Feathery Instrument

Fine Lagusaz

第十四章「風晶霊の空洞」

「よく寝るわね」 ウィルが呆れるように言った。 正午。 時計の針が真上を指している。

午前中も街に繰り出しいろいろと尋ねてはみたたものの大した収穫もなくむだ足に終わった。 もちろん、この少女のこともきいたが何も分からなかった。

午後には風晶霊の空洞へ行こうと予定していた(ケイが強制的に決定)がそれも無理そうだ。 「この子は何者なのでしょうか・・・。それにしても本当によく眠りますね」 疑問を口にしながらも優しく少女の額をなでていた。 「・・・・一緒に連れていこう」 「え、何処へ?」 タナトスの言葉に思わず聞き返すレイル。 「・・・・風晶霊の空洞へ・・・・」 「しかしあの場所は危ないところです」 フィールの言葉を繋ぐようにケイが話す。 「あの場所は王国の管轄地域だ。俺らはともかくこいつは無理だろう」 「・・・・」 反論できずタナトスは黙ってしまった。 少女が起き上がった。

眠そうに目をこすりレイルたちを見回しタナトスを見つけると無言で手を振る。 そんなタナトスに視線が集中する。 「・・・・名前は・・・・?」 「セイ・エウカリス」 タナトスの問いにあっさりと答える。 「セイもいくよ」 「・・・何処へ・・・?」 「風晶霊の空洞」 「・・・・」 タナトスはセイからレイルたちに向き直り 「・・・・」 どうする?という顔をした。 しばらく悩んだ後出た結論は一緒に行くしかない、ということだった。 バロールからでて数時間。 日は沈みかけていた。 あたりは赤い夕焼けに包まれ先へ進むのは難しくなった。 その日はキャンプすることになりテントを設営する。 「テントを二ついるとはな」 ケイがぼやきながら支柱を組み上げていた。 「まぁ、兄さん、そう言わないでさ」 レイルもなだめながらそれを手伝う。 何故か女性陣のテント作りにはタナトスとセイの姿が見える。 両方とも何も話さず無言のままそしてテキパキと支柱を組み上げている。 フィールとウィルは食事担当となり材料を刻んでいるところだ。 テント設営が終わるのと同じくらいに料理もでき夕食になる。 皿にはシチューが盛られている。 「わたしがつくりました。お口に合うか不安なのですが・・・」 フィールが言った。 「わたしなんかほとんどやってないわね」 いくらか申し訳なそうにウィル。 「ということでそろそろ食おうぜ。いただきます」 『いただきまーす』 全員でスプーンを口に運ぶ。 「ウマー」 「フィールさん、料理上手なんだ」 「レイルとフィールさんがいれば高級料理店と勝負できそうね」 「・・・・・」 ウィルの言葉に頷くタナトス。 特にこれといって反応も示さずセイは黙々と食べ続けた。 「セイ・・・・?」 横にいるセイにタナトスは話しかけた。 「?」 「いや・・・・なんでもない」 「・・・・」 何も言わずまた食べ始める。 そんなセイを見ながらタナトスも食べ始めるのだった。

空には星が瞬きセレスティアの反射光が地表を照らしていた。 「・・・・」 木の棒で焚火をつつきながら星を見上げるタナトス。 焚火を見つめ直す。 「はぁ」 珍しくため息をついた。 後ろに気配がしたので立ち上がり振り返る。 「・・・・セイ、か」 「うん」 「・・・・あしたは大変だ。早く寝た方が・・・・」 「なかなか眠れないの」 「・・・そうか・・・」 「横にいって良い?」 「・・・かまわない」 ちょこちょこと寄ってきてタナトスの横に腰を下ろすセイ。 「・・・・」 「・・・・」 バロールで出会った時と同じように会話は無かった。

「ここが風晶霊の空洞の入り口かな」 「かな、というか当たり前に入り口だ」 レイルとケイの漫才のような会話。 かすかに風が吹いてくる。 十分ほど歩いたところで空洞の入り口にたどり着いた。 「ここは王国管轄の地域だ。帰ってもらおう」 兵士が言った。 「セイたちなら大丈夫だよ」 「せ、セイ?」 前に出てきて話すセイに驚くレイルたち。 「セイたちはロエンさん直轄の隊だから」 「え、そんなこと聞いて無いわよ」 「悪いな、みんな。通信機いじったら壊れちまって」 さらりとケイが言った。 反省の色、全くなしといったところだろうか。

