「依頼の品は揃ったようだが、過不足は無いだろうか」
「うん。今のでバッチリだよ。ありがとねブリちゃん」
「うむ。では帰還するとしよう」

クライアントから受け取っているオーダーリストを眺めながら不備がないかを確認したエオの横で、ブリアントザイドは静かにテレパイプの封を切った。
2人がいる位置よりも少し遠くを狙って投げられたアイテムは、ぽん、と軽快な音を立て、転送装置を起動させる。
じゃあ戻ろうか、とエオが声をかけ、テレパイプへと向かおうとした………が。

《きっ、緊急連絡です!》

騒々しいオペレーターの通信が入り、すぐさま空の一部がぐにゃりと赤く歪んだ。

「む…っ」
「タイミング、わっるー…」

瞬時に戦闘態勢を取るブリアントザイドと、盛大に溜息をついたエオの視線の先は歪んだ赤い空だ。
そこから何かが巨大な生物が降り立ち、どかんと重量のある着地音が響く。
大気をびりびりと震わせる咆哮の主はアークスの敵、ダーク・ラグネだ。

「しかたないね。早く片付けて帰ろう」
「うむ。奴ばかりはこのまま見過ごす訳にもいかないだろう」

ダーカーはアークスの敵、他に被害が及ぶ前に対処しなくてはならない。
エオが長銃を、ブリアントザイドが槍を再び手に取り、ラグネへと向かう。

「いっくぞー!」

巨大なダーカーの足元へ辿り着いた2人がラグネへと一撃を見舞う前に、甲高い声が響いた。
声とほぼ同時に、ダーク・ラグネの左後ろ足で爆発が起こる。

「増援かな?」
「そのようだ」

ダーク・ラグネが相手ならば、2人だけよりも数がいた方が格段に楽だ。どんな人物だろう、とエオが増援に駆け付けた声の主を確認する。
当たらないよー、と楽しそうにダーク・ラグネの攻撃をひらりひらりと避けていたのは、小柄なニューマンの少年だった。

「ふぅむ。子供か」
「みたいだね。子供自体は珍しくないけど、ソロなのはあんまり見かけないね」

エオはそれだけ言うと、少年の攻撃でヒビの入った足を狙って銃を構え、少年へ向かって叫んだ。

「そこのあなた、ウィーク入れるよ!」

エオの声が届いたのだろう、少年の視線が二人へ向く。

「ありがとーっ!」

少年は元気良く返事をすると、ふわりとエオとブリアントザイドの側へ移動し、杖を掲げてシフタとデバンドを放つ。
赤と青の光が周囲を包みこんだ事を確認すると、少年はすぐにその場を立ち去り、ウィークの赤いマーカーに炎テクニックを放った。
弱点属性の攻撃を受けた足の鎧が破壊され、ラグネがよろける。

手慣れている。
それが二人の抱いた感想だった。

「どんどんいっくよー!」

危なげがない様子でテクニックを放ち続ける少年は、意外と周囲にも目を向けている事に2人は気がついた。
集まってきた小型のエネミー達やエオが放つウィークバレットのマーカーは的確に狙って行き、誰かが負傷した事に気づくとすぐにレスタをかけていく。
野良パーティに混じって活動することをメインにしているのかもしれない。

「後衛がいると、楽だね」

最後の足鎧が破壊され、地面に突っ伏したラグネのコアを狙って、エオが止めとばかりにウィークバレットをセットする。
弱点に浮き上がる赤いマーカーにブリアントザイドが槍を突き立てると、ダーク・ラグネは断末魔の悲鳴を上げ、四散していった。

ふう、と息を吐いた二人に暖かな光が降り注ぐ。少年がレスタを放ったのだ。

「ありがとう。助かったよ」
「私からも礼を言わせて貰おう。援護、感謝する」
「えへへー♪」

光が収束した後、お礼を述べた2人を見上げながら、少年は嬉しそうに笑う。

「ところであなたは、クエストの最中?」
「うん!」
「名前を聞いてもいいかな?」

たった一度共闘したくらいで名前など聞く必要はなかったが、何となくエオは問い掛ける。
彼女の中の何かがそうさせたのかもしれない。

「マルカートだよっ」

名前を聞かれたのが嬉しかったのか、マルカートと名乗った少年は片足を軸にくるりと回って見せた。
断られるかと思ったが、杞憂だったようだ。

「おねえちゃんたちは?」
「わたしはエオ」
「私はブリアントザイドだ」

相手が名乗ったならば当然、2人も名乗るのが礼儀。
二人もマルカートへ名を告げる。

「エオおねえちゃんと、ブリアント……ザイドおじさんだねー!」

マルカートも告げられた名前を何度か声に出して反復し、覚えた!と笑った。
微笑ましい様子に、強敵と戦った後とは思えない穏やかな空気が流れる。
そのまま少し3人で雑談をした後、クエストの目的であるロックベアと戦いに行くと話すマルカートを2人は見送った。

「それじゃあ、また一緒にクエスト行こうねーっ!ばいばーい!」

少し離れてから、思い出したように2人を振り返ったマルカートは大きく手を振り、目的地へ向かって再び走り出す。
小さな姿が完全に見えなくなり、辺りが静かになるとエオが小さく笑った。

「元気の良い子だったね」
「うむ。子供はあの位純良で善い」
「“また”だってさ」
「再度共に任務をこなす事態が訪れる。そんな希望を抱かせる者であったな」
「いいね、ああいう子」

また会えたらいいね、と呟くエオにブリアントザイドは静かに肯定の意を示す。

「わたしたちも帰ろうか」
「それが良いだろう。依頼者も待っている」

原生生物もダーカーも、もう襲っては来ないようだ。
2人はダーク・ラグネが現れる前に設置しておいた転送装置に入る。
戻ったキャンプシップで任務が完了した事を報告すると、キャンプシップは旋回し、惑星ナベリウスを後にしていく。

これが後々チームを賑わせるメンバー、マルカートとの初めての出会いだった。

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