Feathery Instrument

Fine Lagusaz

第八章「変わり行く世界」

「今のうちに・・・移動してしまおう・・・」 「何処へいくのよ?」 「俺の・・・家だ。いざないの密林にある・・・」

星明かりだけが当たりを照らす。 あたりに人の気配は無い。

その言葉に反論する理由も無くまた暗闇の中、死者の魂が漂う森に足を踏み入れるのだった。 追っ手に遭遇することも無く森を歩き続けた。 時間感覚が無くなりかけたところで木々の無い開けた場所に出た。 上を見上げるとかすかに霧がかかっていたが夜空が見えた。

「ここだ・・・」

指さした先には丸太で組まれた家があった。 小さな畑と井戸、そして風車(風が無いので回っていない)も見える。

「すぐに見つかりそうだけど・・・」 「それは・・・ない・・・」

レイルの問いに軽く答えた。

「・・・ここの彷徨う魂に・・・生者は迷い・・・消えて行く・・・。誰もたどり着けは・・・しない」

案内されるまま家の中に入る。 いたって普通の内装。 本棚には古そうな書物が並んでいる。 背表紙のタイトルを読もうとしたがウィルには読めなかった。

「メルニクス語・・・?」 「レイルは・・・晶霊術を使うから・・・わかるのか」 「簡単なものはわかるよ」 「すごいね、レイルは」 「その本を読むタナトスの方がすごいよ」 「あついな・・・」 「はぅあっ!!」「っ!」 「二人とも・・・どうした・・・?窓を開けようか・・・」

二人が「あつい」のか空気が「あつい」と感じたのかはよくわからない。

「久しぶりにヒトと話した・・・」

レイルが首を捻る。

「なんでもない・・・。しばらくは休めるだろう・・・」

隣の部屋に消えるとがさがさと何かやっている。 数分後・・・

「・・・これで・・・よし・・・」 「お」

部屋を覗くと簡易ベッドが三つ。

「部屋に余裕が・・・無い・・・」 「寝れるだけいいよ」 「ありがと、タナトス」

先程の疲れもありばったり倒れる。 混乱気味の思考で今まであったことを思い起こす。 泥沼に足を捕らわれているような状態でレイルは考えるのを止めた。

右からレイル、タナトス、ウィルで仰向けだったりうつ伏せだったり横だったり方向はばらばらだ。 寝ようにも寝られずごろごろしていたレイルだがいつの間にか寝てしまう。

「・・・」

目が覚めた。 自然にというかなんというか。 窓から差し込む光は急角度で正午近くらしい。

「あ、おはよ、レイル」

扉をあけてウィルが顔を覗かせている。 腕には畑でとってきたと思われる野菜が抱えられていた。

「その野菜は?」 「タナトスの畑でとれた野菜。外で作業しているよ」

服を整えて外に出るとタナトスが葉についた虫をとっていた。

「おはよう・・・レイル」

「おはよう。夜の時には気が付かなかったけどいろんな種類の野菜があるんだね」 「・・・ああ、種は・・・モルルのものを・・・使っている」 「そうなんだ」

今まであったタナトスという人間のイメージとのギャップに少し驚きながら話をしていた。 こんな状態でも不思議と落ち着いている三人だった。

「昨晩の騒ぎで行方不明者四人。一般人の被害者一人、一体貴様らは何をしていたんだっ!!」

–インフェリア城、総合作戦室 ロエンの怒号が響いていた。 基本的には各隊の指示はその隊長が行うことになっている。

グランドフォール事件移行、ロエンによる権限が強まりすべての隊を管轄していた。 そして昨晩のこととは宿屋襲撃のことである。

「捜索隊は我々が結成する。お前らは待機だ」

その命令を黙って聞く第12監視部隊隊長、ウィルバー。

「了解・・・せいぜい頑張ってください。ロエン隊長殿」 「近いうちに部隊の再編成を行う予定だ」 「それまで王国が持てば、だがな」 「何っ!?」 「なんでも無いですよ。ふはははっ」

皮肉を込めたような笑いをし部屋をでた。 一人になった部屋で呟くロエン。

「一部で反乱・・・か」

嫌な予感がしていた。 それから数十分後、捜索隊が編成された。

歩兵を中心とした王都周辺の隊といざないの密林を捜索するための光晶霊術士と歩兵の混成部隊。 各部隊50人で組まれ王都インフェリアをでたのだった。 密林探索にはロエンの姿も見えた。 城には試験型の晶霊兵器を所持した兵士が巡回を命じられていた。

そんなことが起こっていることが分かるはずも無く取れたての野菜をふんだんに使った遅い昼食をとっているレイルたちであった。

–セレスティア、闇の洞窟最下層 深い暗闇の中怯える声が響いていた。

「こ、ここ何処なんだよっ!?」 「なこと俺だってわ、わからねぇよ」 「お、おい、それよりあいつはどうしたんだ」 「え、あぁっ」

三人で背中を合わせながらわめいていた。 ここは何処なのか。 何が起こっているのか。 答えの出ない問を繰り返す。

「ぎゃ」

短い叫び。

「あいつの声か!?」

微かに浮かぶ背中を追いかけ声をした方へ走り寄る。 鼻をつく生臭い鉄の匂い。 何かが這ってこちらによってくる。

「お、おい・・・っ!?」

よく見ると彼には下半身が存在しない。 腹のあるべきところから下が無く腸らしきものを引きずっている。

「痛い・・・助け・・・テ」

死ねない・・・。

「ま、まさかあのガキの言っていたことって・・・」 「ら・・・楽になりたい・・・殺してくれ・・・」

躊躇いとあの『ガキ』の言葉が頭によぎる。 それを振り払うように剣を抜き上げる。

「お、おい。どうするつもりなんだよっ!!」 「殺すしか・・・ないだろっ?!」

力よく振り下ろす。 当たる瞬間目を閉じる。 見たくなかった、同僚の死ぬ様を。 自分が同僚を殺す瞬間を。 鉄の匂いがさらに強く広がる。 足に何かが絡みつく。 あわてて目を開けると・・・。 剣で鋭く切られた何かがこちらを見上げている。

「まさ・・・か」

『死は・・・藻掻き苦しみ生きることで・・・償えっ!』

「うわ、うわ~~~~~~~~~~~~っ!!」

男の恐怖と悲しみの悲鳴が洞窟に響いていた。

再び視点を戻しインフェリア、いざないの密林。

「へぇ、そうなんだ・・・」 「はるか古代の・・・本だ・・・事実しか・・・書かれていない・・・」

本棚に寄りかかりながらレイルとタナトスが本をつついている。 少しはなれたところで小説を読んでいるウィル。 先程まで晴れていたが天候が変わり雨になっている。 雨音を聞きながら時を過ぎて行くのを感じていた。

文字どおり、晴耕雨読の生活をタナトスは送っているのかな、そんなことを思いながら本を読むレイルだった。

モンスターと遭遇しても楽々と葬り捜索を続けるロエン率いるアルファ隊。

行動を起こそうとし始めたウィルバー。

互いに干渉しつづける歯車の世界。 今、すべてが変わり始めようとしていた・・・。

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