「何か疲れているようだが、どうした?」
「疲れているように見える?」
そう振り返り問うエオの動きには何処か気だるさが感じられる。
いつもと同じ速度だが、芯が通っていないそういう動きだ。
ペオズにはそう見えた。
「いつもならジョークの1つ2つ放つだろう――笑えないが」
「相変わらず手厳しいなぁ――ちょっと、上の人たちと話してた」
上の人という言葉にペオズは引っかかり覚え、エオに問う。
「なぜだ?」
「リンのことで少し……」
「歯切れが悪いな」
いつもストレートに物を言う人間が濁すということは何かがあるのだろう。
「話していいのか、悩むときはあるよ。何も聞いてないでしょ?」
「名前以外のことはおそらく、誰も聞いてない」
「わたしも何も聞いてないんだよ、本人からは」
「フムン」
件の少女とは先程、言葉をかわしてみようとしたが、ほとんどこちらが喋っているだけだった。
はいといいえは首の動き、どうしても言葉などで説明する必要があるときだけ声を出す、そういう少女だ。
彼女をそうさせた理由にペオズは興味があった。
「彼女についての情報があるなら教えて欲しい」
「簡単に説明すると彼女は質の悪いチームに捕まっていたんだよ。それも奴隷のほうがマシかってぐらいの」
いつもより低い声でエオは話す。
普段が柔らかいだけにその声に熱を奪われそうだった。
そういう声も出せるのか、とペオズは感じつつ、
「彼女はそこから逃げてきたのか」
「戦闘中にね。ハンター2人、フォース1人、リンの4人で戦闘している時にダーク・ラグネの襲撃を受けた。最初の突撃で3人が蹴散らされて、その隙を付いて逃げ出したみたい」
「逃げ出した? 記録は?」
「件のチームの死体から」
「……死んだのか」
「最初に蹴散らされてそのあと、一方的だったみたい。まさに天罰ね」
「それからどうなったんだ?」
「まず件のチームからリンを除いた3人の捜索依頼が出た。アークスはすぐに捜索チームをフィールドに送った。程なく捜索チームは戦闘でやられた件の3人を見つけた。戦闘記録を確認するともう一人いたけど、そのもう一人が見つからない」
見つからなかったのはリンのことだ。
しかし、フィールドで戦う自分たちは常に位置情報を仲間同士で共有している。
居場所はすぐにわかるはずだ。
「位置情報は記録されているだろう?」
「センサーを細工したらしくて現在位置がわからないのよ」
「悪意のあるチームだ」
怒りを覚え、身体が硬くなるのをペオズは意識した。
「そこに気づいたアークスの捜索チームが他のメンバーを問いただしたら、すぐに口を割ったらしい」
声に怒りは滲みでていないだろうか、と彼は思いながら、
「それなら、エオは何も関係がないだろう?」
「行方不明者と合流したから、それで」
「なるほど。それで数日あけていたのか」
状況は見えてきた。
今回、彼女は厄介事に巻き込まれていたがために身動きがとれなかったのだ。
リンを紹介しなかったのも、部屋に戻ってきたと思ったらすぐに出ていったのも説明がつく。
「僕たちはどうすればいい?」
「彼女を見守っていて欲しい――今はうちで与っているけど、そのうち出ていくことになるかも」
「その時は、どうするつもりだ?」
「彼女に任せるよ。わたしはいて欲しいけど、別のところがいいならそこを目指せばいい」
「わかった」
冷静な彼女の言葉に自分の怒りが消えていくようだ、とペオズは感じた。
「他のメンバーには話をしたのか?」
「ザイド、シェーナ、キンドルの3人には話をした。今、あなたに話した情報と同じものを。他の皆にはこれから、ね」
「笛吹き男は大変だな」
ペオズの言葉にエオはいつもの調子でこういった。
「先頭を行く者の特権だよ」