Feathery Instrument

Fine Lagusaz

9th Dive -空と黒-

-67分前 遺跡エリア2 二つの人影が自分たちの背丈の倍近い剣を振るっていた。 「ジム、こいつらでラストになるのか?」 「俺の目に狂いがなけりゃな。それにそうじゃないと困る、アレが切れた」 それは困るな、とスカリーは頷きつつメランの身体を叩き切る。 黒い霧となった身体は空気中に霧散。

それを払いのけるようにスカイリーは斬り込み後列のアランの群れにフォトンの刃が直撃する。 「うりゃああっ!!」

ジムが叫びチェインソードの無数の刃がエネミーの身体を火花と共に切り裂き散らす。 スカイリーの視界の端に映った黒い影、咄嗟に銃に持ち替え叫ぶ。 「デルセイバー1、真上だっ!!」 拳銃が火を吹き光弾が空気を貫き進んで行く。 跳躍力の優れたデルセイバー言えども空中での姿勢制御は苦手なはずだ。 足に傷を負ったデルセイバーは着地の瞬間バランスを崩して、 「その腕もらったぁっ!」 ジムに叩き切られ黒い影となって消え失せた。 腕が落ちてないことに舌打ちし、 「どうよ?」

振り返ったジムは床にできた染みの上にいくつか落ちている箱を漁っている青い影を見た。 その影の肩をがっしりと掴み発声装置に信号を送り込み、 「がびがびなもん拾ってるんじゃねぇっ!!」 「おあっ!!」 「抜け駆けは良くないなぁ。手にあるものを見せてもらおうか」 凄味を含む声でジムは言ったがスカイリーは動じた様子は無かった。 「・・・見ろ、赤箱だ」 「見ての通りだな」 「フォトンドロップだ」 「あちゃー。ここまで来てこれかよ」 右手で頭を押えるジムにスカイリーは苦笑しつつ、 「メイト切れたんだろ?補給に戻ろうぜ」 「これだと赤字だなぁ・・・どうしたスカイリー」 左腕のシールドパーツにある端末のキーを何度か叩いているが反応がない。 「リューカー、使えねぇのか?」 「そっちは?」 「俺のテレパイプも使えねぇ」 端末の右上にあるIPLv.が恐ろしい勢いで上昇している。 「これはさっさと戻った方が良さそうだな」 スカイリーが引き返そうとジムに背中を見せた。 ジムの視界にはスカイリーのほかに黒い影が映った。 デルセイバーのようだが見たことのない七色の羽がついている。 脚部のリミッターを解除しスカイリーを突き飛ばした。 着地と同時に斬りつけよう、着地の衝撃に備え、 「!!」 胸と背中に衝撃が走った。 装甲状態を示すアイコンが緑から赤に変化。 構わず立ち上がり相手を見据えた。 セロファンのような光を放つ羽。 頭部にある角。 長く鋭い剣。 戦闘可能時間を示す逆算式カウンターが動き始める。 残り120秒。

胸の破損箇所から零れ落ちるフォトンエネルギーを気にしつつ刃を敵に向けた。 「起きろよ、スカイリー」 呻きながらスカイリーが体を起こすのを見てジムは一安心した。 そして戦闘を開始した。

フリーズトラップが頭上に現れ炸裂するがバックステップでデルセイバーは回避し真上に飛んだ。 バックステップでかわすか・・・いや、前だ。 前に大股で踏み出し着地したデルセイバーの背中を狙う。 が、チェインソードは空振りしデルセイバーの剣に弾かれた。 「やるな、こいつ」 空中での機動性はほかのデルセイバーとは比にならない。 究極のデルセイバーと言ったところか。 思考しつつ連続切りをバックステップで回避。 残り時間47秒、攻撃のすきを与えないとうざったい戦法だな。 足止めに使うフリーズトラップも1つしかない。 相変わらず、剣を振り終わった後に隙がある。 ここを狙えばいいはずだ。 考えを即実行、フリーズトラップが直撃しデルセイバーの動きが止まる。 出せる限りの力をフォトンの刃に込め黒い騎士にぶつけた。 氷が黒い姿と砕けると同時にカウンターがゼロになった。 「・・・戦闘は無理になったか」 急に重くなった身体に焦りを覚えシステムをチェックした。 メインだけではなく補助ジェネレータを破壊されている、 「移動すら無理かよ」 倒れる身体を支える青い人影、スカイリーだ。 「無茶するなよな。・・・すぐに救援を呼ぶ」 通路の壁にジムは寄りかかった。 スカイリーはその身体に素早く調べた。

