Feathery Instrument

Fine Lagusaz

ぴた・・・・・。 水の滴る音。 ぴた・・・・・。 ここは・・・・何処だろう? 身体があるのか無いのかわからなくて耳を澄ませることしか出来なかった。

第十八章 「セレスティア」

「ん・・・・」 頬に冷たい粒があたり目が覚めた。 体中、鈍い痛みがして重く感じられる。 なんとか体を起こしあたりを見回すと皆が倒れている。 どうやらトライデントの甲板らしい。 見上げると分厚い雲が空を覆い光は届かず薄暗い。 弱い雨が降っていて身体を濡らしている。 インフェリアじゃないのか・・・・? ぼやけた頭を動かし霧の向こうの記憶を探る。 あのとき僕らは・・・・・

そうだ、セロラさんを助けようとして 滲んできた闇と光が不意に途切れて

うっすらとすべてを思い出してきた。 フラッシュバックのように場面が頭によみがえり流れ出す。

『・・・・』

目の前には光の大晶霊レムが現れていた。 その神々しい姿に僕は圧倒され混乱してしまった。 『真実を見てくるのじゃ』 そう言ったような気がする、少なくとも僕にはそう聞こえていた。 そしてレムはフィールに何かを渡した。 僕らは光に包まれて・・・・。

そこで記憶が途切れてる。 どうやら僕たちはレムにセレスティアまで飛ばされてしまったらしい。

・・・・・・。 ・・・・。

「なんかとんでもないことになっちゃったわね」 「そうですね。ここはセレスティアなのでしょうか?」 「それは間違いないだろう。棲んでいる晶霊も違う」

ケイのその言葉からセレスティアの晶霊についての専門的な話に移りミンツ大学の学生もびっくりな展開になっていった。 トライデントの艦橋は大学の研究室のような空気が漂い始めた。 その後も話は続いた。 もちろん今のこと、そしてこれからのことも。 僕は兄さんたちの話に参加しないで一人でレムの言葉を考えている。

あの戦いで見たセロラさんとウィルバーのやりとりとレムの言葉には繋がりがあるとしか思えない。 ウィルバーはこのセレスティアにいるということかな。 情報があまりにも少なすぎる・・・・。 「というわけでレイル、明日はこの近くの町へ行くぞ」 「え、ああ、わかったよ」 気が付くととんでもない時間になっている。 空き部屋は女性陣に譲ることになり艦橋で寝ることになった。 床の堅さに戸惑いながら僕は深い眠りの底へ沈んでいった。

「ところでセレスティアの言葉ってメルニクス語よね」 「そうだけど」 レイルとタナトスはメルニクス語はある程度理解出来る。

ケイやセイ(研究所で少しやったらしい)もほんの少しは分かるがウィルとフィールはわからない。

もっとも実際に話せるかは実際に試して見ないことにはわからないわけで下手をすると全滅の可能性も有り得る。 「オージェのピアス」 セイが取り出したのはセイのいった通りのものだが本物とは微妙に違う。 「コピー品?」 思ったことが口に出てしまったようでレイルはあわてて口を抑えた。 しかしセイはそんなことを気にしていないようでそのまま全員に渡した。 「これでわかれば苦労しないよなぁ」 ケイの苦笑い釣られて苦笑い。

町の広場らしいところで立ち止まり町を見回す。 遠くから見ていた時は気が付かなかったが町は再建中のようだった。 あちらこちらで足場が組まれ作業している人が見える。 「セレスティアの町はこういう作りなんだ」 感嘆の声を上げるレイルたちに気づいた人たちが寄ってきた。 「あなた方はインフェリアンじゃな?」 一瞬、聞き取れなかったのかと焦ったが理解出来たことに驚いた。 「とりあえず、こちらへ」

言われるまま長老のような人に案内され町の一番大きな建物へ連れて行かれた。 入って見ると一階は何かの作業場のような場所で通されたのは二階だ。 「ご自由に座ってください」 そのまま腰を下ろしたソファーの座り心地はなかなかなものだった。 「わしがこの町の復興の責任者のトーマスじゃ」 向こうに名乗られこちらも名乗った。

どういう理由で来たのかもいろいろ話し終わるとトーマスは大きなため息をついた。

「そうじゃったか。今晩はここに泊まって行くと良い。たいしたことはできないが・・・・」 「ありがとうございます。トーマス町長」 「いや、わしは町長ではない。ただの復興の指揮をとっているだけじゃ」 そういえばセレスティアは競争世界だったけ。

強い者が総領主になれる・・・・セレスティアについて語っていた本にはそう書いて有った。

トーマスさんによると今はシルエシカという組織のリーダーフォッグという人が総領主らしい。 グランドフォールを阻止したのも理由のひとつだとか。 客間のソファに座り天井をぼんやりと見上げる。 「セレスティアか。研究対象としては興味深いものがあるな」 「研究対象としか見ないのか、兄さん」

トーマスは用事があるからと外へ行ってしまったが見ず知らずの人間を残していって大丈夫なのだろうか。 「ところでレイル、水奏石は使えるのか?」 「え、あ・・・・」 首から下げていた水奏石をとりだし詠唱する。 青色の光がレイルの手のひらに集まり・・・・ 「あ、できた」 水の珠が手のひらの上に浮かんでいた。 「よかった・・・・大丈夫みたいだね」 もしも使えなかったら戦力大幅ダウンでは済まないだろう。

「風奏石もなんとか使えるようだが弱い・・・。もともと、俺は物理攻撃担当だがね」 「爆弾とかこぶしとか結構、危ないことやってるけど」 「死なない程度に頑張る主義でね」 「前線にでたら死ぬって」 「それもそうだがね。好奇心が恐怖に勝った、そんだけさ」 苦笑いしながら言った。恐らくこれが本心なのだろう。 らしいといえばらしい。 死なないでほしい、それがレイルの本心でもあった。 もちろん、死なないでほしいのはここのみんなだ。

レイル自身死ぬことは恐怖だがそれより怖いのは他人が死ぬことだと改めてレイルはそのことを自覚した。 「レイル?」 「あ、ちょっと考え事していただけだから」 「そう、ちょっと辛そうだったよ」 「あはは」 苦笑いしながらはぐらかす。 「ならいいけどね。・・・・わたしはレイルのことが・・・・」

レイルの身体が動きを止めるが心臓だけが別の生物のように鼓動を速めている。 「・・・・」 「レイル」 「ウィル」 「熱い」 「・・・・だな」

セイとタナトスの言葉にはっとする二人、また二人だけの世界を構築していたらしい。 二人の顔が一気に赤くなりまわりがどっと笑いに包まれる。

こんな状況でも賑やかになれる仲間はとても大切だと痛感するレイルであった。

一人でセレスティアという別世界へ来てしまったらどうにもできずにただ一人で泣くことしか出来なかっただろう。 そしてウィルの存在が自分の中でとても大きくなってきている。 どんな世界でも僕は・・・・君の側で・・・・ずっと・・・・

あとがき

ということでセレスティアへ飛ばされてしまったレイル達の話です。

もう少し感情を上手く絡めることが出来れば良いのですがどうもそうも出来ないようです(苦笑

前の話からのブランクがかなり長くなってしまいました。 もっと製作ペースあげたいところです。

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