Feathery Instrument

Fine Lagusaz

9th Dive - Ruins

深い闇の底と呼ばれる全長数kmの宇宙船。 有機的な形をした内装が欠落し青い稲妻の走る内部を見せる。

不気味な色をした染みを踏み締める人影が三つ、遺跡のエリア1で立ち尽くしていた。 「噂どおりの地獄だ。彼がデータを欲しがるのもわかるね」 少し困ったというような笑みを浮かべフェイドは言った。

理性の奥深くからここに踏み入れるべできはないと警告を上げるのを無視する。 ガラスの向こうの大きな空間はこの船のエンジン部分にみえる。

機械というより生物のような感じがするが対照的ににでてくる敵は機械のようだ。 人の心を奥深くから震えあげさせる何かがこの闇に潜んでいる。 フェイドは横にいる少女二人に目を移した。 「すみません。でもフェイドと一緒なら心強かったので・・・」 「博士もエオさんやフェイドさんのこと頼りにしているんですよぅ」 「報酬については後でジャンと交渉しようか」 「ちょっと割に合いません。よろしくお願いします」 エオはモンタギューとのやりとりを思い出した。 なかなか請け負ってくれる人が居なくてねと少し笑みを浮かべていた。 データを採取する簡単な依頼であるが場所は遺跡である。 森のような牧歌的な場所とは違い慈悲も何も無い死を突き付けられる場所だ。 既に調査隊が何組か入ったが未帰還になっていた。 遺跡に絡む依頼は増える一方で請け負うハンターズは全体のほんの一握りだ。

エルノアも連れていって良いと言われたがアンドロイド二人はつらいと思いフェイドも呼んだのだった。

テクニックの使えないアンドロイドをフォースが補いフォースの体力不足をアンドロイドが補う形になったため戦いは短時間で決着がついた。 「リコさんはここまで一人で来たんですよね・・・」 リコのメッセージカプセルを読めば誰の口からでも零れる言葉だろう。

単純なツールしかないと言いつつ石碑の文字を解読してこうやってメッセージとして残している。 ハンターズとして科学者としての腕前も一流なのだろう。 エオは尊敬に近いものをリコに感じた。 「リコさんってすごい人なんですねぇ」 「何度か通路ですれ違ったことがあるけど雰囲気からして違ったよ」 「どう違ったんですか?」

「科学者であることを自慢する訳でも無いしハンターズが元、ならず者集団であったと証明するような好戦的さもない。ありのままの自分で存在する・・・こんなところかな」

「それだからは人々はリコさんを英雄として見ましたけど本人はあまり好きではないようですね」

レッドリング・リコという名前のリコとは違う彼女をメッセージカプセルは見せていた。 森エリアで見かけるカプセルは衝撃的なものだった。 “わたしは英雄なんかじゃない” そこにある彼女らしさは逆に人々を魅了することにもなっていた。 英雄でなくても彼女の後を追う人達は絶対いるとエオは思う。 ひとりじゃないですよ、リコさんは。 「あの部屋で最後ですぅ」 数m先に見える扉を指してエルノアは言った。 センサーが悲鳴を上げエオは身を構える。

それに気づいたのかフェイドも武器を握り直しシフタとデバントをかけ直した。 水の落ちる部屋が口を開けエオたちを誘う。

高濃度のD因子に満たされた空間に飛び込むと無数のエネミーが不気味な雄叫びとともに姿を現した。 銃弾やテクニック、トラップが飛び交いまさに戦場と言える。 「第二波、3秒後に来ます」

