Feathery Instrument

Fine Lagusaz

7th ヒミツの届け物

「あー、これを届けるのかぁ・・・」 やたらと重い届け物はアイテムパックの中に収まっていた。 端末には一時間弱の残り時間が表示されている。 ゼブリナはぼやきながら洞窟の天井を見上げた。 「なんでメギドの中を走ってるんだろうなぁ」 現れたオブリリーにコンバットをたたき込みながら歩き続ける。

さっき地震らしい揺れがあったので天井が落ちて来たら洒落にならないと思う。

やたら軍人がギルドにいて落ち着かない雰囲気のなかで依頼を請け負ってしまった。 質問しても答えてもらえずゼブリナの不信感はとても強くなっていた。 さっさと片付けてしまおう。 重量感のある隔壁が開くと見慣れた顔が三つ、バルマーの群れと戦っていた。 リリーのメギドをステップを踏むように避けながらルーフは言った。 「あ、ゼブリナー」 「お、ルーフじゃないか。どうしたんだよ」 尋ねながらフェイドから貰った赤のパルチザンで群れに斬りかかる。 Ultではブリューナクは辛くフェイドが拾って来たものを貰った。 「エオとジムの支援。ゼブリナは?」 エオとジムもゼブリナに気づきエオはお辞儀、ジムは右手を挙げた。

二人とも手にはそれぞれファイナルインパクトにチェインソードを握っているのに器用なものだ。 「俺はあやしげな依頼の請け負い中・・・」

フリーズトラップが炸裂し群れの動きが止まりフォトンの刃が凍った身体を切り落とす。 「手伝う?」 「よろしく頼むよ」 「それじゃ決まりね」 最後に残ったギルシャークに笑顔でグランツをお見舞いしてから言った。 「依頼のことは内密にって話だが別に気にしなくてもいいだろ」 「とりあえず依頼人と連絡取った方がいいんじゃないのか?」 ジムの言葉にゼブリナは唸ると端末のホロキーボードを叩いた。 数秒後、画面一杯にクライアントの顔が映し出された。 「もう届けたんですかっ!?」

「そんなはやく届けられるわけがないだろう。たまたまパーティの連中と合流できたんだ。時間短縮できるから一緒に行きたい」

「とにかくはやくしてください。後、30分くらしかありませんからっ!!それをYN-0117に届けないと博士がっ!!」 その言葉の続きは殺されるとするのがちょうど良いかも。 博士と呼ばれる人は研究のことになると怖いから、とエオは小声で言った。 「とどのつまりOKなんだな」 「構いませんよ、とにかくはや」 用件の確認を済ませると途中で回線を閉じた。 「えっと・・・とりあえず急げということですね」 「だな。これを届けるらしいんだけどよくわからないんだ」 右手に届け物が出現すると一瞬だけゼブリナはバランスを崩した。 危うくプレストラップにやられるところを寸前でかわす。 「アンドロイド用のエネルギーパックですよ」 「これだとヒューキャストやヒューキャシールには出力不足だな」 ジムが手に取り振りまわしたりして確かめながら言った。 「恐らくレイキャシール用だと思います」 そう言いながらダメージトラップを狙撃するエオ。 「エオと同じレイキャシールなのにどうして“恐らく”なの?」 切れたシフデバをかけ直しながらルーフは尋ねた。 「独自の規格なんです。わたしも規格外のパーツが多いですけどね」 「端末の残り時間は稼働時間になるわけか」 「なるほど、エネルギーパックか。それははやく届けないとな」 鈍い音と共に隔壁が開くとエリア2へ行く転送装置が姿を現した。 ・ ・ ・ ・ 「一気に気温が下がると金属疲労起こしそうで嫌だねぇ」 ジムが笑いながら言うとエオは頷いた。

ジャスティから放たれたフォトン弾はバルマーの群れに命中すると魔法陣のようなものが浮かび上がっている。 「人間にはこれくらいがちょうどいいがね」

「これで身体の調子を狂わすようなエネミーがいなければいいところなのにね」 「ああ、本当にそうだな」 一通り命中したところでルーフが一歩前にでてジェルザルをかけた。 続いてゼブリナとジムが突撃し群れをなぎ払う。

