Feathery Instrument

Fine Lagusaz

僕らが王都インフェリアから出発して数週間が過ぎた。 大きな街や村をまわってみたけど何もわからないままだ。 インフェリアの大晶霊は一人(?)を除いて会うことが出来た。 光の大晶霊レム。 レムにはまだ会えていない。

僕らの目的はウィルバーという人の情報を集めることだけど僕は世界を広げたかった。 ただ、それだけだった――。

第十六章「Reil’s Report」

モルルを出て一ヶ月と少しの間に色々なことに巻き込まれた。 モンスターに襲われて一人で戦った。

モルルに居たときは友達や兄さんがいたし戦いだって後ろから晶霊術で援護するだけだった。 そんな僕がいきなり旅をするのは無謀だったかも知れない。 痛みを堪えながら一人で眠った夜。 傷だらけのウィルに出会い初めて仲間になって貰ったこと。 ウンディーネと戦い水奏石をもらったこと。

もしかすると一生、通らないまま終わったかも知れないいざないの密林を抜けたこと。 その中でタナトスという人と仲間になったこと。 やっとのことで森を抜けて辿り着いた王都インフェリア。 そこでいろいろなことが(本当にいろいろなことが)起こったこと。 そして今、ここにいること——-。 「珍しく難しい面しているな。と、それはなんだ」 「別に、なんでもないよ」 そのまま本を閉じる。 机にはインクとペンがある。 「なんか書いていたのか?」 さすがにこういう状況だったら誰にでもわかってしまうらしい。 僕は諦めて話すことにした。 「今まであったことをまとめて見たかったんだ」 「日記、か」 「別に毎日つけていたわけじゃないから日記じゃないよ」 「ま、自分の行動を振り返るのは大切だろうけどな」 「やっぱり、忘れないうちに形にしておきたいんだ」 「何か、変わったな。オマエ」 「そうかな」 「と外の空気でも吸ってくる」 静かに扉の向こうへ消えた。 今、僕らがいるのは王都インフェリア行きの船。

あちらこちら行ってみたもののウィルバーという人についての情報は一切得られなかった。 一度、体勢を立て直すことになったのだ。

インフェリア兵だということがわかると村人の態度が一変するから僕らがでた。 それでもダメらしい。 情報の伝達がはやいのだろうか。

自分の目的だけ(世界を広げる、という)達成できて「本来」の目的は果たせなかった。 ロエンさんには申し訳ない。 「昼飯らしいぞ」 扉越しに兄さんの声がした。 今いくから、と答えて本を閉じた。 昼食を済ませまた書き始める。 ウィルは剣の練習をして兄さん達は雑談に花を咲かせていた。 後、もう一息で書きたいところが終わる。

そしたらウィルに剣技の稽古を付けて貰おうと思ったところで船体が大きく揺れる。 波の衝撃ではない。 大きなものが横からぶつかってきたような・・・・。 そこまで考えてはっとする。 まさか・・・・海賊? 勢い良く扉が開くとウィルが慌てた顔で現れた。 「レイル、大丈夫っ?」 「大丈夫だけど何があったの?」

何が起こったのかわからなくて混乱しても良いはずなのに出てきた言葉は落ち着いている。 「敵が来たの」 「えっ」 セイの言葉にレイルは驚き辺りを見回した。 衝撃に何度もゆらされながらも急いで甲板にでると明らかに型の違う船が体当たりしてきている。

帆が無くて動く船・・・・クレーメルエンジンを積んでいるとなるとセレスティアの船と言うこと。 「セレスティアの船、なのか?」 「レイル、ぼさっとするな。応戦する準備でもしとけ」 木製の船体が軋んだ。 でも沈めるつもりは無いのか致命的になるような体当たりがない。

僕らの船は相手から距離を置くような進路を取っているけど風を使った船とクレーメルエンジン搭載の船が勝負して勝てるはずもなく併走されてしまう。 しかも攻撃が止んだ。 機械の腕のようなものがこちらの船をがっちりと掴んだ。 「レイル、来るよ」 「うん」 ウィルの言葉に僕らはそれぞれの武器を構えた。 恐らく来るだろうセレスティアの人間に・・・・。 向こうの船の扉が開く。

ぽっかりと空いた黒い穴からでてきたのは肌の白いエラーラの付いていないインフェリアの人間!? 「あんた達なんかがいるから・・・・」 半ば泣きそうな辛い表情をした女性が現れた。 行き場を無くしたように長く漆黒の髪が風に流されている。 「わたし達が何かしたのでしょうか?」 フィールさんが恐れもせず話しかける。 「しらばっくれないでよ。ウィルバー様の邪魔する者は許さないんだからっ」 ウィルバーという言葉に一瞬、時が止まった。 「それはどういうことでしょうか?」 「何言っているのよ。わたしたちの邪魔をしないで・・・・」 「邪魔なんて」 フィールさんの言葉を遮った。

