Feathery Instrument

Fine Lagusaz

エヴァ ―もう一つの可能性―

・・・。 廃墟の街。 第三新東京市だった場所。 今まで暮らしてきたところ。 そして今は何もない。 僕はそれでもここにいる。

今まで一緒にいたトウジもケンスケも委員長もみんな疎開した。 アスカは・・・病院にいる。 ずっと眠っている。 ただ、僕は横にいるしかできないんだ。 何もできない。 起こすことも出来ない。 ただ、見ていることしかできなかった。

僕が・・・傷つけたのに・・・。 償いすらできない。

崩れた電柱から変圧器が落ちる。 水面に波紋が広がっていく。

「みんな・・・いなくなってしまった」 その呟きを聞く者は誰もいなかった。

ネルフ本部にいこう。 ここのところそんな行く当てもなくただ彷徨うことが多くなった。 この日射しに焼かれるより地下にいた方が良い。

発令所にいってみた。 伊吹さん達が話をしていた。 難しくてわからない。 でも、何かがこれから起こるのかも知れない。 その時、僕はどうすんだろう。 何も・・・できないのかな。

どこか不安な気持ちになる。 それは気のせいなんだ。 きっと。 部屋に戻ってもすることもなくベッドに横たわる。 目を閉じると今までのことがどんどん思い出されてくる。

ここに来てからいろいろなことがあったんだ。 本当に泡喰ってばっかりだったけど楽しいこともあったんだ。 でも・・・もらってばっかりだったんだよな。 僕は・・・。

強く目を閉じた。 ヘッドフォンから聞こえてくる音楽がすうっと遠のいて行く。 夢の中で大きな月を背にした少女の姿を見た。 その赤い瞳はどこか悲しそうにしていた。

大きい警報の音で目が覚めた。 敵襲? 使徒はもういないはずなのに・・・。 どうして?

しばらくすると出撃命令が下った。

「・・・出撃、か」

爆発音が轟く。 本部内で爆発。 ネルフの権限は失われ戦略自衛隊が攻めてきた。 これが現実。

プラグスーツが目の前にある。 僕に出来ることは・・・? このまま、じっとしていること? 誰かが助けに来るのをまつこと? それとも・・・また逃げるのか? イヤだ。 そんなのイヤだ。 もう、逃げない。 失いたくない。 もう逃げない。 僕は戦う。

もしかするとまた何もなくなっているかも知れない。 僕はここにいたい。 またみんなと騒ぎたい。 自分の居場所を守りたい。 ただ、それだけ。

プラグスーツに着替える。 インターフェイスヘッドセットを頭に着ける。

突然、扉が開いた。 見慣れない複数の戦闘服、まさか!?

「サード発見、これより射殺する」

男が無線でそう告げる。 銃をこちらに向けて言った。

「悪く思うなよ、坊主」 「っ」

殺される。 引き金に指をかける。 もう、ダメだ。

横から別の銃声がする。 三人のうち二人が血を吹きながら倒れた。 走ってきた人影に気づいた残りの一人が応戦しようとした。 その人影は応戦しようとした戦自隊員を壁に押しつけ顎に銃口を突きつけた。

「悪く思わないでね」

そういって頭を吹き飛ばす人影。 呆然とその光景をみていた。 その人影は見覚えのあるものだった。 戦自隊員の無線機で何か聴いた後にこちらを見た。

「ミサト・・・さん」 「行くわよ、初号機のところへ」 「・・・はいっ」

駐車場でミサトさんの車に乗って初号機に向けて走る。 エヴァの試作品が窓から見えた。 背骨と零号機と同じ頭だけ。

何がこれから起こるのか、何をこれからすべきなのかミサトさんは話してくれた。

「いい?シンジ君、エヴァシリーズはすべて消滅させるのよ。生き残る手段はそれしかないわ」 「わかってます。絶対に消滅させます」

無線機からノイズ混じりに音声が聞こえてくる。

「赤い奴が動き出しましたっ」 「アスカっ?!」

思わず叫ぶ。良かった、本当に・・・。 上ではアスカが戦っている、はやくいかなきゃ。 通常の兵器ではエヴァに勝てない。 それは良い。 だけど電源ケーブルを壊されたらまずい。 はやくいかなきゃ。

