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Fine Lagusaz

黒猫少年とメイドさん(1)

あまり、この少年は多くを語りたがらない。本当は思うがあるのだと彼女は思う。それをいつか聞けたらいいな、とも。いつになるかはわからないが、気長に待ち続けるのも悪くない。

「ねえ」 「何でしょうか」 「ぼくたち、どういう風に見えるかな?」 「きっと、姉弟ですね」 「そっかぁ」

言外に恋人であることへの期待を彼女は感じた。いつかはなれたらいいですね、と思ったことは胸に秘めておく。

「今日はどうしましょうか」
「カフェ、いきたい」

と少年。

「そうですか。では、おいしいケーキがあるところに案内します♪」

喫茶店は時間のせいか、席はまばらだった。友人と話に花を咲かせるもの、ガッコの課題をこなすもの、仕事か何かの資料を作っているものたちがいる。

「どの席にしますか?」 「すみっこ」 「わかりました」 彼女は微笑んで隅の席を探して、座る。

席で待っているとウェイターがやってきて、温かいお茶とメニューを持ってきた。

二人の前にそっとおいて、

「注文がお決まりのころに伺います」

と会釈して去っていった。

彼女はメニューを開いて少年の前においた。少年はメニューを顔の近くにまで待って食い入るように眺めている。彼女はそれを微笑みながら見つめていた。

何に決めるのだろうか、と少年のことを考えていると、

「あの、これ」

とメニューを彼女のほうに差し出してきた。ありがとう、とにっこり笑ってそれを受け取った。

彼女は自分の注文を決めると店員を呼んだ。

少年はケーキと紅茶のセット、彼女はホットココアひとつを頼んだ。

「ココア好きなの?」 「ええ、好きですよ。飲むと、ほっとするというか」 「ほっとする……」

彼女の言葉を反芻するように少年はいった。

「落ち着くものは大事なんですよ」

と彼女。

「一緒にいるじゃ、ダメ?」 「ダメじゃないですよ。でも、その人がいないとダメな人になっちゃいますからね」

微笑んだまま彼女は言葉をつづける。

「難しいことはおいて、ホットココアは飲むと落ち着くんですよ」

しばらくあいて、頼んだものがやってきた。

少年が頼んだのはモンブランのケーキだ。マロンクリームの上に大きな栗が乗っている。

おいしそうですね、と彼女が言うと黒猫少年は嬉しそうにうなずいた。それを見て、彼女は再び微笑んだ。

平和な時間だと彼女は思う。

この少年といるときは時間の流れがいつもと違ってゆっくりとしている。それは退屈からくるものではなく、安心からくるものだ。

わかっていて先のセリフをいっていたのだから、自分はずるい人間だと彼女は内心で苦笑した。

いつもよりココアが苦く感じられた。

そんな彼女の見えない思考を少年は感じ取っていた。どうすればいいのだろう、と少年は考える。

ややあってから、ケーキをフォークで小さくすくって、一呼吸。

そして、

「はい、あーん」

彼女はその行動に驚いた顔をし、少し頬を赤らめながら、

「あーん」

と口をあけた。

少年は傷つけないようゆっくりとフォークを口の中に運ぶと、彼女は口を閉じた。静かにフォークを抜くと、彼女は静かに咀嚼してゆっくりと嚥下した。その光景に少年は妙な胸の高鳴りを覚えた。

「おいしいですね、マロンケーキ」

彼女の言葉に少年ははっとして我にかえった。

「頬にクリームがついてますよ」 「え」

少年は目をぱちくりとしてから自分のふきんで頬を拭おうとしたが、それよりもはやく、彼女の手が動き、クリームを指で掬い取った。

そして、そのまま、それを口に運んだ。

「やっぱり、おいしいですね」

少年の顔は真っ赤になった。

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