Feathery Instrument

Fine Lagusaz

「これだけの闇の晶霊が集まればインフェリアの息の根を確実に止められる」 「そしてそれを扱う人間も道具も揃いつつある」 「もう少しだ・・・もう少しで世界は我々のものになる」 男はニヤリと口元だけで笑った。

第二十二章「そら」

「兄さん、調子はどう?」 「全快と言ったところだ」 レイルの問いにケイは伸びをしながら答えた。 そして頭を左右に振り言った。 「フィールやお前にかなり心配させたな、すまん」 大げさにケイはレイルに頭を下げた。 そんな兄にレイルは少し戸惑ったが本音を言った。 「あまり気にしてないよ」 「ほんと自分の身体すら守れない奴にいったい何が守れるのやら・・・」 「無茶はしないでね」 「もうしねぇよ」 ケイは苦笑しながら言った。 どうやら先のことで身を持って知ったらしかった。 「・・・おはよう」 シャギーの髪の毛に寝癖という大惨事なタナトス。 「おはよう、タナトス」 「よぅ、タナトス。・・・頭、大変な事になってるな」 「ああ、いつものことだ・・・。完治したようだな・・・」 「この通りだ。心配してくれてありがと」 そう言えば昨日も同じようなやりとりがあったなとケイは思った。 だが心配してくれる仲間に純粋に感謝した。 そんなケイの反応を不思議そうな顔でタナトスは見た。 「・・・どうした、なんか変なものでも・・・食べたか?」 「まさか」 「なら・・・いいが・・・」 「どうしたんだ?」 「まぁ、いろいろあるんだよ」 いまいち状況の掴めていないケイにレイルが言う。 「ま、そういうことにしておくか」 ケイは笑った。

レイルは廊下に出るとウィルを見つけた。 「おはようレイル」 「おはよう」 「これからどうなのかしらね」 「さぁ・・・でも近い内に大きな戦闘になると思う」 「フィールさんも襲われたしその襲ったのが・・・」

「ウィルバーの部下だったし体内の晶霊に細工してあった。まさに人間兵器・・・」 「自爆したって話だけど実際に戦うときは厄介そうね」 「うん・・・」 そのまま二人は話をしながら艦橋へ向かった。 「今日の午前中に無線機の改造をやる」 「改造って言ってまた壊すのが関の山だよ、兄さん」 目玉焼きを口に運びながらレイルは言った。

「酷いこと言うなぁ、オマエも。まぁ、今回は大丈夫だろ、セレスティアの技術をいくらか借りるからな」 胸を叩きながらケイは言った。 今回はそれなりの自信があるようだ。 「具体的にどんな改造を?」 ウィルがあまり期待していなさそうな顔で尋ねる。 「通信可能距離を伸ばす」 「ほぅ・・・」 ウィルの代わりに右前のタナトスが反応した。 「奏石も使うの?」 「セイの言う通りだ。もちろん増幅器の類もここのを流用する」 「じゃぁ、午前中はずっと中にいるつもりなんだ」

「ああ、そうなるな。ヴァプラさんや近くの晶霊技師に協力してもらうけどな」 無反応だったフィールがヴァプラと言う名前に反応した。 「そしたら雷晶霊の遺跡へ僕は行こうかな」 「わたしも行くよ」 ウィルの言葉にセイとタナトスが頷く。

「だったら俺はここに残るか。さすがに皆で仲良くヴォルトに会いに行くのもあれだし」 「あの」 「フィール、どうした?」 ケイはフィールの声にいくらか驚きながらフィールの言葉を待つ。 「わたしは・・・ケイさんのお手伝いをします」

「ああ・・・別に俺は構わないけど回復役がいなくなるからレイル達について欲しいな・・・」 「僕らは大丈夫だよ、だからフィールさんは兄さんの事よろしく」 「そか・・・よろしく頼むよ、フィール」 「ええ」

街にケイとフィールの二人を置いてトライデントは港を出た。 場所は雷晶霊の遺跡。 「フィールさんがいないと厳しいような・・・」 ウィルがいくらか不安そうな声を上げる。 「僕だって回復晶霊術は扱えるよ。最近はあまり使っていなかったけどさ」 本当にここのところ使っていなかったな、レイルは苦笑交じりに答えた。 「あれか・・・」 タナトスの視線の先は森に向けられていた。 その中にあるヒトではない誰かの作った建造物が見える。 雷晶霊の遺跡だ。 「少しぼろぼろ過ぎ」 セイの言葉の通り、目の前の遺跡はかなり破損している。 トライデントから降りて近くに寄って傷を確かめる。 「まだ新しい」 セイの言葉を確かめるようにタナトスとレイルも傷をさわり確かめた。 「つい数日前あたりか・・・」 タナトスは雲に覆われた空を睨んだ。 「晶霊の雰囲気が違う、なんかこう震えてる・・・」 「怯えてるの?」 ウィルはレイルに尋ねた。 「そう、そんな感じ」 四人は遺跡の中にゆっくりと入っていった。 外より中はもっと酷かった。