「ミサトさん、飛ばして」 「わかってるって」

車から降りる。 無線機で発令所と連絡を取る。 ルート20から初号機のケージにいける。 アスカも戦っている。 ケーブルがやられたんだ、急がなきゃ。

非常用エレベータの前に辿り着く。 突然、銃声が響く。 急いで目の前の扉に駆け込む。 壁に寄り掛かるミサトさん。

「これで、時間、稼げるわね」

そう呟くように言ったミサトさんは息が荒かった。

「だ、大丈夫ですか?」

まさか、撃たれているんじゃ・・・。

「大丈夫。大したこと・・・無いわ」

そういってスイッチを叩くように押す。

「電源は生きてる・・・。行けるわね」 「・・・」

苦しそうに僕の目の前に立つ。 手は血で汚れている。 間違いなく撃たれてる。

「いい、シンジ君。これから先はもうあなた一人よ。すべて一人で決めなさい。誰の助けもなく」 「・・・わかってます」 「強く・・・なったわね。ケリをつけたら・・・必ず戻ってくるのよ」

十字架のペンダントを渡してきた。 そのペンダントを受け取りながらミサトさんの顔を見た。

「約束よ」 「わかってますよ。必ず戻ってきます」 「いってらっしゃい」

突然口が塞がれる。

「大人のキスよ。・・・帰ってきたら、続きをしましょう」

後ろにある扉が突然開き突き飛ばされた。

「ミサトさんっ!?」

その言葉を言えないうちに扉が閉まる。 数秒後、爆発音と振動が伝わってきた。

「ミサト・・・さん・・・」

涙が頬を伝う。 拭おうとすると手がミサトさんの血で汚れていた。 十字架のペンダントに涙が落ちる。

「絶対・・・約束は守りますから」

エレベータが止まる。 扉が開きケージへ走る。

「・・・どうすれば・・・良いんだ・・・」

ベークライトで固められている。 壊れた鉄製の手すりを握り思い切り振り下ろす。

「時間がないんだ、壊れろ、壊れろよっ」

初号機の目に光が点る。 慌てて後ろに下がる。 次の瞬間、ベークライトが粉々になった。 初号機が動き出した。

「・・・ありがとう、母さん」

エントリープラグに乗り込む。

「エヴァ初号機、起動」

レバーを跳ね上げ高機動モードに切り替え。 警報の音がプラグ内に響いた。 初号機内部に高エネルギー反応?

プラグ内が白くなるほどの光。 爆発音と共に本部の上の建物が吹き飛ぶのがわかる。 十字の爆発光は羽に変わった。 初号機を中心に風が嵐のように吹いている。

アスカ、アスカは?

量産機と戦っていた。

「遅いのよ、バカシンジ」 「アスカ、大丈夫なんだね」 「はやくしてよ。バッテリー持たないんだから」 「わかってるよ」

そう言ってレバーをひいた。 最後の一体をプログナイフで切り裂いた。 首らしきあたりに思いっきり突き刺す。 青い体液が吹き出る。 動きが止まった。

「ぎゃ~~っ」

通信からアスカの絶叫がきこえてくる。 弐号機の頭部をロンギヌスの槍らしきものが貫いている。 A.T.フィールドを貫いていた。

「なんで・・・。あ、アスカはやく脱出してくれ・・・」

全部、倒したはずだろ。 なんでだよ。

「エヴァシリーズ、再起動」 「嘘・・・だろ」

伊吹さんの通信に凍り付く。 S2機関を搭載したエヴァは無限に動き続ける。 でも・・・使徒と変わらない。 なら倒せる。

「だったらS2機関ごと壊すしか・・・」

どくんっ 心臓の鼓動に似た音がプラグ内に響いた。

「落ち着け・・・落ち着け・・・」

今、暴走したらどうにもならなくなる。

弐号機からエントリープラグが射出される。 初号機で受け止めて地面に降ろす。

上空を舞う量産機を見た。 不気味な鳴き声をあげまるで怪鳥のようだった。

「エヴァ初号機?!まさに悪魔か?」

草むらにいる戦時隊員の一人が叫ぶ。

「大気圏外より高速接近中の飛行物体っ!」

遠くに赤く光る物体が見える。 ロンギヌスの・・・槍? 初号機の目の前に止まった。 使えってことなのか・・・? しっかりと槍を握る。 槍の形が変化して両方が二股のようになった。