「セイがロエンさんの直轄なんて聞いてないって。もっと早く言ってよ、兄さん」 「レイルさん、落ち着いてください」 「だからセイたちは通って良いよね」 「・・・あ、すみません」 セイが兵士に確認を取るように言う。

「ああ、なら良い。ここは風がいつも吹いている。体力には気をつけた無いと危険だ」 そう最後に言った。 中に入ると一層風が強く吹いていた。

風に飛ばされて昇ったりするという異常な移動方法も取りながら空洞内を突き進む。 「ボーンナイト・・・か」 タナトスの視線の先には人骨のようなモンスターが剣を構えていた。 こんな不気味な物体が三匹ほど。 ウィルが呪文を唱え一次元刀を構えた。 切りかかろうとした次の瞬間、モンスターが光に貫かれ消滅した。 だれも攻撃していない。 互いに顔を見合わせる。 後ろを見るとセイが拳銃を構えていた。 少女が持つには大きすぎる拳銃だ。 「・・・・」 何も言わず銃をしまった。 「セイは銃使いなんだ」 レイルが話しかける。 「・・・うん」 小さくセイは頷いた。 「話すならあそこがいいんじゃないか」 ケイの指さす先には休めそうな空間が広がっている。 今日中にこれ以上進むのは無理だと判断しキャンプとなった。 「まさか、セイがインフェリアの兵だったとはね」 ウィルが意外そうだったと言わんばかりに言った。 「ほんと、悪かった」 ウィルに両手を合わせいった。 「じゃぁ、自己紹介しようよ」 「・・・セイは・・・人とはなすのが苦手らしい」 タナトスがセイの代わりにいった。 「そんな感じはするね。僕ら先にやるから」 フィールの時と同じように名乗る。 セイのは何故かタナトスがやることに。 「僕たちは終わったから次はセイだね。タナトスはセイのこと知ってるの?」 「・・・昨日の夜、話した」 「そうなんだ」

「・・・セイ・エウカリス・・・と名前は知っているか・・・年は16だそうだ・・・。インフェリアの光晶霊技術部のテスター・・・・試験隊所属。」 16という年にその場にいた全員が驚く。 この身長で16とは考え難い。 「マジか」 ケイが愕然とした表情で呟く。 「でも、小さくて可愛らしいです」 「そういう表現もあるわね」 「僕はこれからさん付けで呼んだ方が良いのかな」 レイルの言葉にセイは静かに首を横に振った。 「そのままでいい」 「良かったー」 その安心したレイルを見て笑いに包まれた。

そして、空洞のなかで朝を迎え歩きだした。

何度かのモンスターとの遭遇戦も軽々と撃破し目の前に風の大晶霊が姿を現した。 「へぇ、ウンディーネから水奏石もらったんだ」 レイルの首に下げている石を見ながら風の大晶霊シルフが言った。 かなり小さい姿をし背中の羽根さえ無ければ小さな男の子にしか見えない。 「すいそうせき・・・?」 「わたしがお答えしましょう」 レイルはフィールの顔を見た。

