この部屋は何度入っても慣れないな、とハルは石造りの部屋を見回す。 音がもれないように石の壁は分厚く、間には枯れ草などが敷き詰められているという。 この中で剣を交えても誰も気がつかない、と市長のアーサラが真顔で言ったこともある。 それが市長の執務室の隣にある会談用の部屋だった。 ハルから異国の騎士が敵ではないこと、今知られているどこの国の騎士でもなさそうだと聞いたアーサラは、 「敵ではないのはわかったが、報酬の問題は残ったままか」 アーサラは椅子の背もたれに体を預け天井を仰いだ。 「私も他の騎士に聞いてみたが口を揃えて知らないと言っていた」 「直接、聞いてみるのはいかがでしょうか」 「あの少年に頼めばそれもできるか」 アーサラはゆっくりと体を起こし、 「もっと、はやく知っていれば決闘をしなくても良かったのだがな」 「はは、違いないです」 「そうすれば報酬も削れる」 「その発言は騎士との信頼関係を傷つけますよ」 とハルは苦笑いしながら言った。 「すまない。君相手だとつい、な」 「信頼されていると解釈しておきます」 ハルは笑顔のままだがアーサラは姿勢を正した。 アーサラが背筋を伸ばして座ると小柄な体格なせいか、椅子にちょこんと座っている形になってしまう。 たいていの者は見ても顔に出さないようにしているが彼は違った。 吹き出す彼を見てアーサラは、 「それが市長に対する態度か」 「いや、すみません。どうも市長相手だと」 「聞かなかったことにしよう」 「付き合いが長いのも考えものですね」 「同感だ」 そこで二人揃って姿勢を正して、 「あの少年には私の方から連絡する。何かあったらすぐに知らせる」 「わかりました。僕も何かわかり次第、連絡します」