#author("2016-07-17T21:00:17+09:00","default:sesuna","sesuna") [[DAYS]] 今年も誕生日がきた。いくつになったのか、と聞かれるとたいてい、はぐらかすことにしている。 正直に答えても信じてもらえないから。 私が生まれたのはAD2047年7月14日。 今年がAD2117年。 単純に数えて70になる。 ヒトで言うならお婆さんだけど、FSは違う。 自分のなりたい姿をとれる。 私は若い、もしかすると、幼いかもしれない姿を選んで、ここにいる。 ヒトにあわせて年相応の姿をしていれば、驚かれることはないだろうけど、そうするつもりはなかった。 「カシスちゃんは今年でえっと、70だっけ」 「そう」 「そっかぁ」 事実を確認した、という調子で友人の瞬子は天井を見た。 顎に指を添えて、何かを考えている様子。 「誕生日のケーキ、どうしようかなって」 「ケーキならオーソドックスなものがいいわ」 「うん、それで考えておく。あとは、ろうそく」 「70本さしたら賑やかなことになりそうね」 「キャンプファイアーみたいになっちゃうよ」 瞬子は笑う。 「そうしたい?」 「ケーキの表面がぐずぐずになってしまいそうだもの。しなくていいわ」 「じゃあ、太めのろうそくで7本」 「縁起のよさそうな数字だわ」 「10年後には8本。末広がりのいい数字になるよ」 と瞬子は遠くを見る目をして言った。 「10年なんてあっという間よ。あなたの10年後の誕生日も祝うから」 「ありがとう。楽しみにしてる。あれ、どっちの誕生日の話をしているのか、わからなくなっちゃった。そうそうプレゼントも用意しているから、楽しみにしていてね」 「ええ、楽しみにしているわ」 選んでもらった誕生日プレゼントはどんな些細なものでも特別だと思う。 できる限り集めて保存することにしている。 ヒトと過ごした証であり、宝物である。 けれど、私がそうするのはヒトから見ると不思議らしい。 前にハガラズには話した時は、目を丸くしてたっぷり数秒してから大笑いされた。 普段はばっさり切り捨てているのにそういうところは義理堅いのだな、とも言っていた。 何もそこまでいわなくてもいいでしょうに。 そんな彼からのプレゼントも大切にしまってある。 これからも様々なものが贈ったり、贈られたりするだろう。 たとえ、ものがなくなったとしても確かに覚えている。 誕生日を祝うのは、互いに互いを覚えているのだと確かめ合う儀式。 私はこの日を誰かと迎えられることを嬉しく思う。 「なんか楽しそうだね」 「ええ、楽しいもの」 「素直になったね」 「ふふ、そういう日もあるのよ」