複合装甲と人工筋肉は切り裂かれフォトンジェネレータが剥き出しになっている。 エネルギー供給ケーブルも切断されフォトンエネルギーが漏れていた。 ここまで破損するとテクニックやメイトでは修復不能だ。 ならば言うことは一つしかない、ジムはためらいも無く言った。 「スカイリー、俺をおいて行け」 「は!?何を言っているんだよ。そんなことできるはずがないだろ」 「スクラップ寸前のアンドロイドなんざ足手まといだ」 「足手まといだろうが相棒はおいて行けない」 「ったく・・・好きにしろ」 スカイリーは端末を取り出しジムの表面にある端子と接続した。 アンドロイド整備用に特化した端末は相棒のためのものだとはっきり言える。

破損状況は見た目よりもさらに深くスカイリーはがつんと殴られたような思いだ。 数字の小さいカウンターを見ると “Remain 58m 32s” 残り一時間も無い、はやく助けを呼ばなければ。 しかしこのIPLv.の高さを考えると遺跡にいる人間は少ないだろう。 僅かな希望にすがるように救難信号を発信した。 範囲は遺跡全域、遮蔽物によって変わってしまうが頼るしかない。 「・・・ジム?」 動きの無いジムにスカイリーは慌ててステータスを確かめた。 スリープモードだった。

あちらこちらに転がる死骸と武器の残骸。 地面に空いた爆発の跡、漂う煙り。 それが俺の戦場で居場所だった。 「マスター、この攻撃は正気ではありません。虐殺です」 「その虐殺を止めるために傭われた兵が俺らだ。迷わず行くぞ」 「わかりました」 金属性の大きな剣を構え俺は頷いた。 わかりのいい奴だ、真剣な顔に一瞬だけ笑みが見えた。 ライフルを持ち直し走りだしたマスターの背中を追う。 何十年も前の話だ。

具体的な年代は覚えていない、そんなことをスカイリーに話したらこいつは笑いやがった。 スカイリーとで出会ったのは街で物資の補給をしていた時だったな。 「なぁ、あんたら傭兵なんだろ?外の話を聞かせてくれよ」 「ん。なんだ、このガキ?」 「そういう言い方はするもんじゃねぇよ」 妻も子供もいるのに家にはめったに戻らず最前線を駆け抜ける相棒は笑った。 子供がいるからできる対応だろ、このバカ親が。 不慣れな俺の身にもなれ。 「俺、外のことあまり知らないからさ。頼むよ」 「あんまり面白い話は無いぞ」 「なんでも構わないから話してくれよ、頼むよ」 同じ言葉を繰り返し使うあたり話すまで解放してくれそうにない。 俺が腹を括り相手をしようとした時だ、 「そんじゃぁ、俺ぁ物資の調達してくるか」 げ、子守を押しつけやがったな。 殴る振りをすると相棒はまた笑い大通りに姿を消した。 相手が子供だとすると話せる内容は決まってくる。 戦いについてはあまり触れず戦場になる前の様子などを話した。 「いろんな場所に行っているんだね。外でも生活できるんじゃないか」 そういってスカイリーは空を見上げる。 「ドームに覆われた空だぞ」 「あんたらが見る空を想像したんだ」 「外の土地のすべてが人の住める場所じゃない。それは知ってるだろ」 「ああ、でもあんたの話しだときれいな場所ばかりじゃないか」 「何故、俺らが傭われるかわかるか?」 いいや、さっぱり、と首を横に振られた。 「土地の取り合いさ。街の外で居住可能な地域は狭い」 「だったら街を作ってみんなで住めばいいじゃないか」

「それを作るほどの余裕は十カ国連盟には無い。それに抵抗のある連中も多いしな」 「だから外でも暮らすのか」 「多少は危険でも自由が欲しいわけだ。俺も人のことは言えねぇけど」 苦笑いしつつスカイリーを見た。 「力があれば俺もこの外に出れるかなぁ」 「何処にだって行けるさ。ところでお前、名前は?」 「空」 「は?空の話はもういいぞ」 「違う、名前がソラなんだ」 怒った様子が無いことを考えるとこのようなやりとりは何度かあるのだろう。 全く、変わった名前を付ける親もいるもんだ。 少しは名付けられる身にもなれってんだ。 「あんたの名前は?」 「ん、俺の名前はRGM-79Cだ」 だいたいこの後は『何それ、型番?名無しかよ』となることが多い。 「ジムか」 「お、わかるか」 「いいよな。あの量産型のなかにキラリと輝くパイロットの個性と技術・・・」