「ほとんど伝説に近いのですがこの世界には晶霊を自由に操る石が存在するそうです。これはその一つ、水奏石ですね。水の晶霊を操ることができます」 「この晶霊配列、何処かで見た気がしていたがまさか水奏石とはなぁ」 そして長生きはしてみるもんだ、と繋げた。 「でも君はまだちゃんと扱いこなせて無いみたいだね」 「・・・・」 「そろそろ行くよ」 シルフが弓を構えた。 「僕は水奏石を使いこなして見せるっ!!」 水奏石が剣に姿を変える。 「行くよ、エアスラスト!!」 鋭い風の刃を軽くかわす。 「・・・ダークフォース」 今度はシルフに黒い風が襲いかかる。 それを素早くかわすシルフ。 しかし嵐のような止まない攻撃にシルフは晶霊術を封じられた。 「神の雷を受けなさい・・・インディグネイション」 光の球がシルフの上に降ってくる。 直撃したようだ。 が、フィールの後ろに立っていた。 「上級晶霊術は使えても威力はまだまだだね」 余裕面のシルフを後ろから一次元の刃が襲う。 「わたし達をなめないで欲しいわね」 それもあっさりとかわすが水の壁がシルフを包んだ。 「水奏石の使い方は僕次第なんでしょう」 「へん、でも、ここはぼくの支配するところだからね」 するりと壁を抜け出した。 「スプレッド」 水の柱がシルフに命中する。 シルフがぐたぐた言っている間にレイルは詠唱していたのだ。 セイが銃を構えた。 「な、なんでそんなもの持ってるのさ~っ」 シルフは叫ぶがセイは構わずトリガーを引いた。 光の弾がシルフ迫る。 「へへ~ん。当たらなければ意味ないもんね」 すんでのところでかわしたシルフ。 その後ろにある黒い影にも気づかずに。 「ほう、ならばこれを避けてみろ」 ケイの声にシルフが振り向く。 渾身の右ストレートがシルフの顔面にヒットした。 もろに食らいシルフは墜落した。 「格闘は趣味じゃ無いんだが」 と右手をさすりながらケイは言った。 ダウンしたシルフが復活したのはそれから三十分ほどしてからだった。 「・・・・」 タナトスとセイに見られ硬直している。 この二人、やはり目が殺伐としているというか冷たいのだ。 「大丈夫か、面」 「兄さんが殴ったんじゃないか」

「武器が無かったから拳だ。試作品の対消滅晶霊爆弾もあったんだが何せ・・・・な」 意味ありげな笑みを浮かべた。 「なんだか怖そうな武器・・・・」 「そうね。ここごと吹き飛ばしそうな名前ね」 「はぁ、仕方無いなぁ」 シルフの声が空洞に響いた。 「これやるよ」 ケイの前に緑に光る石が現れる。 「風奏石だよ。それから」 「なんで俺?」 ケイの問いを無視しレイルたちを見回す。 「晶霊術士が多いね・・・はぁ、お前にはこれをやるよ」 「え、僕?」 「エアリアルボード、風晶霊のいる世界なら自由に移動できる晶霊術さ」 「ありがとう、シルフ」 「へへん」 そう言うとシルフはどこかへと消えていった。 「はぁ」 大きくウィルがため息をついた。 「疲れた」 レイルの言葉に頷く一同だった。

夕食後の雑談。 いまだ空洞内である。 「いろんな意味で体力を消耗したね」 「今日は早く寝て空洞を抜けたいわ」 「同感だ」 「わたしも今日は疲れました・・・・」

あまりしゃべらないタナトスとセイはというとセイの銃のメンテナンスを手伝っていた。 「・・・・晶霊兵器・・・・現物は初めてだ」

「光晶霊を利用してる。破壊力は厚さ10cmのセファイド鋼を軽く貫通する程度」 「・・・・すごいな」 「ほら、これが本体」 クレーメルケイジを指さす。 通常のものと形状が異なり何かの回路に組まれている。 「後はこれを組み直して終わり」 「・・・・そうか・・・・」 二人が銃のメンテを終える頃にはレイルたちは夢の中だった。 「一昨日と一緒ね」 「ああ」 「セイね。あなたとならお話できる」 「・・・・そうなのか」 「そうなの」 そんな互いの顔を見て静かに笑った。

「ふぅ、やっと抜け出せたな。俺はこういうところは苦手だ」 出た瞬間の光にめまいを覚えた。 「その割りには結構、いろいろやってたわね」 「ふ、実験の一環さ」 「人が傷つかないことを祈るよ」 「なんだ、レイルー。その言い方は」 「いたた、言葉のままだよ」 「空気が違いますね」 「・・・・ああ」 「・・・・」 「・・・・セイはどう思う?」 「風が気持ち良い」 「・・・そうか、良かったな」 セイと仲良くなり楽しそうなタナトス。 そんな二人を不思議そうな顔で見るレイルたちであった。

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