「修理にはどれぐらいかかりそうですか?」
自転車のパンクした後輪を覗きながらアルギズは尋ねた。
タイヤとホイールの間に工具を差し込みながら、
「チューブの状態にもよるけど、30分弱で終わるよ」
とアズリエルは答えた。
「そうですか」
「そこの本屋で本でも読んでいたらどうだい?」
アズリエルの指差した方向には小さな本屋があった。
「修理を任せたまま、というのは気が引けます」
「そっか」
彼はチューブを触りながら穴の位置を確認して、
「ここの穴が見えるかい?」
「これがパンクの穴ですか」
「指で触れてみるとわかるよ」
言われるまま、アルギズはチューブに触れた。
アズリエルがチューブを押すと、穴から空気が吹き出した。
「確かに空いてますね」
「大した大きさではないから、すぐに修理できるよ」
紙やすりで穴の周囲を少し削り、接着剤がつきやすいようにし、接着剤を塗りつける。
あらかじめきっておいたチューブを貼り付けて終了だ。
こういう作業とは無縁そうな彼がなれた手つきでパンクを修理する光景は新鮮だった。
彼とは何度もでかけているが、パンクしたのは初めてだ。
「後は乾いたら元に戻して空気を入れればおしまいだ」
「ありがとうございます」
「僕が自転車を修理するのは不思議かい?」
「ええ、あまり、見ないですから」
「まぁ、そうパンクしても困るしね」
「そうですね。何か、飲み物買ってきましょうか」
「少しのどが渇いてたんだ。えっと」
「緑茶ですね」
「よくわかったね」
「ずっと、一緒にいましたから」