バルマーとギルシャークの群れを指揮するように現れた赤い巨体のクリムゾンアサシンが冷たい息を吐き出した。 が、次の瞬間にはジャスティに足止めされグランツで灰になっていた。 「ナイスアシスト」 ジムとゼブリナが声を揃えて叫ぶ。 「まだまだ行くよ~」 「次の群れが来ます」 「炸裂しろ、フリーズトラップ・・・唸れチェインソードっ!!」 「うおりゃー」

波に乗った四人を止められるものがあるわけでもなくエリア2に突入してからはあっと言う間に進んで行った。 「・・・あっちで倒れているのがYN-0117か?」 ゼブリナの指さす方向に明るいボディカラーのレイキャシールが倒れていた。 「エルノアさん?」 「なんだ。エオ、知り合いなのか?」 エオはジムの言葉に頷くとあたりを見回した。 「ここの水さえ越えられれば渡せるのに・・・。あの扉から行けそうですね」 奥に扉が見える。 少々遠回りだがエルノアの倒れている場所まで行けるはずだ。 「だったらわたしに良い方法があるよ」 そう言うとルーフは青い杖のダゴンを手にし詠唱に入った。 短い詠唱が終わると向こう岸まで続く氷ができていた。 「はい、氷の道のできあがりぃ」 「何処でそんな技を覚えたんだ?」 「フェイドが教えてくれたの」 「さて・・・さくっと渡しますか。ってこれどうやれば良いんだ?」 ゼブリナはエネルギーパックを手にしながら三人の顔を見た。 「ジムは?」 「細かい作業は苦手だ」 「ルーフは?」 「機械はあまり・・・」 「・・・わたしですか?」 無言で頷く三人に仕方なくエオはパックを受け取り氷の上に足をおいた。 「・・・」 ゆっくりと渡りきるとエルノアと端末をリンクした。 ステータスは強制スリープモードになっている。 『コード入力可能』 覚えのある言葉が一つだけあった。 「YN-0117・・・」 慎重にホロキーボードを操作しエンターを叩いた。 「はい、エルノアですぅ。あれ動かない?」 「エネルギーパックを持って来ました。背中のスロットで大丈夫ですよね」 こくこくとエルノアは首を縦に振った。 スロットカバーを開きパックの向きを確認すると静かに挿入した。

端末のステータスがスリープモードからノーマルモードに移行するとエオは端末を切り離した。 「あれ、エオさん」 落ち着いてエオを見ながら言った。 「こんにちは」 「危うく予備エネルギーまで使い切るところでしたぁ。・・・この人達は?」 エオが一歩下がるとゼブリナが二歩前に出て話す。

「あー、俺が依頼を請け負ったんだ。名前はゼブリナ。それからルーフにジム」 名前を言われると軽く頭を下げる二人。 「どうもありがとうございましたぁ」 エルノアは深くお辞儀した。 「まだお仕事の途中なのでわたしはこれで」 何処か危なっかしい足取りでエルノアは駆けて行った。 「大丈夫なのか、彼女」 「たぶん」 パイオニア2に戻りギルドで受け取った報酬は山分けすることになった。 「微妙な依頼だったなぁ」

