『雨上がり』

鳥のさえずりが聞こえる。

非常に遠くで鳴いているようにも、近くで鳴いているようにも聞こえる。

瞼を開こうかと思うが、もうしばらく寝ていたいとも思う。

ふと、頭の後ろに何かがあたっていることに気づいた。

そもそも、此処は自分の部屋ではない、と状況を整理していくうちに脳が覚醒した。

瞼を開ければ、よく知った少女の顔が正面にあり、

「おはようございます」

「おはよう」

挨拶をしてから、ようやく、自分の頭が彼女の膝の上にあることを把握した。

昨日は横に並んで座っていて、雑談しているうちに寝てしまったのか、と記憶を辿る。

もしかして、彼女が膝枕させたのだろうか、と疑問が急浮上。

「可愛い寝顔でしたよ」

急浮上した疑問は彼女の一言に沈められる。

轟沈。

「……」

顔が熱を帯びるのがわかる。

その顔を彼女に見せまいと身体を起こし、背を向ける。

向けたところで、彼女のセンサー類はその変化を見逃さないだろうが。

時計を見れば朝の6時だ。

「朝食を摂ったら出ましょう。バスが来る前に」

「そうだね。でも、準備がまだだろう?」

背を向けたまま、返事をする。

身体に残るだるさを絞り出すように伸びをした。

「出来てますよ。簡単なものですけど」

振り返れば、マグカップには熱めのコーヒー、樹脂製の皿にはトーストされた食パンと目玉焼きが載っている。

いったいいつの間に作ったのだろう?

「私、こう見えてもアンドロイドですから」

笑顔の彼女の言葉をそれは関係ない、と軽く斬りながら彼は彼女には勝てないと思った。