壁面は凄まじい晶霊術のせいか剥がれていてトラップのような装置は完全に破壊されている。 「酷い有様・・・だな・・・」 「とりあえず先へ行きましょ」 「そうだね」 足元に気をつけながら先へ進んでゆく。 部屋から抜け廊下を通っても『破壊された』ということだけは変わらない。 ウィルバー達が来たのだろう。 同じように奏石を狙っているのか? レイルは考えるだけ何が何だかわからなくなってきた。 「この奥にヴォルトはいると思う」 セイの声にレイルは顔を上げ目の前の扉を見た。 剣で傷つけられたのか線のようないくつも入っていた。 まるで何かの獣の牙で傷つけたような風にも見える。 タナトスがゆっくりと扉を押すと扉は音も立てず開き部屋の奥を見せた。 「・・・なんだ、これ」 あまりの酷さに思わずレイルは声を上げた。 飾りであったと思われる柱は一本残らず倒され床に砕け散っている。 床は所々黒い穴がぽっかりと口をあけていた。 恐らく落ちたらひとたまりも無いだろう。 「ここで何か強力な力が解放されたんだ・・・」 「奏石を使ったのかそれとも・・・それは・・・これだけだと・・・わからない」 「この傷の形から見てこれは剣に晶霊を収束させたものと思う」 セイは淡々と分析していく。 レイルもそれに見習って何が起こったか探る。 やはりウィルバーだろう。 あの時は惨敗したが次は負けはしない。 レイルは部屋の奥を見た。 何かを召還するような風になっている。 恐らくここのヴォルトが現れるのだろう。 柱の残骸を避けながらその場所へ歩いていく。 「ダレダ」 突然、無機質な声が部屋に響き四人の動きが止まった。 「ヴォルト・・・?」 ウィルが見えない声の主に尋ねた。 「ワ、ワタシハ・・・」 ノイズ混じりの声に合わせて今にも消えそうなヴォルトの姿が現れてきた。 「ジコシュウフクチュウ、ウゴケナイ」 「大剣を持った男にやられたの?」 今度はレイルが尋ねた。 「ソ、ノトオリ・・・」 先よりさらにノイズが酷くなり何を言っているのか聞き取れなくなってきた。 「ヴォルト、待ってくれっ」 レイルが叫ぶのとヴォルトが消滅するのは同時だった。 床に何かが落ちていた。 「・・・雷奏石、なのか」 レイルは手に取り手のひらで転がした。 「トライデントに戻りましょう」 ウィルの言葉に三人は頷き来た道を走り出した。 「この近くにまだいるかもしれない。追いつけるかもしれないっ」 「レイル熱くならないで。今はケイたちと合流するのが先よ」 遺跡の外に出るとそのままトライデントに乗り込みエンジンをかける。 「・・・嫌な・・・空気だ・・・」 タナトスはぼそりと呟いた。 もし自分がウィルバーだとしたら何処に行くだろう。 “闇の洞窟”に行くだろう。 タナトスがあの人間たちを送り込んだ場所だ。 今も恐らく醜く形を変え“存在”しているだろう。 ヒトとして少なくとも“存在”していない。 並大抵の力であの洞窟を抜ける事はいや出口の無い洞窟だ。 抜けることは絶対にできない。 ただ自分のやった事は正しかったのか? 確かに復讐を果たすことが出来た。 それで自分の空白を少しだけ満たせた。 でもそれで本当に良かったのか? 過去に死んだ人間はどうやっても生き返らせることは出来ない。 晶霊術を学び誘いの密林で生活するとさらにそのことが突きつけられた。 自分は彼らをどうしたいのだろう。 そのまま放って置くのか、それとも無に還すか。 生と死や過去に縛られている・・・素直にタナトスはそう感じた。 なら・・・どうする・・・? 答えはでないままトライデントは港に着いた。 「タナトス・・・?」 セイに服の裾を引っ張られ慌てて辺りを見回した。 レイルとウィルが不思議そうな顔でこちらを見ていた。 「あ、すまない・・・」 ゆっくりと立ち上がるとセイと一緒に船を降りた。