ショッピングエリア前の広場でフェンスに寄りかかりながら空を仰ぐゼブリナ。 その横にはエオ、ルーフ、ジムの三人がいた。 「確かにあの雰囲気はゼブリナが嫌いそうだよ」 何故かギルドにいた軍人たちを思い出しながらルーフは言った。 「ルーフは大丈夫・・・か。いろいろあったもんな」 「うん、いろいろあったね」 「とりあえず今日はここで解散にするか、お疲れさん」 「お疲れさまでした」 「うぃ」 「それじゃ、また明日ー」 ・ ・ ・ ・ 端末にあるメセタを確かめながらエオはため息をついた。 パイオニア1に預けておいた分はロストしている。 このパイオニア2で稼がないといけないわけだがいまいち稼ぎが悪い。 自分だけなら別に問題ないがつい癖でフェイドの分までいれてしまっていた。 そのことに気が付くとおかしくなり少し笑ってしまった。 「エオ?」 振り返ると小柄なニューマンが一人立っていた。 「こんばんは、ディスさん」 「良かった、名前を覚えていたんだな」 「そう忘れはしませんよ。・・・今日はどうしたんですか?」 「ちょっとパーツの調達だ。AI用のパーツがこの通り」 端末のアイテムリストにはずらっとパーツの名前が並んでいる。 「さすがはディスだ。見る目が違う」 後ろから現れた人を見るとディスは驚いて端末を落としそうになった。 「ふぇ、フェイド・・・ブレイム」 「エオも一緒かい」 「ええ・・・二人とも知り合いなんですか?」 「コーラルにいたころからのね」 「茶でも飲みながら話そうか」 ディスに招かれるまま向かった先はディスの店だった。 入る時に看板の表示を引っ繰り返しCLOSEDにした。 「相変わらずの状態だね。懐かしいよ」 様々なパーツや工具の置いてある部屋を見て言った。

「フェイドこそ変わっていないようだな。それにしても良くあの爆発から生き延びたものだ」 「それは僕にも理由がわからない」 「そうだろうな。神の気まぐれなんだから」 「僕は神の存在を信じないよ・・・だからわからない、か」 「そうだ」 笑いながらディスは言った。 「ディスが冗談を言うなんて珍しい」 「冗談ではない。理由はともかく生きていて良かった」 「突然、姿を消した人間の存在を気にしてくれるとはね・・・」 何処か投げやりな口調のフェイドに机を叩いてディスは叫んだ。 「オマエはわたしの仲間だ。仲間の心配をしない奴が何処にいるっ!?」

「そこまで言ってくれると嬉しいよ。そして今まで連絡をしなかったことを謝りたい」 自分の入る間が無いと思いながらエオは二人のやりとりを見ていた。

フェイドはディスのことを一つも話してくれなかったがよほど仲が良かったのだろう。 でも何故かフェイドはディスの前から姿を消した。

「何処へ行っても目立つことをする。パイオニア1のラボに所属しているのもわかったよ。わたしもパイオニア2に乗ってオマエを探そうと思った。その矢先に例の爆発だ・・・二度とあえないと思ったよ。でも・・・」 そう話ながらディスはエオの目を見た。

「エオと会った時にもしかしたら、と希望が見えた・・・こんな形で再会するとは思わなかった」

「考えが違った、反発するのは目に見えたから僕から消えたのに・・・無駄だったようだね」

自分をあざ笑うように話すフェイドにかける言葉がエオには見つからなかった。 一緒にいても仕方が無い。

この場に自分の居場所は無いのだから、そう思いゆっくりと立ち上がろうとするエオをフェイドが引き留めた。 「エオにも話しておきたいんだ」 静かに座り直し二人の顔を見た。

はじめてディスと出会った時にフェイドと似ていると感じたのは過去に一緒にいたからかと納得した。 「二人はどういう関係だったんですか?」 「AIの研究仲間だったんだよ」 「でもどうしてフェイドはいなくなったんですか?」 「AIで意見が割れたんだ」 「意見?」

「フェイドはAIをより人間の脳に近いものにしたかった。わたしはアンドロイドのAIはアンドロイドらしい・・・人の感情を論理的にとらえ処理するものにすべきだと考えていたんだ」

「ほかの連中とも意見が合わないと思って僕がでていった。でもそのことは間違ったことだったわけだ」

「そこまで自分を責めることはない。結果的にわたしもフェイドもこうして会うことができた。それぞれの道を歩んでこれたしフェイドが正しいと思って行動したのだから誤りではないよ」 感情的な話し方。 今までこんなフェイドは見たことが無い。 ディスさんはわたしの知らないフェイドを知っている。 エオは微かな嫉妬を覚えた。 「フェイド・・・?」

