アドストラトスフィア(12)

14. 22時間前 要塞都市「ニレ」

ニレはここ数年で急速に発展を遂げた都市だ。

高層ビルが立ち並び、夜も明かりが煌々と輝くことから不眠都市などと呼ばれることもある。

戦いに重きをおこないギルドの拠点が多く、この街では商業活動が活発だった。

理由の一つは都市の防衛能力が優れていることだ。

街の外周には厚さ15m、高さ30mの鉄筋コンクリートと複合装甲の物理防壁と都市全域を天井のように覆うシールド、無数の対空砲群が設置されており、通常の攻撃では防御は突破されないと言われていた。

攻撃については付近のギルドと連携、要請すればすぐに駆けつけるようにしていた。

ニレで活動する商業に重きをおくギルドは、戦闘に特化したギルドに自分たちの商品を割引で提供している。

表向きは守ってもらう、守ってもらったから、とあるが宣伝も兼ねていた。

ファルクラム迎撃作戦でニレは物資と人員の補給基地の役割を担い、先日も敵の襲撃にあってはいたが各種防御施設と近隣のギルドからの迎撃部隊によって、被害らしい被害を受けずに済んだ。

今晩もビル群の明かりは消えることなく、街はそれぞれの戦いを続けている。


「さすがに疲れたぞ、これは」

と男はビルの屋上で体を柵に預け、ぼやいた。

ここ数ヶ月はファルクラム特需に見まわれ、ただでさえ忙しかったのに先日の敵襲でさらに忙しくなった。

予想外の形で大量に物資を消費したため、調整の仕事に追われているのだ。

幸いなことにファルクラム迎撃という大きな目標があるため、取引先は皆、理解があった。

自分たちのギルドに作戦遂行能力がないとわかったギルドは、他の動けるギルドに物資を渡してほしい、といったように。

それでもがっつり動いているのだから、疲れは、出る。

キャラクターの操作権限をボットにゆだねて休もうか、と思い男は柵から体を離して、

「ん?」

異変に気がついた。

風が下から上に吹いている。

舞い上がってきた葉が真上に飛ばされていくのが見えた。

葉は更に高く、高く登って行きあっという間に見えなくなり、

「――」

男は耳を抑える。

急にトンネルに入った時のように耳が痛む。

「何が、起こっているんだ?」

空を見上げると光の粒が川のように流れていた。

それは、小さな流れが集まり、大きな流れがさらに大きな流れになり、海に流れ込んでいるようにも見えた。

美しい光景だと思うと同時に嫌な感覚があった。

背中に氷を突っ込まれたような、そういう冷える感覚だ。

そして、サイレンの高い音が響いた。

敵襲を示すサイレンだ。

「敵!?」

先日の敵襲撃が脳裏を過る。

端末を取り出し、この街を統治しているギルド「アーティフィシャル」のチャットログを確認する。

『天蓋展開までカウントダウン開始』

の文字が読めた。

数字がみるみると減っていき、0になった。

大気を殴ったような音が響き、空に靄がかかる。

この都市は今、半透明のシールドに覆われたのだ。

「しかし、敵は……?」

男は曇りガラスの向こうに見える光の川を目を細めて見る。

小川は消えてところどころに光が溜まっていた。

雨上がりの道にできた水たまりのようだった。

その水たまりが急に小さくなり、光を失い始めたのだ。

何が来るのか、と思うよりもはやく、その何かが、来た。

機竜だ。

無数の機竜が突如、都市上空に現れたのだ。

「おいおい……なんの冗談だよ」

男の言葉を否定するように機竜群は爆撃を開始した。

コメントを残す