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#author("2018-06-16T16:17:31+09:00","default:sesuna","sesuna")
[[DAYS]]

* 1 [#mb2ffce9]
 「ここまで鮮やかに終電を逃してしまうのか」
バーでスマートフォンを片手にうなだれる。
「時間を過ぎるのを忘れると、こういう現実が待っているのね」
横に座るカシスは楽しそうに笑う。
「現実は甘くないなぁ」
「甘くする方法はいくらでもあるでしょう?」
そういうと、彼女は自分のスマートフォンの画面を僕に見せた。
彼女も終電を過ぎているのだとわかった。
「あることはあるけど、いいの?」
「これ以上、私に言わせるつもり」
「いいや」
即答して宿泊先の検索を始める僕。
「何か好きなのを飲んで待ってて。宿は、探すから」
「そう、任せたわ」
宿は幸い、すぐに見つかった。
少々、値段はするがここから歩いていける距離にあるビジネスホテルだ。
写真で見る限りは清潔そうだし、利用者からの評価も高い。
バーを出ると夜の風が吹き抜ける。
ほてっている肌にはなおさら、冷たく感じられる。
「寒い?」
「少しね」
そういってボタンを留めると、僕の腕に彼女は腕を絡めて身体をよせてきた。
ふわっと甘い匂いがした。
「これなら、少しは温かいでしょう?」
「そうだね。温かいどころか、ドキドキだ」
「そう」
満足そうな表情を浮かべたのを僕は見た。
彼女に見とれて道を間違えそうになること数回。
大きく間違えることなく、目的地に僕らはたどり着いた。
受付を済ませるとまっすぐ部屋に向かう。
「見晴らしがいいわ」
「ここからでも夜景が楽しめるんだね」
「運がいいわ」
彼女の言葉にうなずいてから、部屋を見渡す。
ダブルベッド、ベッドサイドには小さな机とランプがある。
椅子が2つ、窓のほうに向かっておいてあるのは意外だった。
ベッドの上に二人分の浴衣があると気が付いて、これから二人で過ごすのか、と思うと心臓がばくばくし始めた。
「お風呂、入った時に倒れないでね」
「いや、まさか、倒れたりはしないだろう」
「顔、真っ赤だもの」
「お酒のせいだよ」
「じゃあ、なおさらね」
それは一理あるな、と思いつつ、酔いが覚めるのを待つ。
夜景なんてこうでもしないと、じっくりと眺めないだろう。
見えたとしても、夜景だとしか思わないに違いなかった。
綺麗だと思えるのは恋の魔力か。
カバンからペットボトルの水を取り出して飲む。
こんな調子でこの夜を越えられるのだろうか、と少し疑問に思う。
「大浴場があるのね」
「え、そうだっけ」
自分で選んだのにそういう設備があることを失念していた。
部屋にもユニットバスが備え付けられてはいるが、体の汚れを落とすのが精一杯だろう。
「私、先に入ってくるわ」
「留守番してるよ」
「お願いね」
タオルと浴衣を持って、カシスは部屋を出て行った。
部屋に一人になると不思議と寂しい。
スマートフォンを触るのもなんだか妙だし、と避難経路の確認をしたり、部屋の中を歩き回って、何があるのかを確認したり、と落ち着きのない動きをしばらくしていた。
「ただいま……何を、しているの?」
振り返ると浴衣姿のカシスが扉のそばに立っていた。
湯上り特有の赤みをさした肌に心臓が跳ねたのを感じつつ、
「探検、かな」
「そう。何か見つかったかしら?」
「念入りに清掃されているのがわかったよ。テレビの裏にも埃がなかった」
「それは念入りね。お風呂も綺麗だったわよ」
「そっか。それはいいな」
ベッドの上にある浴衣とタオルを掴んで部屋を出る。
「手と足が揃っているわよ」
通りすがりにそう言われて、自分がまだ緊張していることに気づいた。