いつもより多く現れる敵にフェイドはモンタギューが細工をしたのではないかと疑うがすぐさま否定した。

トリフルイドを飲み干し出現した無機的なエネミーたちに赤と青の粒子を纏わせソウルイーターが空を斬る。 「フェイドっ」

エオの声がしたと思った次の瞬間、段差に躓きバランスを崩してそのまま倒れた。 頭の上を黒い影がかすめる。 「ベルラの拳か・・・危ないところだった」

少し頭を出しながら奥を見るとベルラが二体とグランソーサラーが一体がいた。 すぐ後ろを見ると滝のように水が流れ落ちている。 躓いた段差は何かの熱で溶かされ歪んだ床だ。 天井部分には時折、青い稲妻が走り音を発てていた。 ふっとグランソーサラーの輝きが消える。 氷塊にフォトンの弾丸がたたき込まれ黒い霧となって飛散した。 「距離をとるのは無駄、ということですか」 エオがコンバットの弾倉にフォトンエネルギーを充填しながら言った。 先程の氷塊はグランソーサラーだったのだ。 アンドロイドのセンサーが敏感なのか自分が鈍感なだけなのか。 フェイドは心の中で苦笑いする。 「補助テクニック、お願いします」 「二人で殴り込むかい」 身体の調子は悪くない。 やっと自分の仕事に身体がついてきたようだ。 「あのぅ、わたしはどうしましょうかぁ?」

「ここで待っていてください。あまり危ないことに付き合ってもらうのもモンタギュー博士に悪いです」 「大丈夫さ。すぐに戻る」 ジャスティから赤のハンドガンに持ち替えた。 フェイドもマフを握り直した。 「行きます」 エオの言葉に合わせ二人は一気に駆け出した。 砲弾のごとく真っすぐ飛んで来る拳を避けながら間合いを詰める。

フェイドがジェルンとザルアをかけエオがベルラの下に滑り込み弾丸をたたき込む。 一体撃破、数える事なくエオは次の行動を選択した。 起き上がるエオに鋭い爪が襲いかかり寸でのところでかわす。 ベルラの右腕に蛍のような光が収束して行く。 この至近でかわす術が無いのならたたき込むしか無い。 軽機関銃に持ち替えベルラを正面に捉え引き金を絞る。 弾丸を叩き込まれベルラがのけ反る。 稲妻が走りベルラは黒い霧となって空気に融けた。 「・・・センサーに敵影無し、一応、終わりですね」 「その一応はなんだい」 「そのうち出現する、ということです」 相槌を打つフェイドの後ろからエルノアが声を出しながら走ってくる。

依頼項目は達成したから後はモンタギューにデータを渡しギルドから報酬を受け取るだけだ。 フェイドはモンタギューに何か言うつもりらしいがとにかく街に戻ろう。

センサーが空気の振動を告げ続いて地面が下から突き上げるような揺れがきたけどすぐに終わった。 嫌な予感が胸の奥で急速に増殖しているとすらエオは感じた。

「内臓がぐらぐら揺れるような揺れだったね。いや、今でも臓器が居場所を失ってるよ」 嫌な揺れですねと言おうとした時、端末から聞き慣れない音が鳴った。 救難信号だ。 「発信元はSKYLY・・・遺跡エリア2深部にて負傷、救援を請う・・・」 その名前には見覚えがある、ゼロの弟のスカイリーだ。 すぐに助けに行きたいが途中で依頼を投げ出すわけには行かない。

「エオ、僕がジャンに話しておくよ。その後、上にいる連中と一緒に行くから」 上の連中と聞いてゼブリナやルーフ、ゼロの姿が頭をよぎる。 「・・・よろしくお願いします」 フェイドに頭を下げるとエルノアに向かって言った。 「すみません、今日はここでお別れです」 「わかりましたぁ。ちゃんと助けてあげてくださいね」 「はい。それでは・・・」 ファイナルインパクトを片手に手を振りエオは走りだした。

その背中が扉に消える前にフェイドは光の柱に飛び込みパイオニア2へ向かった。 走りながらエオはジムと最初に出会った時のことを思い出していた。

見上げるほどの身長に思わず『でかっ』と言ってしまったのを鮮明に覚えている。 変わった行動をすることが多かったが細かいところに気の利く変わった人だ。 扉が開くとメランとアランが鈍く光る刃を振り上げ不気味な声をあげる。 「邪魔をしないでください」 銃口が火を噴き戦いが始まった。

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