「よぅ、収穫はあったか?こっちはこの通りだ。セレスティアの技術力は素晴らしいものだ」 レイルは作業台の上に雷奏石を置くとあったことをすべて話した。 その聞いた話をそのままケイは無線機を使いロエンに伝えた。

「そうだったか。こちらも各地でそんな話がある。どうやらあの男はインフェリアとセレスティアの両方で勢力を拡大しているらしいな」 「活動拠点をころころ変えているから掴めないのか?」

「らしいな・・・。もしかするとインフェリアとセレスティアを往復できる船を持っているかもしれない」 「とにかく見つけたところを叩くつもりで行動するよ、またなロエン」 「ああ、気を付けろよ」 沈黙。 「僕らは僕らの出来ることをやるだけだよ」 沈黙を破ったのはレイルだった。 言葉とは裏腹に声は少し弱々しかった。

「ま・・・ほとんど戦えない俺に出来る事と言えばこういう機械いじりだけか」 ケイは雷奏石をクレーメルコンピュータに組み込みながら呟く。

すでに未来をある程度予測できるまではできていたが“ある程度”から抜け出すことが出来ない。 もしかするとこの雷奏石を使えば先にいけるかもしれない。 いや・・・行ってみせるさ。 「ケイさん、お茶が入りましたよ」 「お、ありがと。フィールさん」 フィールから渡されたお茶をゆっくりと飲む。 「あの何をやっているのでしょうか?」 「これ使って戦況予測なんかやってみようかと」 「戦況予測・・・ですか?」 「ああ・・・」 あまり気にしない風にケイは言った。 「わたしの力と似たようなものですか?」 「まぁ、そうかもしれない。ただヒトに負担をかけないための道具だ」 「はぁ・・・そうなのですか?」

そういうことだよとケイは笑いカップを置くとドライバーを握り別の機械をいじりはじめた。 「最終決戦用の兵器でもつくりますかね」 「これは?」 「対消滅晶霊爆弾。闇の晶霊を帯びた輩をターゲットにした代物だな」 「やはり戦うのですか?」

「ほとんど戦えないがゼロじゃない。弟が前にでてるのに兄が後ろで引っ込んでいるわけにはいかないさ」

水奏石を様々な形に変えながらレイルはウィルと模擬戦をしていた。 ウィルの木刀をレイルの水奏石の盾が防ぐ。 「やるわね、レイル」 「そう、簡単、に・・・」 レイルの声には余裕がなかった。 ウィルの手に力が入る。 「くっ」

手から盾が弾き飛ばされ宙に舞いレイルはそのまま後ろに押され腰から落ちた。 ひゅっと木刀をレイルに向けるウィル。 「レイルの負けね」 「まだだよ」 盾から水奏石は剣に姿を変えてレイルの手に戻った。 「なるほど、そういうこともできるのね」 「まぁね」 今度は“刃”がぶつかりあう。 力はウィルの方があるはずだが押しきれない。 「力ついたわね」 「一応、男だからね、つかない困るんだよっ」

レイルの全身の力が水奏石の剣へ一気に収束しウィルの体が後ろに少しずつ下がっていく。 「きゃっ」 次の瞬間、木刀はウィルの手から離れ甲板に乾いた音を立てながら転がった。 「・・・」 レイルは静かに息を吐き出すと木刀を拾いウィルに渡した。 「ありがとう、レイル」 「礼を言うのはこっちだよ」 「あっという間に上達したわねぇ・・・」 「ウィルのおかげだよ」 「晶霊術の方は大丈夫なの?」 「剣よりは晶霊術の方がしっくりくるから」 苦笑いしながらレイルは答えた。 とりあえずこれで接近戦になってもある程度は耐えられるかな。 少なくともすぐにやられることは無い。 「では二回戦と洒落込みますか」 「いくよ、レイル」 「どうぞっ」 再び激しくぶつかり合う音が甲板に響いた。

