[[PSO2]] *バーにて [#f7d2906b] バーカウンターの設置自体は楽だった。~ 骨が折れたのは酒類を並べる作業で結局、丸一日かかってしまった。~ セットでついてきたグラスを拭いているとエオがやってきた。~ 「立派なバーカウンターだね」~ カウンターを見るなりエオはそういった。~ 「設置した甲斐があるというものだ。酒は皆、飲むのか?」~ 「まちまちだね。わたしは飲む、かな」~ そして、カウンターに両肘をつきながら、カシスオレンジが飲みたい、と言った。~ 「キャストが酒を飲んで酔うのか?」~ 問いながらペオズはレシピを確認する。~ 二種類の酒を混ぜるだけで簡単にできそうだった。~ 「酔ったふり、かな。飲んだアルコール量に応じて、自己判断能力を落とす、そういうことができる」~ ゆっくりとした調子で言い聞かせるようにエオは言う。~ 「便利なのか不便なのかわからないな」~ 赤紫の液体が入ったグラスを差し出しながらペオズは言った。~ 人に合わせて生活するのであれば、酒を飲み交わすことも求められるのか、と考える。~ 彼の言葉を聞きながらエオはマドラーでゆっくりかき混ぜながら、~ 「人と話をするときには便利だよ。お酒のせいって言えるから」~ 「では、酒のせいということで聞きたいことがある」~ カシスオレンジをゆっくりと一口飲んでからエオは、~ 「何かな?」~ と答えた。~ 「チームに誘う時に言った台詞を覚えているか?」~ 「君のような必要なんだ……そう言ったね」~ 目を閉じてエオは答えた。~ まるで台詞を思い出すように。~ 「そうだ。それは、キンドルのことだろう?」~ 過去の暗い記憶にふと沈むキンドルを助けたい、力になりたいとペオズは思ったのだ。~ 彼女が見込んだように対話する用意がある彼の助力もあって、少しずついい方向に進んでいるように見える。~ 「うん」~ エオは微笑みとともに頷いた。~ その彼女にこの問いは酷か、と僅かに感じつつ、疑問をぶつける。~ 「何処まで考えていた? 僕が彼女に好意を寄せるところまで考えていたのか?」~ ペオズの問いにエオは一瞬だけ目を見開き、しかし、すぐに先の微笑に戻して、~ 「そこまで考えられたら、いいな。でも、違うよ」~ 「そうか」~ 何か企んでいるような物言いが多い彼女だが、そこまでは考えていなかったらしい。~ 「そうだったら、キンドルに嫌な思いはさせなかったよ」~ 遠くを見るような表情でエオは答えた。~ 「すまない。すべて想定済みなのではないか、と疑っていた」~ ペオズはいつの間にか入っていた体の力を抜いた。~ 「あなただったらきっと、と思って声をかけたのは本当だよ」~ 「あの一回の戦闘だけでその判断を? 博打だ――信じられないな」~ 「その後の会話も参考にしたよ」~ 「フムン」~ それはあの時のやり取りでも聞いた。~ 「そうだね。博打といえば博打だったと思うよ。今のところは、勝っている、かな」~ 「今のところか。確かに先はわからない」~ エオはペオズを見上げながら、~ 「……ずっと勝たせ続けてくれないかな」~ 勝たせ続ける、それはペオズがキンドルの力になり続けることだ。~ 見上げるエオを見下ろしながら、~ 「誰がやっているのかわからない賭けに乗る趣味はない。言われなくても成すべきことは成す」~ 「ごめん」 ~ 「怒ってはいない――意志の表明だ」~ 「そっか」~ 誤解は解かなければ、と彼は窓の向こうを見ながら思いを言葉にする。~ 「そうだ。言われなくても僕は彼女のそばに在り続ける」~ 感じた視線のもとを辿れば、エオと目があった。~ 彼女は目を逸らさずにペオズに告げる。~ 「その言葉が聞けてよかった。うん、あなたをチームに誘って正解だった」~ どう返そうかペオズは悩み、~ 「――飲み過ぎだ。そろそろやめておけ」~ 「素直じゃないなぁ」~ ペオズは肩をすくめた。