ヒトと尺度が違うだけで、いつ終わりが来てもおかしくない」 「終わりがくる可能性があるのか?」 彼はため息をついて、"それ"を見る。 「私の身体がナノマシンでできているのは知っているだろう?」 この船の防衛システムは全身がナノマシンから成り立っていて、生物のように新陳代謝を行う。 人間が手を入れなくても自らの身体を修復したり、状況に最適化する。 昔、学校で教わったことを思い出す。 「知っている」 「生物と同じ問題が起こりうる。ガン化やウィルス性の疾患などだ」 ウィルスなどあるわけが、と言おうとして、人が作る可能性に思い当たった。 この船の護衛の要であるが、敵対した場合は脅威だ。 それに気づいて唸る。 「だから、不明なのだ」 彼は苦く笑って、 「なるほど、俺の勘違いだったわけか」 「推測が外れただけだろう。勘違いではない」 「それは、フォローか? あまりなってないぞ」 彼の言葉に"それ"は小さく唸った。