粗末な作りの木製の的が並んでいた。 複数の光が的を貫き砕いて行く。 銃を構えた少女は小さく息を吐き出すと後ろの少年を見た。 少年は小さく拍手をしていた。 「ぜんぶ中心だった・・・。すごいな、セイは・・・」 「タナトスも」 少し顔を赤らめながらセイはタナトスを褒めた。 「たいしたことは・・・ない」 同じように顔を赤らめた少年は振り返り切り裂かれた的を見た。 手に構えた鎌を光にかざされ鈍い光を放った。 「時間がかかり過ぎだ・・・。動きもまだ大きく隙も多い・・・」 鎌で木を切り倒し的を作りながらタナトスは言った。 「それはセイが助ける。一人で全部は無理だから」 的を立て掛ける少年の背中にそんな言葉が届いた。 「それも・・・そうだな・・・」 「セイも手伝うよ」 二人で的を立て掛けると同時に動き始めた。 的が次々と鮮やかに壊れて行く。

「大型のクレーメルケージを六基・・・」 ヴァプラは背丈の三倍ほどありそうなクレーメルケージを見上げた。 「これをあのインフェリアの船につけるんですかい?」 「後はこのクレーメルエンジンが付けられれば飛べるわ、宇宙を」 そういわれて男は見上げたが天井が見えただけだった。 「うちの自信作だかんな。安心して組み込んでくれ」 「ええ、ここのドッグ借りるわよ」 「存分に使え。うちの宣伝にもなる」 「そうさせてもらうわ」

「トライデントで空を飛ぶ、か」 ヴァプラから聞いたことをすべてレイルたちに話した。 先程、ヴァプラから通信がきた。

それはトライデントに大型のクレーメルケージと大出力のクレーメルエンジンを装着し真空中での飛行すら可能にさせるというものだった。 「それはおもしろそうね」 僕はウィルの言葉に頷いた。 ここにいる人間は空を飛んだ経験が無いはず。 たぶん、みんな飛べるなら飛んでみたいと思うだろう。 「この船はセイたちのものではないけど良いと思う」 セイの言うようにこの船はインフェリア所有の試験艦で僕らの船じゃない。 「トライデントにそんな装備したら研究員共は狂喜乱舞するだろうなぁ」

インフェリアではまだ普及していない技術がインフェリアの最先端の試験艦と融合する。

自分達の作品を汚されたと感じるかもしれないがそれ以上に好奇心が強いだろう。 「今のケイさんのような感じですか」 「かはっ」 確かに今の兄さんのように嬉しそうな顔をするだろう。 いや・・・自分も嬉しそうな顔をしている。 タナトスはただ窓越しに空を見上げていた。 「タナトスはどう思う?」 「ああ・・・俺は別に・・・」 「機動力は確保した方が良いよ」 「それも・・・そうだな・・・」 セイの言葉にやる気なさそうに頷いた。 それから数時間後、トライデントの改造が始まった。 二日後には試験航行できるらしい。

先頭に立ってこの改造を指揮しているのはヴァプラさんと兄さんで僕たちもクレーメルエンジンの取り付けと調整を手伝っている。 「こんな大きなクレーメルケイジ見たこと無い・・・」 作業する前に説明はしてもらったけど実際に見ると驚いてしまう。 そんな僕をウィルが急かす。 「はやくやらないと予定狂うよ~」 振り返るとスパナを手に持ったウィルがが叫んでいた。 「あ、ごめんごめん」 「スケジュールがきつい・・・だからさっさとやらないとな・・・」 タナトスが溜息混じりに嘆いた。 「やろうと思えばなんとかできる」 「確かにセイ言う通りなんだけどね」 ウィルと顔を見合わせ苦笑い。 そして僕らは僕らの作業を始めた。

「・・・」 目を覚ますと冷たい床に寝ていた。 昨日のことが良く思い出せない。 しばらく上半身だけ起こしてぼーっとしていた。 そうしている間に少しずつ目が覚めてきた。 軽く伸びをすると体全身の間接がぱきぱきと音を立てるような錯覚。

さすがにこんな床に寝ていたら体の何処かがおかしくなっていても不思議は無い。 「そっか・・・昨日はかなり遅くまでやっていたんだっけ・・・」 となりにはウィルが、壁際にセイとタナトスが寄りかかって寝ていた。 壁のパネルはあちらこちらが外されて中の配線やパイプが良く見える。 ほんと、よくこんなところで寝られたなぁ。 そんなことを考えていると扉が静かに開いた。 光と一緒に良い匂いが入ってきた。 「よう、レイル。・・・すげぇところで寝てたな」 「兄さんはどうだったのさ」 「俺もあまり変わらないな。床で寝てた」 そう言いながらきつね色に焼きあがったパンを渡された。 しかも皿山盛りの。 「とりあえず人数分だ」 遠くからフィールさんの声がした。 何か車を押す音もする。 「スープお持ちしました」