「次は・・・こっちの番だよ」

レバーを力強く引く。 今までに無い速度がでる。 シートに叩きつけられそうになった。

「っ」

槍を量産機のコアに突き刺す。 いくらS2機関搭載とは言ってもコアを刺せば倒せる。 そして・・・今使っているのはロンギヌスの槍、神さえ殺せる槍。

「次っ」

後ろから飛びかかってくる量産機の槍をはじき飛ばしながら真上から振り下ろして真っ二つにする。 青い体液が初号機にかかる。

残り7。 一気に飛び上がり急降下する。 そのまま、量産機の頭に槍を突き立てる。 槍をひねり引き抜きコアに突き刺す。 初号機の圧倒的な力の前では量産機は無力だった。

・・・・・・。 ・・・。

「はあはあ・・・これで終わりだあっ!」

量産機の胸部を槍が貫通する。 量産機の背中から槍の先が見える。

「ミサトさん・・・約束は・・・果たしましたよ」

太陽の見える空を見上げ呟いた。 突然、プラグ内が暗くなった。

蒼い光。

「どこだ・・・ここ」

暖かい・・・。 懐かしい感じがする。

後ろに人の気配を感じで振り返る。

「・・・誰?」

見覚えがあるような、無いような・・・?。 でも、懐かしい顔。

「母さん・・・?」

ただ、その人は僕を見て微笑んでいるだけだった。 僕には気づいてる。

「わがままでごめんなさい」 「え、どういうこと」

頭の中にフラッシュのようにいろいろな記憶がでてくる。 ベビーカーに乗っているのは・・・僕。 横にいる背の高い人は副指令・・・。 母さんの・・・記憶、なのか。

「人はこの星でしか生きられません。でもエヴァは無限に生きていられます。その中に宿る、人の心と共に。たとえ50億年たって、この地球も、月も・・・太陽さえなくなっても残りますわ。たった一人でも生きて行けたら・・・とても寂しいけど、生きていけるなら」 「人が生きた証は、永遠に残るか」

それが「わがまま」。 そういうことなの、母さん。

「でも・・・今は一人じゃない」

そう言った母さんの後ろにいるのは・・・父さんだった。

「悪かったな。シンジ」 「父さん・・・」

しばらくの沈黙。

「さよなら、父さん、母さん」

それが、最後に僕が二人に言った言葉だった。 プラグに衝撃が来る。 強制射出・・・。 着地の衝撃に備えてシートにしっかりと捕まる。 逆噴射の音の後に鈍い衝撃。

とても静かだった。 まるで、何もなかったように。

青い非常灯の光に染まったプラグ内に白い光が射す。 眩しさに目を細めながら外を見る。 ハッチを開けてくれたのはアスカだった。 片目を隠すように包帯をしている。

「あ、ありがとう」 「バカシンジ」 「・・・みんなは?」 「わからない・・・」 「そうだよね」

ミサトさんも・・・ 父さんも・・・ もう、いない。 それは間違いないと思う。

しばらくしてから街の復興が始まった。 この事件でネルフの職員の半数が死亡した。 その死亡者リストには僕が世話になった人達の名前、三つもあった。 ネルフ本部内すべてを探したけど綾波は見つからなかった。 初号機は太陽系の外へゆっくりと進んでいるらしい。

疎開していた人達が戻り始めてきた。 第一便にはトウジやケンスケ達がいた。 また、始まる。 今度は自分たちの手で作っていきたい。 あの日の前までのように与えられてきたんじゃない。 今度は・・・自分の手で作るんだ。 僕の居場所を。

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