「話がわかる奴は話が早くていいな。マスターも変わった名前をつけてくれたもんだ」 「そのマスターも良いセンスしてるぜ。さっきの人がマスター?」 「いや、相棒さ。マスターは・・・」

『どうして俺を守ったんですかっ!?』 『相棒に人間もアンドロイドもあるわきゃないから、な』 『マスター、しっかりしてください』 『そのマスターって呼び方やめろや。最期ぐらい相棒と言ってくれ』 『--』 『お前はお前のやりたいように生きろ。俺に縛られるな』 『!!』

「なんか調子悪そうだよ」 「いや、あいつはマスターなんかじゃねぇ」 ふと顔を上げるとごっそりと補給してきた相棒が立っていた。 髭の顔がにやりと笑い俺の肩を叩き、 「昔話はほどほどにな」 「へいへい、そろそろ行くか」 「そっか、いろいろありがと。また来る時が会ったら話聞せてくれよ」

「しばらくはこの辺が中心だ。今度のでかい仕事になったら会えなくなるけどな」 「ま、一般でも参加できる。もしかしたら会うかも知れん」 「その面は仕事をすっぽかす面だな。逃げるなよ」 「大丈夫だって、んなことはしない」 そのでかい仕事がパイオニア計画だった。

この時、俺はこのガキを新たな相棒にするとはネジの先にも思っていなかった。

パイオニア2というでっかい宇宙船の中は何処かの都市そのものだ。

食料制限のある人間にとっては多少、不自由なものらしいがアンドロイドの俺には関係の無いことだ。 行き交う人間は仲間だったり家族だった理と横に誰かいる。 しかし俺の横には誰もいない。 「ったく、どうなっているんだ」 苛立ちを隠せず口を開いた途端、端末にメールが一通。 「あー、お前は何処にいるんだ?」 「いやぁ、かみさんに引き留められてねぇ」 「OK、後でトラップコンボをかましてやる」 「もうすぐ発進だろ、そいつは無理だ」 裏を返せばこのバカがここにたどり着くのもどう足掻いても無理なわけだ。 「たまには連絡よこせよ」 笑っていた面が真剣になり言った。 「通信制限がきついだろうけどな」 「ま、そっちが成功すれば俺も続くから頑張れや」 「へいへい、それまでくたばるなよ」 「それは俺の台詞だ」 そして相棒は親指を立て白い歯を見せて言った。 「Good Luck」 「ああ、お前もな」 ウィンドウが閉じて仕方なく辺を見回す。 適当に気の合う奴を見つけるしかねぇかなぁ。 後ろからどすんと鈍い衝撃、まさか直撃を食らうとは・・・。 「すみません、大丈夫です、か・・・?」 「ソラか?」 「今はスカイリーさ」 そういったこいつはヒューマーのスーツに身を包んでいた。 なるほど、ハンターズの仲間入りを果たしたわけだ。 「パーティは組んでるのか?」 「兄さんや姉さんと一緒に、ね」 「兄弟揃ってか。すげぇ家だな」 「いろいろとね」 何処か暗い面を見せたのはなんでだろな。 「相棒の姿が見えないけどどうしたんだよ」 さっきの通信中の面を思い出しつつ、 「嫁さんに泣き付かれてコーラルの自宅で待機中」 「意外な展開だ」 「ほんとだな。そこで、だ。俺と組まないか?」 しばしの沈黙。 「良いぜ、組んでも」 「即答だな」 「・・・さすがにいつまでも兄弟ぬくぬくってのもねぇ」 深入りするのもあれなので詮索はしなかった。 最も深入りなんざしなくてもどうしてこいつがこう言ったのかわかった。 なるほど、兄も姉も優秀だ。