「・・・ディスがそう考えているならそれでいい。すまない、感情的になり過ぎた」 「ここに来てからフェイド・・・変ですよ」

「嬉しいのと悲しいのといろいろ混じっていたのかもしれない。ちょっと外に出て良いかな」 「わたしは構わない。コーヒーでもいれて待ってるよ」 恐らく煙草を吸いに出たのだろう。 エオもディスの後を追い台所へ向かった。 「わたしも手伝います」 「機械任せだから待つだけだ」 「昔のフェイドはどんな人だったんですか?」

「そうだな・・・あまり話さない。感情をあまり表さない。無愛想な人間だった」 「ラボにいた時は良く話してくれましたし無愛想ではなかったですよ」 パネルに寄かかりディスは低い天井を仰いだ。 特殊な金属が無機的だがなぜかディスには似合っている。

「一番最初の印象がさっき言った通りだ。時間が経つにつれまわりの空気に馴染んだのか話すようになったよ。それでもいくらか人間と距離を置いていた、そんな気がする」 最後に軽いため息をついた。 「それが今日会ったらこれなんだから人間は変わるものだ」 「でも・・・まだ辛いことがあっても話してくれません」

「そんなこと話すだけ相手を不安にするだけだ。フェイドはそう考えて溜め込む人間なんだ。その証拠が・・・」 「煙草ですか」

「そうだろう。別に話しを聞かなくても側にいるだけで支えになることもある」 「・・・」 カップにコーヒーを注ぐと白い湯気が香りと一緒に広がった。 「あ、フェイドを呼んで来ます」 「ああ」 しばらくしてエオがフェイドを連れて戻って来た。 「エオの分もいれてくれないか?」 自分の分をエオに渡してフェイドは言った。 「エオも飲むのか?」 驚いた顔をしてディスは尋ねた。 「一応、ブラックでも飲めます」 「味覚ではなくて飲んだり食べたりできるのか、ということだ」 「あ、飲めます」

そんなアンドロイドなんて見たこと無いと驚きとアンドロイドにそんな機能はいらないだろうと軽蔑を含むような目でディスはフェイドを見た。 「そんな目で僕を見ないでくれよ。AI以外はほかの人間が作ったんだから」

「フェイドはAI専門でほかはダメだからそうでないと作れないのは当たり前か」 顔は笑っているが目は少し冷たい。 「あはは、酷いこというなぁ」 笑いながらフェイドはディスの言葉を受け流した。 「アンドロイドが何か食べたり飲んだりするのは変ですか?」 エオに尋ねられてからディスは先程、言ったことを後悔した。

「エネルギーのことを考えれば人間の食事形式は無駄が多い。あまり賛成できる機能ではない」

「あくまでおまけのようなものです。基本的にはクレードルで補給してますから・・・」 「一緒に食事を取ることで精神的に変化もあるし悪いとは思わないよ」 落ち込むエオにフォローするようにフェイドは言った。

「機械の完成型は人間、と口癖のように言っていたな。その形がエオなのか?」 できたコーヒーをエオに差し出しながらディスは言った。 そのカップを受け取るとエオはディスの次の言葉を待った。 「そうなる。僕、いや僕らの生きた証だ」 ディスは少し唸りながらエオを見た。

感情表現もよくできているし無機的な瞳を除けば人間と見間違えてもおかしくない。 考えて見れば最初は人間と自分も間違えていた。

アンドロイドである、それだけで食事をしてはいけないなどと決めて良いのだろうか。 アンドロイドだとわかるまでは普通に接していた。 なるほど、これが差別ということなのかとディスは理解した。 「あまりわたしは実感が無いですけど・・・」 「実感できるのは何十年も先だろう」 「一寸先は闇、誰も先のことはわからないさ」 「エオ、すまない」 エオは何か謝られるようなことはされていないので驚いた。 「ちょっと冷たく当たっていた。嫉妬かもしれない」 「そんな・・・謝らないでください。それに謝ってばかりですよ、二人とも」 戸惑いながら言ったエオの一言にディスとフェイドは顔を見合わせた。 確かにさっきから謝ってばかりだ。 「細かいことはさらりと流そう」 「それで良いなら僕は構わないよ」 もう一度二人は顔を見てそして笑った。

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