- ある日常の

個人的に届いていた依頼を済ませ、依頼主から報酬を受け取る。
一息つき、手元の端末から時刻を呼び出すと、チームメンバーが集う夕食の時間にはまだだいぶ余裕があった。

キャストであるブリアントザイドは、食事を摂ることが出来ない。その為、食事に参加する意味はないと言っても良いのだが、年若い者の多いチームメンバーの話を眺めることは、彼にとって有意義な時間となっていた。

時間までに軽いクエストを片付けることは造作もないだろう、と判断し、クエストカウンターへと足を運ぶ。

「あ!ザイドおじさんだー!!」

ナベリウス森林への探索任務を請け負った直後、聞き覚えのある明るい声がブリアントザイドを呼び止めた。
振り向き、視線を下へと下ろすと、両サイドが少し長い深緑の短髪に、空色の瞳のニューマンの少年、マルカートと目が合った。
マルカートは、かくれんぼで相手を見つけた時のように嬉しそうな表情をしながら、ブリアントザイドを見上げている。

「やっぱりザイドおじさんだ!こんにちはーっ」
「マルカートか。君もこれから任務かね」

ぴょんぴょんと飛び跳ねるマルカートに軽く一礼をしながら、ブリアントザイドは問いかける。
マルカートは無邪気に笑いながらも、首を横に振った。

「ううんー。さっきまでエオおねえちゃん達とクエスト行ってきたんだー。そしたらザイドおじさんを見つけたから、呼んでみた!」
「ふぅむ。そうか」
「うん!浮遊大陸とー、火山とー、凍土に行ってきたんだー」

随分とたくさんのエリアへ向かったようだったが、マルカートに疲れの色は見えない。
むしろ、まだ動き足りないような印象をブリアントザイドは感じていた。

「ザイドおじさんはこれからクエスト?」

何となく、予想していた台詞がマルカートの口から発される。

「うむ。これからひとつ任務をこなそうと思っていたところだ」

包み隠さず正直に言葉を紡ぐ。マルカートに嘘を吐く理由は、ブリアントザイドにはない。
ブリアントザイドの“これから任務”という言葉に、マルカートの目が輝いた。

「ね、ぼくも一緒に行ってもいい??」

言葉と共に、期待に満ちた眼差しがまっすぐブリアントザイドに向けられる。

「ふぅむ。私一人でも支障はないのだが、君が同行したいと言うのなら、私に断る理由もない」
「ほんと!?やったー!!」

さっくりと許可が貰えたことに、マルカートは、ぴょんぴょんと飛び跳ねたり、右足を軸にくるくると回ったりと、全身で嬉しさを表現する。
その様子を内心微笑ましく思いながら、ブリアントザイドは思索を巡らせる。

これまで、二人はかなりの頻度で共にクエストをこなしており、成果から顧みても相性は悪くない。
それに加え、マルカートの持つ好奇心と能力を、ブリアントザイドは高く評価していた。

マルカートの純粋な好奇心は、時に危険を招く事態も少なからず存在している。
しかし、その危険を上回る若く新鮮な目線を、ブリアントザイドはマルカートから感じており、今はまだ危なっかしく目が離せないものの、危険を退ける方法さえ身に着けば、かなり強力な戦力となるのではないかと認識していた。

ブリアントザイドは任務の内容を思い返す。
道に迷いやすいマルカートのフォローをしながらでも、時間はあり余る程だろう。

「さて、それでは任務へ向かおう。くれぐれも油断はしないことだ」
「はーい!」

キャンプシップへ向かう通路を歩き始めるブリアントザイドの後ろを、元気よく返事をしたマルカートが付いて行く。
転送装置から降り立ったナベリウスの地を、長杖を背負ったマルカートは楽しそうに走り出した。
大剣を背負ったブリアントザイドは、ホバーを起動させると、マルカートの後を付いて行く。

次々と現れる原生エネミーを、きれいなコンビネーションで蹴散らしながら、二人は目的地である森の最奥を目指して進んで行った。
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