Feathery Instrument

Fine Lagusaz

第十一章「深層領域」

何処だろう、ここ。 風が静かに吹いている。 一面の草原で何も見えない。 あるのは青い空と緑の地。 そして人も何もいない。 僕は死んだのかな。 あれだけの怪我だったのだから当たり前かな。 不思議と衝撃も悲しみも無かった。

「あなたは死んではいません」

え・・・誰?

「ただ、とても深い場所にいるのです」

何処にいるんだ、僕は・・・・

「深層領域と呼ばれる誰もがもっている世界です。あなたの意識はこの海にいるのです。そこはその最下層・・・・」

どうすれば戻れるの?

「時が来れば戻れます。ただあなたは強く願うだけでいいのです」

時が来れば? その時はいつ来るの。

・・・・・・・・・。

「まだレイルは起きないのか」 ケイがレイルの手を握りながら呟いた。 「そうね」 「後はレイルさんを信じるしかありません・・・・。私が助けを求めな」 ウィルが言葉を遮る。 「フィールさん、そこから先は言わなくていいわ」 フィールとよばれた女性は静かにレイルの顔を見ていた。 すでに三日が経過したのにレイルは目覚めなかった。 そしてフィールは自分のやったことを後悔した。 助けを呼ばずに死んでしまえばよかった。 でも死なずに生きている、できることはまだある。 ただフィールは自分自身にそう言い聞かせた。 レイルの身体の傷はかなり深かった・・・・。

『と、ここか。・・・・何が起こったんだっ!?』 『レイル!?』 ウィルとケイが駆けつけると部屋のあちこちに赤い大きな染みができていた。 『はやく二人を医務室へ』 『ロエン、あなただって』 『俺は大丈夫だ。一人で・・・・歩け・・・・・』 倒れるロエンをケイが受け止める。 『なんてこった・・・・。しっかりしろっ!!』 医務室に運ばれ応急処置がされる。

光晶霊術士による回復晶霊術と助け出された女性フィールの上級回復晶霊術がかけられ一命は取り留めた。 タナトスとロエンは目覚めた。 しかしレイルだけが目覚めなかった・・・・。

草原に佇んでいた。 時の流れの感じられない場所で。

「ロエン隊長、斥候隊より報告。ネレイド教の信者に不穏な動きが見える。武装強化などが行われている模様。以上です」 「ウィルバーの行方は掴めず、か」 貧困の激しい村などで反乱が発生しそうな状況になっていた。 ウィルバーを取り逃した俺のミスだ、とロエンは自分を責め続けていた。 そして、レイルのことも。 ここ最近のロエンは焦りばかりが目立っている。 かなりの部下が気を使い休むよういっているがきかなかった。

願うは元の場所へ戻ること。

「なぁ、レイル・・・・いい加減、起きろよ・・・・」 レイルの手を握りながらベッドにケイの涙が染みを描く。

例えどんなに時が流れても。

「・・・・」 「ケイも寝ちゃったか・・・・。一緒に起きれると良いね、レイル」

どんなに傷ついていたとしても。 これから傷つくことになろうとも。

「俺は・・・・レイルを・・・・待つ・・・」 「わたしもレイルさんを待ちます」 「私も待ちますわ」 「アレンデ姫か・・・。馬鹿な弟が心配かけてすまねぇな」

先にあるのが悲しみだとしても。

「まだ、起きないのか」 「ロエンか。ああ、まだだ」 「そうか・・・・・」

僕は戻りたい。 あの場所へ・・・・。 ・・・・・・。 ・・・・。

「・・・・ん」 目を開けるとみんなの顔が有った。 「あ、おはよう」 体をゆっくり起こしてみんなの顔を見た。 いろんな表情をしてる。 「あ、おはよう、じゃねえよ・・・・寝坊するにもほどがあるだろっ」 ありがとう、兄さん。 「レイル、おはようっ!」 ありがとう、ウィル。 「・・・・寝坊助・・・・」 ありがとう、タナトス。 「な、なんだ。起きたのか」 ありがとう、ロエンさん。 「良かったですね・・・本当に」 ありがとう、アレンデ姫。 「やっと・・・・起きられたのですね・・・・」 誰。

「フィール・クローブと申します。あなた方に助けられました。あの時は本当にありがとうございました」 「あなた・・・ですよね。夢の中で話しかけて来た人は?」 フィールと名乗った女性を見ながらレイルはたずねた。 「そうです」 「えっ?」 ほかのみんなは何が起こったかわからない。 「わたしがすべてお話しましょう」

・・・・・・・・。

「そんなことがあったのか」 ケイが驚いた顔で言った。 フィールには先を読む力があること。 晶霊術において強い力をもつこと。 セイファート教会の混乱と行き違いに絶望して教会を出たこと。 その能力に目をつけられウィルバーに捕まったこと。 レイルの意識に語りかけたこと。 そのすべてを話した。 「それがわたしの知っているすべてです」 「フィールさん、これからはどうするの?」 「そのことだが」 今まで黙っていたロエンが口を開く。 「俺に協力してもらいたい」 「・・・・」 その言葉を静かに聞く。

「こんなことにあったのだから拒否してもかまわない。しかし今のインフェリアにはお前らは必要なんだ」 「ロエンさん、答えを出すのに時間が欲しいよ。少し待ってもらえないかな」 「・・・ああ、後悔しない選択をしてくれ」 静かに扉を閉めた。 最初に口を開いたのはタナトスだった。 「俺は・・・・かまわない」 「でも」 「変わらないなら・・・・中から変える・・・・それだけだ」 「タナトス・・・」 そのままケイに目を移す。 「技術提供専門。後方支援しかしない」 「兄さんらしいね」 「わたしはレイルについて行くよ」 「・・・・良いの、ウィル?」 「良いよ、わたしは・・・。それに答えは一緒だろうから」 「熱いな、相変わらず。よし、俺も行こう」 ケイはぽんとひざを打って言った。 「ど、どういう理屈で・・・・」

空いた口が塞がらない、鳥が巣を作りそうなぐらいレイルは口を空け呆れていた。 「気にするなレイル、俺は猫並に気まぐれだからな」 「わたしはあなた達にお礼したいのです。ついていきます」 そんな賑やかなみんなに囲まれながら僕は歩いて行くのだろう。

遥か遠い未来へ… 闇に閉ざされても… 光に溢れても… ただ先へ…

そして僕らはインフェリアの力になることを決めた。

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