大浴場は僕以外の利用者はいなかったので、広い湯船を独占できた。
部屋に戻るとカシスは椅子に座って文庫本を読んでいた。
「何を読んでいたの?」
「インターステラー」
「映画があったよね」
「それのノベライズよ」
文庫本を閉じると、そっとテーブルの上においた。
「どうしましょうか」
「どう、しようか」
互いに沈黙すること数秒。
「眠るにはいい時間ね」
雰囲気を創れなかったのは失敗だった、と落胆しつつ、ベッドにもぐりこむ。
横に誰かがいるのも久しぶりだな、と思う。
一緒に誰かに寝たのは親が最後だっただろうか。
修学旅行の雑魚寝も入れるならもう少しブランクは短くなる。
しかし、恋人と一緒に眠るのはこれがはじめてだ。
ゆっくりとベッドに入るとカシスは、ベッドにあるパネルを操作して、部屋の照明を消した。
真っ暗になった部屋は静かだ。
「ねえ」
「なんだい」
「こうやって眠るの、はじめて?」
「え、ああ、うん」
「そう。私も初めてよ」
「そっかぁ」
ゆっくりと、声帯を震わせないような声でカシスは続ける。
「したいなら、して、いいから」
「え」
「こういうのは、意思表示をしておくべきだと聞いたわ」
「そういう時代か」
「そう。あなたは、どうかしら?」
「同じく」
「では、合意にもとづいて、ね」
もぞもぞと彼女は身体を動かして、そして、僕の上に載った。
灯がない部屋でも彼女の身体の輪郭がわかる。
その目に先までは見えなかった妖しい光が宿っているのも。
「する気に、なったかしら?」
「最後の踏ん切りがつかない。白状すると初めてなんだ」
「私だって経験は、ないわ」
「それにしては情熱――」
唇がふさがれて、言葉が出ない。
受け止めるのが精いっぱいだ。
唇を重ねるたびに彼女の熱が体にしみこんで、僕の身体を奥から焼いていく。
熱にうなされるように唇を前に出した時だ。
ごつ、と鈍い音がした。
色彩を増していた世界がおとなしい色彩に戻った。
「おでこ、大丈夫?」
「君こそ」
「私は大丈夫よ」
心配そうな表情で彼女は僕の額に手をあてた。
ひんやりとした手が心地いい。
「大丈夫、だと思うけど、続きはまた今度、かしらね」
「これぐらい大丈夫だよ」
「そう。変なことがあったらすぐに教えてちょうだい」
「ああ、うん」
「では、続きをしましょ」
有無を言わさず唇を重ねられる。
今度は舌が入ってきた。
ディープキスという言葉をイメージしながら、同じことを彼女にする。
口と口の間を舌が絡みあい、湿った音を立てる。
「ん……」
はじめたのが彼女で、終わらせたのも彼女だった。
唇が離れると、唾液が銀の糸のように伸びる。
「あなたも情熱的じゃない」
「燃え上って当然だろう?」
僕の言葉にカシスは微笑んで、また、唇を重ねてくる。
何度、唇を重ねただろうか。
どれだけ時間が経っただろうか。
脳が、身体が甘くしびれているとはこのことだ。
それは、彼女も同じらしい。
うるんだ瞳、赤みを帯びた肌、荒い呼吸から読み取れた。
いつの間にか浴衣ははだけ、形の良い胸が見えている。
「触ってみる?」
視線に気づいた彼女は囁いた。
手を伸ばして触れると、甘い息が漏れた。
やわらかく、温かい感覚が手のひらから伝わってくる。
手を動かすのにあわせて、彼女は甘い声を漏らす。
その声をもっと、聞きたくて手の動きを変える。
リズムに緩急をつけたり、強くしたり。
そのたびにカシスは、甘い声を、時には切なそうな声を漏らす。
普段の彼女からは想像できない姿だ。
ぷっくりと膨れ上がった突起をつまむと、彼女は大きくのけぞり、そして、僕の上に倒れた。
汗で頬にはりついた髪をなでて整えてあげると、
「……気持ちよかったわ」
と彼女はあえぐように言った。
「今度は、二人で」
そう続けると、彼女は膝立ちをした。
意図を読んで僕は彼女の浴衣をそっと脱がして、彼女も僕の浴衣を脱がした。
「きれいな身体ね。それにいい匂い」
「いう立場が逆じゃない?」
「あなたは私にいうことはないのかしら」
「きれいな身体だ。それにいい匂いだ」
「そう」
しかし、彼女は満足そうな表情を浮かべて、僕の中心に手を伸ばす。
膝立ちの状態で彼女は自身の中心とあわせて、
「ん……っ」
声をもらしながら、僕の中心を飲み込んだ。
熱く、湿った感触が包み込む。
飲み込み切ると、彼女は身体を前後に動かしはじめた。
粘着質の音をたてて、彼女は甘い声をもらしながら。
「ねえ、気持ち、いい?」
熱に浮かされたような声で彼女はいった。
「いい、よ」
ただ、これではなされるままだ、と僕は彼女の胸をもみしだいた。
「んぅ!?」
彼女の身体が震える。
「不意打ちは、反則じゃない、かしら」
「二人で、といったのは君じゃないか」
胸の突起を親指の腹で擦ると、腰の動きが変わる。
激しいものへと。
「はぁ……ん……もっと、もっとぉ」
彼女の腰の動きにあわせて、僕も腰を動かす。
粘着質の音と漏れる声は大きくなり、締め付けも強くなる。
今までにない快感に僕はすぐに限界を迎えそうだった。
「私、もう……」
「僕も」
先に言われた、と思いつつ、腰の動きをより激しくする。
彼女も同じように激しくし、僕たちは同時に、達した。
僕の中心から放たれた熱いものは、彼女の中心に吸い込まれ、絞られていく。
彼女は僕の身体の上に再び、倒れこんできた。
呼吸をするのが精いっぱいで、先のように髪を整える余裕なんてなかった。
ただ、これは言わなくては、と思って、
「よかったよ」
「ええ、私もよ」
充実感と安心感を覚えながら、僕たちは唇を重ねた。

* 2 [#sb143a7f]
目覚ましのアラームが聞こえる。
身体は疲れを訴えているけど、悪い疲れではない。
スマートフォンを操作してアラームを止める。
「早起きね」
「おはよう。切るの忘れてたよ」
「規則正しい生活は大事なことよ」
そういってカシスは微笑む。
彼女を見ていると昨晩のことを思い出してしまう。
部屋のシャワーを浴びたあと、眠ろうか、などといってたら火がついてしまい、もう1回してしまったのだった。
「あなた、見た目だけは奥手よね」
「君じゃなきゃああは、しないと思う」
「こうも、ならない、ということかしら」
彼女の白い指が僕の中心に触れる。
「朝だからだよ」
「それだけかしら」
違うといえず言葉に詰まっていると、
「まだ、チェックアウトまで時間はあるでしょう?」
「だいぶ、余裕はあるね」
「なら、続き、しましょう?」
「朝から?」
「いやかしら?」
「いいや」
「なら、決まりね」
また、僕に乗ろうとする彼女を手で制して、仰向けにする。
「今度は、僕が」
そういいながら覆いかぶさる僕に彼女は、
「優しくしてちょうだい」
と微笑んだ。