特に兄のゼロが恐ろしいほどの腕前で弟のスカイリーから見ればプレッシャーも良いところだ。 「戦力的には不安はあるけど頑張ろうぜ」 「ああ」

「ま、良いコンビだったよな」 暗転した空間に向けて言葉を放つ。 声の反射なくあるのは無だけだ。 記憶領域の崩壊が始まったらしい。 死ぬ時はマスターもこんな経験をしたのか? 自分の顔が逆行になっていることに気が付き後ろを振り返った。 見覚えのある顔にジムは動きを止めた。 「何故、あの時俺はお前を守ったと思う?」 「・・・俺を相棒と思ってくれたからでしょう」 「んなことは当たり前だ。だがな」 そこで彼は一呼吸おいて、 「そう簡単に死ぬんじゃねぇよ。相棒を守るためとは言え情けねぇ」 「情けないのはお互い様です」 「お前、自分が死んだと勘違いしてねぇか?」 意外な言葉にジムは驚き慌てた。

記憶領域の崩壊が始まってしまえばAIの修復ができてもジムという存在は修復できないのだ。 「いえ、しかし」 「その様子だとらしいな。良いか、よく聞け」 もう死んだとは言え相手はマスターだ。 そのマスターの命令は絶対であり従わなければならない。 だからジムは背筋を延ばし両手を地に向けマスターに目を向けた。 「ばーか、もうマスターなんかじゃねえ・・・!!」 顎の辺に鈍い衝撃が走りジムは後ろにのけ反った。 「ったく、ポンコツは叩くのが一番か」 起こした頭部に再び衝撃が走る、頭突きだ。 不意に足場がなくなり身体が自由落下を始める。 何処を見回しても彼の姿は見当たらないが声だけが頭に響く。 「少しは意地を見せてみろ。もう少ししたらこっちに来い」 最後に一瞬だけ笑っている顔が見えた気がした。

「・・・どうしたんだ、俺は?」 身体はしっかりとあるが何処かが違う。 俺はどうしたもんかなと記憶を辿って行く。 よくわからねぇけどあれにぼこられたんだっけな、と頭を掻いた。 「身体が軽いな」 天国というのは体に不自由がないと聞いたことがあるがこの現実感は、 「死んじゃいねぇ」 あたりを見回すとどうやら何処かの部屋らしい。 横には白いアンドロイドのフレームが収まっていた。 どうやら自分も同じように収まっているらしい。 「やっとお目覚めかい」 緑髪を揺らしてフォーマーは尋ねた。 「誰だ、お前は」 嫌みのない笑顔を浮かべ、 「記憶障害とは言わせないよ。しっかり維持したんだからね」 「・・・冗談の通じない奴。ところでスカイリーはどうした?」 「メディカルセンターで治療中さ。大丈夫、軽傷だ」 「フレームの換装をしたのか?」

「スプリングストーム仲間として無償交換だ。どうだい、調子が良いだろう?」 「それを言うなら外に出してからにしろ」

ジムの言葉にフェイドは苦笑いしたが、これだけの勢いがあれば大丈夫だと思った。

あの時、エオに続いて近くにいたゼロやレナが救出に向かいジムが活動限界を向かえる前にたどり着けた。

フェイドが着いた頃にはエオが応急手当を済ませていて彼にできることはほとんど無かった。 エオは自分の教えた知識を取り込み昇華しているらしい。 「色々と世話になったようだな」 「礼ならジャン・・・モンタギュー博士に言ってくれよ」 これほど整った設備はパイオニア2に指で数えられるほどしかない。 その一つがモンタギュー博士の所有する研究施設だったわけだ。 「あの嫌みなガキに頭を下げるのか」

「それが嫌ならエオに下げてよ。依頼の報酬をちゃらにして良いから君を助けてくれって頼んだんだから」 「ったく、良い連中ばかりだな。あいつには悪いが・・・」 「あいつ?」 「いや、独り言だ」

-三日後、惑星ラグオル洞窟エリア1 「行くぜ、うおりゃああ」 チェーンソードに取り付けられた無数の刃がエネミーのフォトンを奪い取る。 「また無茶な回復をするなぁ」 呆れ顔のスカイリーが赤のソードをバルマに叩きつけると動きが止まった。 「たいした命中力ないくせに無茶するお前もお前だ」 「またあんたがダウンするのは見たくないからね」 「あんな格好の悪い姿は晒せないなぁ」 片手で頭を掻くがフォトンの刃はエネミーの体を豪快に叩き切る。 静かになった辺を見回し、 「次の区画に行こうか」 大剣を肩に乗せスカイリーは首を縦に振った。 もうしばらくはこっちで暴れさせてもらう。 そっちで話すのは少し先になりそうだ。 記憶に沈む相棒の背中にジムは大きく手を振った。

前へ / 次へ / 惑星ラグオル彷徨記インデックスに戻る