「わたしたち平民がどれくらい王の圧政で苦しんだと思っているの?あんたたちみたいな人間がいるからっ」 「僕らだって平民だよ」 「何言っているのよ。この船に平民がいるわけないでしょっ」 その言葉と同時に姿が消えた。 え、何処にいるんだ!? 「レイル、後ろっ」 振り向くとさっきまで前にいたはずの女性が剣を振りかざしていた。

「わたし達はウィルバー様についていく。わたし達平民の世界を作るためにっ」 水奏石が剣に形を変え女性の剣を受け止めた。 金属と水のぶつかり合う音が響く。 「僕らがだって同じことをやろうとしているんだ」 「うるさいっ」 「うわっ」 圧倒的な力ではじき飛ばされる。 「と、大丈夫か」 「あ、ありがとう兄さん」 何とか兄さんに受け止められた。 敵はその女性だけではなく同じ様な服装の兵士が十数人。 「ぼうっとするな、死ぬぞ」 「わかってるけど・・・わかってるけど・・・!!」 こんなの変だよ。 どうしてこんなことになるのさ。 目の前に広がっていく赤い世界に思わず目をそらしたくなる。 兄さん、ウィル、みんなが戦っている。 乗り合わせていた他の兵士も戦っていた。 僕は・・・・どうすれば良いんだ? その問いに僕は戦いという答えを出す。 ・・・・・・・・・。 ・・・・・・。 ・・・。

一次元刀、晶霊銃、上級晶霊術、水奏石、風奏石・・・・こちらの圧倒的な勝利に終わった。 向こうが勝ったのは人数だけなのだから当たり前の結果かもしれない。 「敵に回復晶霊術なんて使うか、普通」

兄さんは呆れた顔をしながら回復晶霊術(キュアなのかわからないオリジナルかもしれない)を使うフィールさんに言った。 「・・・・わたしは・・・・人の命は奪いたくありませんから・・・・」 ひたすら回復晶霊術を使っていたフィールさん。

だけど途中に襲いかかってきた敵に思いっきりファイアボールを直撃させてしまった。 降り注ぐ火球に鎧は溶け兵士は絶叫と共に倒れた。 「いや、悪い。変なこと言ったな。プリーストが人癒すのは当然だよな」 「いえ、気になさらないで下さい」 「僕も手伝うよ」 フィールさんの横に並びながらキュアをかける。 「レイル・・・・」 「ウィル、僕らは何と戦うのかな」 「たぶん、人と・・・」

「同じ人間なのに何で殺し合おうとするかな。同じ事しようとしているのに・・・・」 「・・・・俺は・・・・」 タナトスにその場の顔が向く。 「邪魔をする者は容赦しない」 「わたしもタナトスと同じ」 タナトスとセイの言葉の後、沈黙。 モンスターを殺すになれていても人を殺すことにはなれていない。 僕達は極力、武器を壊したり戦えない程度の反撃をした。 でも、向こうは本気だった。 甘いことを言っていていたら殺されてしまう。 僕らが助かりたいと思う気持ちの分だけ流れた血が甲板に広がっている。 手当を済ませ彼女たちを船に戻す頃には日が暮れていた。 こちらの船の応急処置も終わりインフェリアへ進路を取る。 彼女の最後の言葉が今も刺さっていた。 「どんな時も王は何もしなかった・・・・ただの障害なのよ・・・・なのに・・・・」 小さい頃から僕も「王とその命令は絶対である」と教えられてきた。 でも本当に従って良いのか、そういう疑問も持ち始めているんだ、僕だって。 だからあのアレンデ姫の言葉を信じたい。 変わるために必要だと言われたから僕はここにいる。 それで良いのかな。 彼女のやりたかったこと、言葉、全てが僕に疑問を投げかける。 正義や理由なんて人の数ほどあって違うからぶつかり合う。 単純だと言えば単純でとても寂しい。 何が僕に出来るの? 兄さんはやるべきことをやるだけだ、と言った。 だけどやれることだけやっていたんじゃないかな、兄さん・・・・。 僕は僕の世界を広げていた。 赤く歪み始めた悲しい世界を。 そしてその世界を小さく変えていこうとしていた。 ちっぽけな僕でもできることはできるはずなんだ・・・・きっと・・・・。

「く、失敗した」 もやのかかったような視界にようやくピントがあった。 何故か自分たちの船に戻っている。 ああ、そうか。 あの時わたし達は・・・・。 「なんで敵なのに助けたのでしょうか」 横に待機していた兵士が言った。 彼の手には応急処置の道具が握られており彼女の手当をしていたらしい。 「とりあえず出直すよ」 「了解」 レイル達が甲板で見たと同じような赤い夕日が艦橋を染めていた。

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