手際良く二人は僕らの分のスープを配りながら寝ているウィルたちを起こした。 兄さん、こういうことに手際よかったっけ・・・。 料理とか一応いろいろ出来るけど。 「次は何処だっけ?」 「えっとここで最後ですね」 「ああ、そうか。お疲れさん」 「ケイさんこそ」 「そんじゃ俺らも飯にするか」 トレーから自分たちの分を取り出すと僕の横に座った。 「今日で最後になるからばりばり行こう」 「この調子だと比較的早く終わりそうね」

「さすがセレスティアだ。技術力なんてほんとインフェリアは低すぎる・・・そのことが良く分かるよ」 「それにしても良くトライデントと合うよね。規格が合わなそうなのに」 その言葉に静かにパンを千切って食べていたセイが僕を睨みつける。 刺すような視線を気にしながら話を進める。 「インフェリアの最先端中の最先端はセレスティアと同等ということらしい」 「・・・元々・・・ここの技術を真似たものだからな・・・」 もう食べ終わったのかタナトスは口元を拭っていた。 「追いついていないと困るだろう・・・?」

まだ何か言いたい事があるようだけどセイに睨まれて何も言えなくなっていた。

分厚い雲の切れ間から夕日が差し込む頃。

トライデントの改造は終了しあちらこちらで微調整をはじめていて僕らはクレーメルエンジンの調整をやっていた。

画面に映し出されるグラフと設計図の数値を交互に見ながらやる作業だから目がつかれる。

セイに交代するとものすごい勢いでグラフが流れて行ったので思わず僕たちは拍手してしまった。

セイ自身はあまり凄いと思わないのか何も言わずにノルマを達成しタナトスと交代した。 ただ少し顔を赤らめていたけど。

そんなことを数回繰り返すと僕たちの作業は終わり艦橋へ行って見る事にした。

あちらこちら空いていたパネルはきちっとはまり元の綺麗な状態に戻っていた。 昨日までパイプで歩き難かったのが嘘のように思いながら艦橋へ辿り付く。 扉を明けるとクレーメルコンピュータの画面と向かい合っている兄さんの姿。 「よぅ。そっちはもう終わったのか?」 「セイがはやくて驚いたわ」 「やっぱこの道のプロは強いなぁ」 そう言われてまたセイは顔を赤らめていた。 最近になってからまた少し変わったのかな・・・。 なんとなくそう思う。 僕もやっぱり何処か変わったのかもしれない。 「これでラスト・・・」 エンターキーを叩くと画面にはCompleteの文字。 「できれば今夜に試験飛行したいがゆっくり休みをってそれからにしよう」

船から降りると作業に協力してくれたセレスティアの技術者たちががやがやしていた。 兄さんが明日の予定を伝えるとそれぞれの家へ帰っていった。

これだけの作業を二日間も協力してくれたことに感謝しながら僕はその背中を見送っていた。 ヴァプラさんが最後まで残っていた。 「夕食はわたしの家で食べたら?」 その言葉に甘える事にして夕飯はヴァプラさんのところで食べる事になった。 疲れもあったせいかとても料理が美味しく感じられた。

「エンジンシステム問題無し・・・と」 独り言のように兄さんは呟きながら最後の確認していた。

手製のマニュアルを何度も読み直し確認を念入りにやっている兄さんは珍しく真面目だ。 「これでよしっと・・・」 そこで兄さんは僕の視線に気づいたらしい。 「ずっと見ていたのか?」 「うん」 後ろにいたウィルも一緒に頷く。 「ま、別にいいんだけどな。これから試験飛行を始めるぞ」 「操舵はわたしがやる」 「それが一番だ。よろしく頼むよ」 「うん」 しばらくセイは操作パネルを眺めていたけどすぐに手を動かし始めた。 それに反応して船体も動き出す。 外の景色が下へ流れていきゆっくりと上昇していくのがわかる。 「すごい・・・」 「本当に空を飛んでるなんて信じられない」 生まれてはじめての感覚に言葉で表せない何かを覚えた。 言葉が・・・でてこない。 本当に僕らは飛んでいるんだ・・・。 窓から見下ろすと遥か下にセレスティアの海が見える。 「セイ・・・?」 「大丈夫。少し操作感が変わっただけ」 後もう少し高度を上げれば雲の中に入るだろう。 「すげぇ・・・本当にすげぇな」 「やりましたね」

その時は誰も探知機に不気味な影が映っていることに気が付いていなかった・・・。

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