DAYS

「茹でダコー」
と部屋に戻ってきたタコ娘が笑顔で言う。
「誰が美味いことを言えと言った」
「ガイア」
と強烈なカウンターが来た。
笑い死ぬのも時間の問題かもしれない。
「どんな感じの風呂だった?」
「大きかったしいろいろあったよ。それと、熱い」
「マジで茹でダコ?」
「マジで」
「のぼせてないか、大丈夫か?」
「うん。でも、少し涼んでる」
まぁ、元気そうなので大丈夫だろうと思いつつ冷蔵庫から茶を取り出してコップに注いでやる。
「ありがとー」
とやはり笑顔でタコ娘。
元気そうだがしばらく様子を見るか、と顔を見ながら考えていると
「惚れた?」
と声が飛んできた。
「綺麗なのは認める」
と俺は思っていることを素直に言うと、金髪眼のタコ娘は嬉しそうな表情になった。
こういう素直な反応は素敵だ、と思ったが口にするのがこっ恥ずかしいのであえて言わない。
「俺も入ってくる。鍵はどうする?」
「部屋にいるから返ってきたらノックしてね」
「わかった」
実際に大浴場に向かってみれば、内風呂や露天風呂といった定番からサウナやジャグジーといろいろあった。
1時間ぐらいはいられそうだが確実にのぼせる。
女湯のほうも似たようなものだったのか、と考えつつ、身体を洗ってから露天風呂に向かう。
浸かりながら紺に染まり始める空を見上げる。
一日のことを振り返ると、まぁ、遊び倒したな、と思う。
久しぶりに遊んだ気がする。
あのタコ娘といると素に戻れる、そんな気が……とそこまで考えて思考を止める。
これは、危ない、すごく危ない。
何か超えてはいけない一線を超えてしまうようで。
そんなことを考えているとぼーっとしてきた。
浸かりすぎたようだ、とそそくさとあがって、シャワーを浴びる。
脱衣所にある扇風機の風が気持ち良い。
部屋に戻るとタコ娘はまた笑顔で迎えてくれた。
「どうだった?」
「ちょっとだけのぼせたかも知れない」
差し出されたお茶をゆっくり飲む。
よく冷えた液体が喉を通るたびに思考がクリアになっていくようだ。
先とは逆だな、と思っていると視線を感じた。
視線の方向を見れば、タコ娘が珍しく心配そうな顔で俺を見ていた。
大丈夫だ、と言うと良かった、と彼女は笑った。
「なあ」
「なぁに?」
「どうしていつも笑ってるんだ?」
「誠司といて楽しいから」
と彼女は何も臆することなく、いつもの、あの笑顔で言った。
「変かな?」
と俺の顔を見て聞いた。
そこでようやく、俺は自分が驚いた表情をしているのだ、と気づく。
「変ではない。それでいいんだ」
俺が考えすぎていた、それだけだった。